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261 金冠祭について

 二八二七年三月十日。午前零時過ぎのルームにて。

 イージャンの周回を重ねた事で、ユッキーのランクは、BR「100」、HBR「51」になった。集会の周回に途中参加したオジョーも、BR「180」、HBR「122」になっていた。

 ルームにいるのは、ユッキー、オジョー、NANA、REIの四人。

 TEOは仕事で、二号はイージャン周回でやる事がなかったので不在だった。

 ユッキーは、NANAとREIにお辞儀をした。


「NANA師匠、REI師匠、ありがとうございました!」


「ユッキー君、よく頑張った!」


「ユッキーちゃん、頑張ったね」


「ハイッ! 師匠たちのお蔭です!」


 ユッキー、オジョーにもお辞儀をした。


「オジョーの姐御も、ありがとうございやした!」


「姐御はやめて……? 一応同い年だし……それに、何で私だけマフィアの幹部みたいな感じなの?」


「オジョー、ありがとうございやした!」


「……まぁ、いいか。いえ、どういたしまして」


 ユッキー、再びNANNを見る。


「TEOの兄貴にも、お礼を言っておいて下さい」


「りょーかい」


「ちょっと疑問なんですが、何で締めに入った感じの空気なんでしょうか? もう周回は不要という事なんでしょうか?」


「……ユッキー君、知らないの?」


「はて?」


「今日は、ジュラシックバスターの六・五周年公式アニバーサリー配信があるから、貴方とゴリラ周回してる時間は無いわよ」


 NANAの言う通り、本日十九時から公式のハーフアニバ―サリー配信がある。

 ハーフアニバーサリーなので、そこまで目ぼしい情報は出ないが、僕がテストプレイした新武器二種の紹介があったりする。

 ジャストでのハーフアニバーサリー記念日は、三月十二日となっており、その日からハーフアニバ―サリーフェスが始まる。


「そうでしたか」


 REIが、話に加わってくる。


「フェスで金冠祭もあるしね。……本当にまいっちゃったよ。忙しい時期に、ゴリラ周回を付き合わされるなんて」


「金冠祭?」


 金冠祭とは。

 モンスターの最大サイズと最少サイズが出るフェス期間である。

 フェスが始まってから二週間事に、最大最少サイズが出るモンスターが変わっていく。全てのモンスターが一巡するまでにニか月かかるので、かなりの長期間開催となる。一方で年二回しか開催されないので、この時期のサーバー負荷は恐ろしい事になる。

 金冠祭が実装されたのは、一・五周年アニバーサリーフェスの一週間後で、その時は、一気に当時のモンスターの最大最少サイズを全て解放した為、サーバーがダウンして一騒動起きた。そういった失敗もあって、モンスター解放は分割という形にしている。

 全プレイヤー中、最速で最大最少サイズを発見して討伐したプレイヤーには、その討伐したモンスターの特別なチャームがプレゼントされる。その為、特定モンスターの推しがいる場合、チャーム欲しさに死に物狂いで周回しなければならない。

 それ以外にも、最大最少に関してはメダルコンプリート要素が絡んでいる為、この時期に周回しないとメダコンができない。現時点でのジュラバスでは、金冠祭以外で最大サイズと最少サイズが出現しない。この点においては、よくご意見が届いており、七周年アプデから金冠祭の恒例化が検討されている。

 REIは、三期連続でクリスタル・デュークの最大最少のチャームを入手しており、今回の金冠祭も当然チャームを狙ってくるだろう。


「金冠祭っていうのは、モンスターの最大サイズと最少サイズが出現するフェスで、最速プレイヤーには推しモンスターのチャームがプレゼントされるんだ。勿論僕は、クリス様のチャームを狙っているから、本当はここで油売ってる場合じゃなかったんだよね」


「お忙しい所、すいやせんでした!」


「NANAさんは、何狙いなの?」


「私は、太陽王妃が手に入ればいいかな。恒例化するって噂もあるし、別にそこまでって感じ」


 情報が漏れているのか?


「そう。じゃぁ、僕はここらでお暇するから。……あ、そういえばユッキーちゃん、クリス様をもっと知りたいって言ってたよね?」


「ハイッ!」


「金冠祭が始まったら招待送るから、僕のルームに来て」


「えっ? あっ……フレンド申請がきました」


「承認しといてね」


「REIさん、フレンドありがとうございます!」


 NANA、挙手。


「私にフレンド申請は?」


「高貴なNANAさんの手を煩わせるのも悪いから」


「そうだったのね! 気を使わせちゃって悪いわね!」


 ユッキーとオジョーは、嫌味だと気付いている感じの顔だったが黙っていた。


「じゃぁ皆さん、ヴィーセス!」


 REIは、ルームを退出した。


「ヴィーセス……?」


 ユッキー、オジョーの目を見る。


「スウェーデン語で、またね……って意味らしいわね。REIのプロフィール見ると、スウェーデン人みたい」


「そこは翻訳されないんだな」


 ぴょんぴょん跳ねて手を上げるNANA。


「私のプロフィールとかSNSも見なさい!」


 ユッキー、ゲーム内携帯端末を見る。


「えっと国籍はアメリカ……ハワイ……本名、国枝ナナリー……!?」


「ソーナノ! 私日系人なの! だからユッキーには親近感湧いちゃってさー」


「あーなるほ」


「兄さんは今、テオドールって名乗ってるけど、本名は国枝ルルージュって言うのよね」


 引き気味のオジョー。


「NANA貴女……家族の個人情報を勝手に……」


「NANAさん、この車椅子に乗ってデコレーションしてる写真可愛いですね」


「でしょでしょ? 私だって、ちゃんとモデルとして活躍してるんだから」


 妙に気の合う感じのユッキーとNANA。

 オジョーは、もう突っ込むのをやめた。


「NANAさんは時間大丈夫ですか?」


「いっけねー! 私も明日に備えて寝るわ。ユッキーも明日の配信見なさいよ」


「ハァイ!」


 NANAは明日と言っているが、日付けが変わっているので今日である。


「私はオートマさんのミラー配信見るから。ユッキーも良かったら、オートマさんの方を見て。絶対……ティン……って言ってるから」


「わかりました……ティン……ですね。俺も、ティンを探してみます」


 もうティンでいじるのは、ヤメタゲテヨォ!


「ユッキー君、ソフィア、アローハ!」


 NANAは、ルームを退出した。

 オジョーも、疲れ気味に「じゃぁ私も……」と言って退出し、ユッキーもログアウトした。

 

 現在の時刻から約十八時間後に、六・五周年ハーフアニバーサリーの公式生配信が行われる。

 僕も公式の方じゃなくて、オートマのミラー配信の方を見てみようかな。

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