255 レッツ スパルタン トライクラス!
今回のメインクエスト名は、「海上戦序曲」。Tクラスは、クエスト名から討伐モンスターが予測できない場合が多い。
この「海上戦序曲」は、全プレイヤー共通のメインクエストとなっている。
クエストへと出発する前に、NANAから指導が入った。
ネタバレを気にするユッキーに、ボスの情報を事前に調べる事を示唆。実装直後のクエストならともかく、実装してから一年以上経っているコンテンツなので、情報収集不足は足手まといになりかねず、場合によっては地雷扱いされかねない。第一エンディングクリア後の難易度なら尚更である。
一応クエストに出発する前に、バディを含む複数のNPCと話せば、弱点などのヒントはもらえるようにはなっている。
戦うモンスター名は、「氷水魚アイスドン」。
Nクラスの「地魚アストドン」、Sクラスの「溶魚ガストドン」に連なる、それぞれのクラス序盤に戦う恒例魚系ボスモンスターである。
通常の状態とクール状態が氷属性、ヒート状態が水属性となる。
初見は、火力の火属性武器と、ヒート状態に火力の出しやすい雷属性の二人以上で挑むのがベター。ソロで行くなら、どの状態でも火力の出る雷属性がマスト。ソロの火属性はヒート状態で火力が出ない為、おススメできない。
この時点で、メイン火属性、サブ雷属性の生産武器は入手出来ず、理想属性武器が欲しいなら、サークルクエストでオーパーツウエポンを発掘する必要がある。
まずは装備の見直し。武器屋に行く。
ナディアの部下が販売をしており、Tクラスの武器の説明を受ける。
Tクラスの武器は、メイン属性とサブ属性があり、それを切り替える事で、敵モンスターの属性変化に対応し有利に戦う事が出来る。属性変換は制限時間を「1%」消費する仕様となっており、このギミックを利用しないと、後半の敵はほぼクリアが難しい難易度となっている。
現時点で作れるTクラス武器は、サザンクロス・デュークの武器のみで、今回戦う敵とは相性が悪い為、Sクラス属性四天王であるテイデンスサノオの素材で製造可能な雷属性の大剣に変更した。流石にこのクエストの為に、サークルクエストには行かないようだ。
防具は水と氷属性に耐性のあるクリスタル・デュークの素材から作れるクリスタルシリーズの防具に変更した。こちらはいくつか製造済みなので、防御力だけを強化し上昇させた。
現在の装備をセット登録し、相性のいいモンスター相手にすぐ装備変更出来るようにしておく。ユッキーは、戦うモンスターによって細目に装備を変えるという事を、NANAから教わった。
次に道具の見直し。道具も予め必要なものを揃えてセット登録。
ヒーラー禁止のサークルリーダーであるNANAは、「光の粉」などの全体回復アイテムを(背水スキルの邪魔になるので)所持しないが、ユッキーにはちゃんとフルで持たせていた。
まだ準備は終わらず、お供枠ハスキルーの二号にも装備のメスが入る。便利屋のハナに話しかけて、武器も有利属性である雷属性に変えておく。このタイミングでハナに話しかけると、ハスキルー用の海上歩行装備「SWR」を入手出来、バスター同様、ハスキルーも海上を走れるようになる。ここでハナに話しかけないと、初見はハスキルーの行動が制限されてしまう。SWRを最速で入手できなくても、「海上戦序曲」のメインクエストを一度こなせば、ハナから話しかけて来るので、自動入手出来るようになっている。
最低限の準備を整えた所でいざ出発……と思いきや、今回のクエストは、ユッキーの希望で二号はお留守番という事になった。
ユッキーの完全ソロで、クエストスタートした。
マップは、Tクラス初出となる「海上荒廃都市」。廃墟と化した街並みが海上にぽつぽつと点在する亜空間で、一面海だけのマップや、宙に浮いた建造物など、独特の空気感のあるマップとなっている。
エリア数は初期の時点で「10~15」と、最初から広い。
宙に浮いた屋根の無い建物といった感じの初期エリアに、ユッキーがポツンと一人佇む。周囲は一面海。スタート時点にユッキーだけというのは、僕が彼を追い始めてから初であり、今までにない緊張感があった。
今回引いたエリア数は「12」。
ユッキーは、救援を出してから討伐対象のいるエリアまで海に落ちないようにして走った。建物の残骸や瓦礫の山をつたってモンスターのいるエリアまで向かう。
途中BRとHBR二桁のプレイヤーが救援に入り、ユッキーがアイスドンと接触するまでには、もう二枠が埋まり、四人のフルメンバーとなっていた。
Tクラスのメインクエストでは、「メモリーピース」というアイテムがドロップする。略して「MP」。このアイテムは、クエスト受注者が使用する事によって、参加するプレイヤーのクエストランク制限を無視して、特定のクエストに参加させる事が出来るようになる。一回のクエストで一つ消費する為、ストックがある事にこした事はない。フレンドのランクが低いが、難易度が高くランク制限のあるクエストに一緒に行きたい場合は、便利なアイテムとなっている。
「MP」は割と需要のあるアイテムなので、Tクラスではオーソドックスなモンスター相手でも、メインクエストの救援は簡単に人が集まる。
アイスドンのいたエリア「6」は、エリアの外側が廃墟で、中心部一帯が海上という場所。ユッキーが、アイスドンと相対すると、アイスドンは雪を降らしてからエリア一帯を氷漬けにした。武器が覚醒し制限時間が発生する。
BGMは「水上に轟し猛攻」。
新たに迫りくる波に焦りながら戦うバスターの心境を現した楽曲となっている。
この楽曲は、某凍て地のアレンジ曲になっているらしい。
氷の海を縦横無尽に泳ぐアイスドンに対して、大剣装備のユッキーが上手く立ち回れない中、救援プレイヤーのライトライフル使いと、ツイスター使いと、魔導弓使いが、瞬間移動で「よろしくお願いします!」と自動チャットを入れながら飛んできて、目にも止まらぬ速さでアイスドンに猛攻を加えてフルボッコし、三人の野良プレイヤーが、ものの数分で倒してしまった。
ポカーンとしていたユッキーは、剥ぎ取りを終えたプレイヤーを見て、剥ぎ取り忘れに気付き、剥ぎ取りに行く。
ユッキーは、剥ぎ取り中にTクラス序盤のメインクエストを終えた。
ユッキーのランクが、BR「17」、HBR「4」に上昇する。
クエストから戻って来たユッキーに、NANAが声をかけた。
「野良の厳しさは知れた?」
「いぃえ」
NANAの質問に、ユッキーは何だったんだアレは的な表情をした。
オンラインのギスギスが発生するのは、超高難易度で成功率の低いクエストがほとんど。実装してから暫く経ったメインクエストでギスギスする事はほぼ無い。
ハルガは、ユッキーに対して「野良の厳しさを知れ! キリッ!」みたいな事を言ったものの、当時とは環境も違う為、現状そういった事態に遭遇する事は少ないと思われる。
それであれば、NANAとプレイしようが、野良とプレイしようが、キャリーされる事に変わりはないので、ユッキーは、NANAと一緒にメインクエストを進めるという方向性に意志を固めたようだった。
次の日。
今日も最初は、ユッキーと二号のみでスタート。
広場にいたナディアの頭上からクエスト進行のアイコンが吹き出していたので、ユッキーはすぐに話しかけた。彼女に話しかける事で、特殊装備枠のスカイリングに瞬間移動機能が追加される。
瞬間移動は、モンスターとプレイヤーが一番集まっているエリアにワープするといった仕様で、クエストの途中参加ですぐに戦闘エリアに移動したい場合や、即座に戦線復帰したい場合に役立つ。緊急回避としても使えるが、基本、戦闘エリアへのランダムワープなので、ボスモンスターによるエリア全体への大技では被弾するケースが多く、緊急回避は敵の中火力技向きとなっている。
属性変換同様、時間制限を「1%」消費するので、乱発するとすぐにタイム制限でクエスト失敗となる。それ以外の難点を挙げると、エリア内ワープの箇所を精密には選べないので、乱戦中にワープすると場合によっては危険でもある。
ユッキーは、コスモ・ラメールの広場でリンスと会話をしていたコシロウに、「スト君を探しに行こう」と話すと、リンスが横からクエストの依頼が来ていると、ユッキーに言ってきた。
ユッキーがクエストの内容を確認すると、メインクエストが二つ発生していた。クエストは「天地乱舞」と「陸と岩の激震」の二つで、「天地乱舞」は、スカイ・ティラオスとアース・ティラメス、「陸と岩の激震」は、イビルゲイとデビルゲイの討伐クエストになっていた。どちらのクエストも、NクラスとSクラスの難敵ではあるが、Tクラスのプレイヤーにとっては、そこまで難しい相手ではない。
Tクラスに移行するまでの討伐数が少ない、もしくは無い場合、メインクエストの相手に選出されるケースが多い。
専用BGMのあるモンスター達だが、Tクラスのメインクエストで流れるBGMは、「水上に轟し猛攻」となっている。
ユッキーは、「天地乱舞」のクエストの相手に難色を示したが(勿論、ストと一緒にいる飛竜とは別個体)、その事をコシロウやリンスに伝えると、どこからともなく前回の様にNPCがやってきて「お願い!」コールをし、何が何でも断れない空気感を作り出していくので、仕方なくこのメインクエストを受ける事にした。
ユッキーは招待でNANAを呼び出し、数分後にはオジョーとも合流したので、ここからのメインクエストは、三人と一匹で進行する事となった。それぞれのメイン武器を見てみると、ユッキーは大剣、NANAはジェットofランス、オジョーは魔導弓といった装備となっており、この編成でメインクエストへと挑むようだった。
「天地乱舞」のクエストマップは「海上荒廃都市」で、このマップに慣れていないと飛竜系等のモンスターとはやりにくいのだが、主にNANAが切り込み隊長として火力を出し、オジョーが閃光サポートに徹し、難なくクリア。
続いて挑む「陸と岩の激震」のクエストは、初出となる「氷海」。
エリア数は「10~15」と「海上荒廃都市」と同じだが、陸地が多い分、海上よりは戦いやすい。オジョーが睡眠弓でサポートし、主にNANAが火力を出し、難なくクリア。
戦い方を見ていると、NANAとオジョーは、ペアで結構やり慣れている感じがした。その熟練ペアに、ユッキーは敵ダウン中の火力となり、二号はその様子をフォトモードで撮っていた。
ユッキーのランクが、BR「20」、HBR「6」に上昇する。
ここで、NANAとオジョーがログアウト。
二号を連れたユッキーが、広場にいるコシロウに話しかけると、再びリンスがクエストを紹介しそうになったので、ユッキーは「お嬢さん、また今度ね」と言って話を遮り、コシロウに面と向かって「スト君を探しに行こう」と言った。
するとコシロウは、ルアーキャッスルにいるトリィから、「スト君が飛竜達と一緒に上空を飛んでいる所を見かけた」という話を聞いたと言ってきた。
ユッキーが、コシロウに「俺も一度トリィさんに会って話がしたい」と言うと、突然、PHSが鳴り出した。PHSの存在なんてすっかり忘れていた感じのユッキーは、携帯端末をこめかみ近くに当てた。竜人スキンなので耳の位置がずれているが、元のアバターの耳配置で問題無く音は聞こえる。
PHSをかけてきたのはバディで、三拠点のクエスト受付カウンターだけではなく、PHSからバディを通して、クエストを受注出来るようになったという趣旨の話をしてきた。
闘技場やレイドなど、一部コンテンツはクエスト受注カウンターを通さないとプレイできないが、メインクエスト、サブクエスト、サークルクエストなど、一般的なクエストはPHSから受注可能となった。
ユッキーは、「久しぶりにトリィの所に行くけど」とバディに伝えたが、バディは「彼には彼の夢があるから」と、そっけない返事だった。
ゲーム内の街並みが夕陽の橙に染まる中、ユッキーは、二号、コシロウと共に港へ行き、数日間滞在したコスモ・ラメールに思いを馳せながら、この場所に別れを告げた。




