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267 反撃の狼煙 原初たる火竜爆誕

 NクラスのラスボスでSクラス個体であるS・ティラオスと、Tクラスの終盤ボスレベルの個体であるT・レックスとでは、埋められない圧倒的格差があった。

 万全状態のS・ティラオスと瀕死状態のT・レックスによる乱戦だったが、T・レックスの方が優勢だった。

 T・レックスのヘイトは、プレイヤーからS・ティラオスに移り、S・ティラオスは追い詰められて瀕死状態に。

 そんな時だった。


「……ピンチ!!」


 A・ティラメスに乗ったストが、戦闘エリアに駆け付けた。

 ストは地上に降りて、息も絶え絶えなS・ティラオスに向かって叫んだ。


「ピンチ! 頑張って!」


 ストは、ユッキーの方を見る。


「ユッキーさんも、ピンチを応援して下さい」


「え……? あ、うん」


 ユッキーは、S・ティラオス本名ピンチの方を見た。


「ピンチ! 頑張れっ!」


 NANAも拳を上げて応援。


「ピンチ君! 頑張って!」


 REI、腕を組んで首を傾げる。


「僕の時は、こんなイベント発生しなかったけど……」


 NANA、REIの方を見る。


「スト君の好感度が低かったんじゃない? ほら、REIも応援して!」


「ストちゃん、がんばえー!」


 REIも応援。

 二号は写真を撮りまくりながら……。


「お前の雄姿は写真にバッチリ収めてやるワン! 頑張るワン!!」


 ユッキーの掛け声は熱くなる。


「頑張れピンチ! ピンチはチャンスだぁ!!」


 S・ティラオスは、目をカッっと開いた。その刹那、エメラルドの鱗は紅蓮の炎に包まれ、巨大な翼が赤く赤く燃え上がり、全身がルビーのフレアで光輝いた。


「レウスゥゥゥカァァァイッッ!!」


 ストは、新たに爆誕した紅の竜に近づいた。


「レウスカイ・ティラオスに進化した!!」


 ユッキー、キュッとストの方を見る。


「レウスカイ・ティラオス!? もう名前、決めたんですか!?」


 スカイ・ティラオスは、レウスカイ・ティラオスに進化した。

 「時空爆発タイムバーン・レックス」のメインクエストまでに、S・ティラオスの助太刀乱戦が五回以上(SC・デューク戦含め)起きると、その時点でRS・ティラオスに進化するが、このメインクエストで助太刀乱戦を発生させると条件回数に満たなくても進化する。

 更に、ストの好感度が高いと特別なイベントを見られるようになっている。


 ユッキー、またキュっとRS・ティラオスの方を見る。


「あの火竜、某ハンティングゲームのメインモンスターに似てるけど、著作権的に大丈夫なの!?」


 ユッキーは、歯をガタガタさせて怯えていた。

 RS・ティラオスのグラフィックは、モンハァンの○○レウスをモデルにして作られているので、容姿は酷似している。ニ八二七年において、モンハァンは八百年前のゲームなので、著作権的には大丈夫なのだ……!!


 RS・ティラオスは、劫火の炎翼を羽ばたかせて上空に飛び上がり、大技「火竜の滅炎」をT・レックス目がけて放った。

 爆熱の火炎光線を浴びるT・レックス。


「ティレレノレレレレェェェ!!!!」


「4000」ものダメージを受けたT・レックスは息絶えた。

 ユッキー達は、「時空爆発タイムバーン・レックス」のメインクエストをクリアしたのだった。


 拠点に戻って来たユッキーは、クエストを手伝ってくれたNANAとREIにお礼を言ってから別れ、その日はログアウトした。

 

 次の日、ユッキーはスカイホライゾンからログインし、二号と一緒に大樹の森へと向かった。


 大樹のある小高い場所まで輸送してくれたのは、先ほど進化したRS・ティラオス。体躯が進化前よりも大きくなっており、ユッキーは乗る際に緊張していた。

 青く広く大きい空を火竜の乗って滑空するユッキーは、とても気持ちよさそうだった。どうやら緊張の糸は解れたようだ。

 大樹に着くと、ストとA・ティラメスが出迎えた。そして、ふもと付近をウロウロしていた所をA・ティラメスに拾われたコシロウもいた。


「スト君、奴を倒してきたぜ!」


「……ユッキーさん、大変な相手を……ありがとうございました」


「まぁ、俺一人の力じゃないんだけど……。それで、約束通り知っている事を教えてくれないか?」


「そうですね……話せる事なら……。ユッキーさんは何を聞きたいですか?」


「スト君は、何時頃からジュラシックモンスターの中に、元ハスキルーがいるって気付いていたんだ?」


「……最初からです」


「最初から……!?」


「……マジかよ!」


 コシロウが、話しに割って入って来た。

 ユッキーは、コシロウの方を見る。


「コシロウは何でいるの?」


「ティラメェちゃんに、ここまで運んでもらったんだ!」


「ティラメェ!」


 A・ティラメスが、和やかに鳴いた。


「コシロウさんが、僕の代わりに代表代理となったんですよね。ありがとうございます」


「少年、元探偵バスターで現TIMカンパニーの代表代理になった俺を、もっと褒めていいぞ」


 ユッキーは、コシロウの位置をそれとなくずらしてストの前に出た。


「スト君……話を戻すけど、最初から知っていたっていうのはどういう事?」


「この地に来る前に、そう……説明を受けました」


「少年、俺はモンスターが元ワンちゃんだなんて話、全然聞いてないぜ?」


「コシロウさんは、現地の人なので詳しい事情は教えてもらえないでしょうね」


「そりゃ、あんまりだぜ!」


「最初からって事は、バディもトリィも最初からこの事を知っていたのか?」


「……どうでしょうね。バディさんにも聞いてみました?」


「何時知ったのかは、覚えてないと……。トリィは教えてくれなかった」


「二人の本心は僕にもわかりません。ただ……ジュラシックモンスターと戦う事自体は、悪い事ではないんです。相手はただ遊んでいるつもりなので……」


「元がハスキルーなら、じゃれ合ってるだけっていうのも……わからなくはないけど、死ぬかもしれないのに遊んでるだけって……」


「僕もよくわからなくなってしまって……」


 ユッキー、胸に手を当てて神妙な顔をした。


「何がなんだか、ヨクワカラナクナッテキタ」


 二号、前に出る。


「こんな時だけど、皆で記念撮影いいかワン?」


「いいですよ」


 撮影に応じるスト。

 ユッキーとコシロウの間にストが入って、RS・ティラオスとA・ティラメスが両端の位置付いて、写真を一枚撮った。

 スト、二号に近づいてなでなでした。


「二号さんはいいですね」


「何がだワン?」


「こんな時でも、自分の好きを貫けるのは羨ましいです」


「自分はいつもこんな感じっス。それと、皆悩んでいるみたいだけど自分はネタバレを見たので、もうお前達の正体は知ってるから別に何て事ないワン」


 雷に打たれたように「何だってー!」的な表情を浮かべるスト。


「二号さん達には、もう……僕達の正体がバレていたんですね……。なら、話さすしかない」


 ユッキー、二号にバタバタと近づいて、ほっぺをびよーんと伸ばした。


「ネタバレ的なコメントで、シナリオを進行させるんじゃーないっ」


「ごめんなふぁい」


 ストは、意を決した様子で口を開いた。


「ユッキーさん……」


 ユッキーは、ストの方に向き立った。


「別に、無理して話さなくてもいいよ」


「いえ、話します」


「意志が固そうなので、聞きましょう」


「僕達TIMカンパニーの職員は……未来人です」

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