268 緊急招集 海洋拠点に帰還せよ
「未来人!?」
驚くユッキー。
「ボディもリンスもシャンプーも未来人!?」
驚くコシロウ。
「バディさんを含む初期メンバーは確かにそうですが、シャンプーさんは、正直な所、僕達の時代の人か現地の人かはわかりません」
「スト君。話を聞く限り、バディもトリィも全体像を把握してないみたいな感じだけど、一番事情を知っている人は誰なんだ? その……スト君に説明してくれた人とは?」
「それは……」
ストは、口を噤んだ。
「うーん、消去法でいくと科学所長のナディアさんかな?」
「……え!? ナディアさんがこっちに来てるんですか?」
「うん、そうだけど。……スト君、ナディアさんとはどんな関係?」
「ナディアさんは、僕の母です……」
「おかあさん!? ……全然似てないけど」
「あ、いえ……実の母ではなく、父の再婚相手なので義理の母親です」
「……って事は、ナディアさんは社長夫人って事?」
「はい」
「スト君を心配する様子なんて、微塵もなかったけど」
「ナディアさんは研究まっしぐらな人なので……。でも、氷炎竜との戦闘で使った結晶のお守りは、ナディアさんが持たせてくれた物なので、ちょっとは心配してくれていたとは思います」
「スト君に説明してくれた人って、ナディアさんで間違いない?」
「……そうですね」
「詳しい話は、コスモ・ラメールに戻ってナディアさんに聞くしかないか」
会話が一段落した所で、ユッキーのPHSが鳴った。
電話の主は、バディである。
『ユッキー! 大変なの!』
「バディ! 丁度いい所に……色々聞きたい事がっ……!」
『今はそれ所じゃない! 水神ヘキサトリトンが、コスモ・ラメールに嵐を引き連れて接近してきてるの!』
「そういう展開になりますか。……わかった、戻ればいいんだなっ!」
『ナディアの部下達が時間を稼いでくれていると思うけど、この状況を打破出来るのはバスターさんしかいないから! 頼んだわよ!』
PHSが切れた。
「パイセン、どうしたんだ?」
ユッキーに詰め寄るコシロウ。
「コスモ・ラメールに、ヘキサトリトンが迫っているらしい」
「ヤバイじゃん! リンスが危な……コスモ・ラメールの皆が危ない!」
スト、RS・ティラオスを呼んでユッキーの方を見た。
「ユッキーさん、ピンチを連れて先に行って下さい!」
「……でも、皆の前でピンチを披露していいのか?」
「今は緊急事態なので仕方ないです。流石にこんな状況で手荒な真似はしないでしょう。僕もオーガと一緒に後から行きます」
「……わかった」
RS・ティラオスに乗るユッキー。
二号もRS・ティラオスの尻尾に掴まった。
「ユッキーさん! どうかご無事で……!」
「おうっ!」
ユッキー達が飛び立とうとした瞬間、ゲーム内画面に「コスモ・ラメールまでスキップしますか?」と、表示された。
ユッキーは、「スキップしない!」を選択し、雲行きが怪しくなった大空へ飛び込んでいった。
RS・ティラオスに乗ったユッキーは、大樹の森からワイルドサバンナを通過し、海域に接近すると大きな嵐が壁になった。暴風域を避ける為に迂回し、数分間雨に打たれながら飛行して、やっとの事で海洋拠点コスモ・ラメールが肉眼で目える距離まで来た。コスモ・ラメール一帯は、霧雨が降っていて暴風域から多少離れていたが風は強かった。ゲーム内の日も暮れて薄暗くなり、どんどんと視界が悪くなっていった。
RS・ティラオスは、若干不安定になりながらも滑空し、コスモ・ラメール広場上空に着いた所で、ユッキーと共に降り立った。
広場には、ナディアとその部下達、クエストカウンターの前にはリンスがいた。
ナディアは、ずぶ濡れのユッキーに声をかけた。
「よく戻って来てくれました」
「……バディは?」
「今、浜辺エリアでヘキサトリトンの様子を見ています。この拠点にかなり近づいていて危険な状態です」
「わかった。……他に何か言う事はない?」
「他に……?」
「いや……リアルなら聞かない所だけど、ナディアさんはスト君の母親なんだろ? 心配じゃないのか?」
「彼は優秀な子ですから。オーガもついていますし」
「……そういう感じか」
ユッキーは、ナディアの態度に複雑な感情を抱いている様子だった。
一方、RS・ティラオスの周囲をナディアの部下が囲んでおり、RS・ティラオスは小さい咆哮を放って軽く威嚇していた。ナディアの部下達は驚いて、RS・ティラオスから距離を取っていた。
「ピンチ、行こう」
ピンチという名前に反応するナディア。
「ユッキー……記憶を取り戻したの?」
「えっ? 全部じゃないけど……」
「ごめんなさい。何でもないわ」
「……?」
ユッキーは、RS・ティラオスと共に海へ。
二号も、悪い手癖な感じでフォトを撮りながらユッキー達に付いて行った。
バカンスで賑わっていた浜辺も、このイベント中は大嵐となり他プレイヤーは不可視となっている。
波が次々と押し寄せる中、海上には巨大な何かが見えていた。黒々と渦巻く怪物のように見えるそれは、禍々しすぎて手が付けられないような状態だった。更に淡いブルーが点々と火花のように発光し、異様な空間を拡張し続けていた。
バディは、双眼鏡を使って渦巻くを海上をみており、ヒジカタとハナも、強い雨風を耳に受けながら遠くの方を見ていた。
ユッキーは、バディに声をかけた。
「バディ……!」
「ユッキー! 来てくれたのね!」
「色々聞きたい事はあるけど、まずはアレだな」
「ユッキーは凄腕のバスターだから、やれるやれるっ! ……って、思ったけど……流石にアレは無理ね」
「無理って……じゃあ何で呼んだんだよ。……俺が何とかしないといけないんだろうけど」
「ユッキーが拠点の強化を手伝ってくれたら……」
「え? そっちのルートなら回避出来たの?」
スト完全放置ルートを選ばないと、海洋拠点強化はどの道間に合わない。なので、九分九厘はヘキサトリトン襲来ルートになる。
こんな状況でアレだが、襲来ルートは正規シナリオなので、ある意味問題ない。
「……スト君を探しに行かなければ、間に合ったかも」
「さっきから、言い方がいやらしいな」
ユッキーは、目を細めてバディを見た。
ヒジカタは、そんなユッキーに気が付いて近づいた。
「ユッキー殿!」
「ヒジカタ……! 大丈夫か?」
「拙者は大丈夫だ……」
ユッキーは、荒れ狂う大海原を見た。
「あの発光している青いのって……」
「サザンクロス・デュークを倒した時に顕現した青い鳥が、ヘキサトリトンに悪い影響を及ぼしているようだ。……それより不甲斐ない話だが、結局の所拙者は、TIMカンパニーの不審な点を暴く事ができなかった」
「気にすんなよ。こっちは、色々進展があったぜ」
「何がわかったのだ?」
「……色々とな。まずは、あの水神とやらを倒そうぜ! 何か策はないか?」
「策は、ない事もないが……」
「あっそうだ。これは言っておかないとな」
ユッキーは、RS・ティラオスのいる方を見た。
「あの飛竜は、俺が最初に出会ったティラオスで元はハスキルーだったんだぜ」
「拙者が山岳エリアまで偵察しに行った時に見た竜であるな……。ティラオスがスカイ・ティラオスになって……更に進化したのか」
「ハスキルーだった時はピンチって名前だったらしいんだけど、この名前に聞き覚えはない?」
「知らない。何も思い出せない……」
苦しむヒジカタを見て、ハナが近づいて来た。
「お父しゃん……大丈夫?」
「大丈夫だよ、ハナ」
ヒジカタ、ユッキーの方を見る。
「オーガは守る為の力を欲してモンスターとなった。多分、ピンチとやらも……。拙者も守る為の力が欲しい」
「えっ……?」
「ユッキー殿、覚えているかい? 拙者に何かあった時は、ハナを頼んだと言った事を……」
ヒジカタは、押し寄せる波に向かって走り出した。
「今が、その時なのだ……!!」
「ヒジカタ、フラグビンビンだったけど、やめろ! やめるんだ!」
「お父しゃん……! 行かないで!」
「チョマテーヨ!!」
ハナ、ヒジカタの後へ続こうとする。
「やだやだ、お父しゃん行かないで! 行っちゃやだぁ!!」
「ダメだ! ハナちゃん!」
RS・ティラオスは、駆けるハナの前に翼の壁を作ってから首を横に振った。
ハナに追いついたユッキーは、ハナを抱きかかえた。
「お父しゃぁぁぁん!!」
波間に揺れるヒジカタは、天を見上げた。
「何や、あのかっこいい犬は……」
ユッキーは、ヒジカタを見て呟いた。
「ワオォォォォォオォオオオオオオオオオン!!」
ヒジカタが渾身の遠吠えをすると、天高い場所から青い鳥の群れが出現し、それらが一斉にヒジカタに向かってバードストライクした。数百羽以上集まった青い鳥の大群は、ドンドンと肥大化して膨らみ、青白いプラズマを発生させながら発光して周囲の空間を歪ませていった。そのカオスの頭上に早送りの早さで雷雲が発生し、凝縮された大群目がけて稲妻を落とした。




