238 クール状態と助太刀乱戦
「なんじゃこりゃああああああああああああああ!!」
「ユッキーは戦闘不能になりました」とのチャットが流れた。
「ユッキィィィィィ!!」
叫ぶオジサン。
特大光線は、ガードしているプレイヤー二人以上で追撃が飛んでくる。
SC・デュークの攻撃標準はオジサンに移り、オジサンは特大光線をモロに喰らって体力がゼロになった。
「オジサンは戦闘不能になりました」とのチャットが流れた。
避けろと言われて咄嗟に避けれたら苦労はしない訳で、乙るのは予想通りの展開でした。ありがとうございました。
SC・デュークの大技「メドアロー」は、百熱の火炎と絶対零度の氷を融合させた特大光線で、直線状に飛んでいく。技名の元ネタは某大冒険と言われている。百熱の部分は灼熱が正しいのだが、この技はあえてこの表記にしているらしい。百と零の対比を表現している。デューク系統の特徴として、体力の一番低いプレイヤーを狙う。ガード者二人以上で追撃が発生し、残った三人の中で体力の一番低いプレイヤーに追撃が飛んでいく。勿論ガード貫通技であり、即死技とされる。「される」という表記を使用しているのは、この技を防ぐ方法がある為。このメドアローは、当たると大ダメージという技ではなく、猛スピードで「HP100%」分を減少させている。その為、回復速度の速いリジェネスキルか、攻撃する事で体力を回復させる事の出来るスキルがあれば対策可能となっている。
二人が戦闘不能になったので、一人当たり一時間あった制限時間が四分の一に。ヒート状態のモンスターがいると制限時間消費が倍になるので、Tクラスギミックの制限時間管理は相当難しい。
複合種は、大技を撃っても確定でヒート状態が解除されない。
SC・デュークは上空を暴れ回り、火炎と氷撃をまき散らした。
十秒のクールタイムを経て、ユッキーが戦闘エリアに復活。その同タイミングで、ハルガは暁玉を使用。SC・デュークは酩酊状態に。その数秒後にオジサンが復活した。仲間プレイヤーが復活するタイミングでアシストしないと、追撃で連続の戦闘不能となり得る。
C・デュークの時にあった能力の閃光カウンターなのだが、SC・デュークは進化時にその能力を失っている。回復阻害の能力はあるが、ヒート状態の時は雪が降らないので、回復阻害はしてこない。
閃光カウンター消失は、不貞の四天王のクエストクリア後のイベントで暁玉と朧玉を投げる際に、SC・デュークに効果がある事でわかるようになっている。
復活したユッキーとオジサンは、再び盾を構えてガード。
SC・デュークの火炎ブレスを防いだ。
「ハァ……ハァ……」とユッキーの息が荒い。
オジサンも汗を垂らし、緊張してるようだった。
ハルガはというと、SC・デュークの攻撃を交わしてばかりだった。
これは多分、ユッキーとオジサンの戦い方を見ているのだと感じた。速攻で倒そうと思ったら、閃光を撒きながら特攻しているはずだ。……でもハルガ、そろそろヤバいぞ。再度、SC・デュークの大技が二人を狙って二乙したら、制限時間が足りなくなる。
SC・デュークが、地上に足を付いてバックステップを踏んだ。
初見では気付きにくいが、メドアローの予備動作だ。
ハルガは、暁玉を投げてSC・デュークを酩酊状態した。二撃目を二人が避けられないと判断したのだろう。
ハルガは属性変換をし、武器を水属性にしてSC・デュークの懐に潜り込んだ。そこで双剣乱舞し、SC・デュークがダウン。ヒート状態が解除され、クール状態に移行した。SC・デュークの全身が、一気にサファイアの青に染まった。
エリア内の全てがスローモーションになった。燃え盛る炎もゆっくりと揺蕩う。
ハルガは再び属性変換。水属性の武器を火属性に。
ハルガ、ユッキー、オジサン、コシロウのスローモーションが解除された。
ハルガは、スローでもがくSC・デュークに猛攻を仕掛けた。減少していた制限時間が回復していく。
「パイセン! 何かチャンスっぽいです!」
コシロウの叫びに、ずっとガードしていたユッキーとオジサンはガードを解除。二人は頷き合い、慣れないランスでSC・デュークを攻撃した。十五秒の大ダウンが終わり、SC・デュークは通常状態に移行。咄嗟に飛び上がった。
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
SC・デュークが咆哮を放つと雪が降ってきた。
地表の炎が瞬時に消え去る。
「なんか技が来ます!」
初見の敵相手に、技の発生タイミングを教えてくれるコシロウ。
ある意味有能である。
ユッキーは、息を切らしながら辺りを見渡す。もはや、冗談を言いながらしゃべっている余裕が無い。
SC・デュークが少し高い位置で滑空している様子を見て思い起こされるのは、F・ウォーズの必殺技である「バーニングフレアノヴァ」の大爆発。
顔面蒼白にになるユッキーとオジサン。
だが、このモーションからの大爆発はない。
ユッキーとオジサンの足元を中心に、文房具のコンパスの幅を狭めていくように回転した光が集中する。
「足元から氷が突き出して爆発する! 避けろお前ら!」
叫ぶハルガ。
ユッキーは、一瞬ガードモーションを取ったが、回避を選択しローリング。ガードしようと思った所、ガード貫通が脳裏を過って選択を変えたのだろう。オジサンもローリングで避けた。ユッキーとオジサンの元々いた場所から氷のランスが突き出した。
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
「何っ! 今度は何っ!?」
何処から飛んでくるかもわからない攻撃に、あたふたするユッキー。
SC・デュークは、真下にダイブし、地中に次元の穴を空けて潜り込んだ。氷のランスはじわじわとルビーの紅となって肥大化し、大爆発した。
ユッキーとオジサンは、エリアの端まで全速力で逃げたので被弾しなかった。
SC・デュークのアイスランスからの大爆発は「テクニカルアイスノヴァ」と呼ばれる技。F・ウォーズの技が多数追加された中で、この技はSC・デュークのオリジナル技となっている。逆にF・ウォーズの必殺技である上空での大爆発はしてこない。通常状態での火属性要素は「テクニカルアイスノヴァ」のみである。
技を放ったSC・デュークは、地上に戻る。両翼はルビーサファイアの配色に戻っていた。通常状態ではC・デューク寄りの性能で氷技が増える。雪が繰り出したので回復阻害もしかりだ。
ハルガは、ヒート状態時とは違って責めに転じた。アクロバティックな動きで蝶のように舞い、SC・デュークを追い込んでいく。ハルガの動きは、ツイスター装備特有のものであるが、本人もある程度の運動神経と反射神経がないと、この動きはとれないだろう。
エリア端にいるユッキーとオジサンは、ハルガがSC・デュークを追い詰める様子をじっくりと見ていた。
SC・デュークに攻撃する度、残り僅かな制限時間が増えていった。
「……すごい。俺もあんな風に戦えたら」
ユッキーは、氷上で踊るハルガを見つめていた。ハルガに見とれ過ぎて、ガード状態を解いてしまっていた。
「ユッキー?」
「……」
ユッキーは、ハルガに見とれていて、オジサンのチャットに気付かない。
SC・デュークは、バックステップでハルガから距離をとった。
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
SC・デュークの両翼がルビー色で煌めきいて再びヒート状態になった。
SC・デュークは滑空し、ユッキー目がけて飛びかかった。
「危ないぞっ! ユッキィ!」
その時だった。
「ティラウォ!!」
上空から突如飛来したS・ティラオスが、ライダーキック張りの蹴りを、SC・デュークにかました。
「助太刀乱戦が発生しました」とのチャットが流れた。
「助太刀乱戦」とは。
通常の乱戦と違い、ジュラシックモンスターが完全にプレイヤーの味方となってアシストしてくれる。
通常時の助太刀乱戦は、普通の乱戦のような流れの後に、アシストしてくれたモンスターが何処かに飛び去って消えるが、このイベント戦では、SC・デュークを撃破するまでサポートしてくれる。
「スカイ・ティラオス……お前、俺達の味方になってくれるのか!?」
「ティラウォウ!!」
S・ティラオスは、ユッキーを見つめて頷いた。
「このゲームのシナリオ舐めてたけど、中々熱い展開じゃねーか!」
創作で敵だった相手が味方になる展開は、どの媒体でも熱いものである。
ランスを構えるユッキー。
「おいトカゲ! 火属性ランスで火属性の敵に攻撃するなよ!」
「サーセン」
盾を構えてガードするユッキー。着物の裾を踏まれたように感情を止められてしまい、ユッキーは苦い顔をした。
「ティラァアアアアアアアアアアアアアオオオオオッ!」
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
S・ティラオスは、SC・デュークと間合いを取って牽制し合った後、両翼両脚を使って乱闘になった。SC・デュークは、S・ティラオス目がけて氷線を放つが、S・ティラオスは、間一髪の所で避ける。S・ティラオスは、カウンターで見事な蹴りをSC・デュークに御見舞いした。
S・ティラオスにとって、SC・デュークは圧倒的格上であり、下級貴族が王族に喧嘩を売るようなものであった。S・ティラオスが優勢に動けるのは、SC・デュークが瀕死だからである。
SC・デュークは「700」ほどのダメージを受けた。
四天王の出す火力からすると少し物足りないが、SC・デュークにとっては、間が悪すぎて死活問題まっしぐらだった。
SC・デュークがダウンすると、ハルガは飛び上がって、某兵長のような回転切りをSCデュークの頭から小尾にかけてお見舞いした。
ヒート状態だったSC・デュークは、クール状態に移行し、大ダウンして全身がサファイア色に。
「これ……試作品みたいだけど、使う時は今ですよね……」
ストは、手に持った結晶を上空に投げた。
その結晶は、虹色に輝いてはじけ飛んだ。
「スト君!?」
結晶の効果で、クール状態で起こるはずのスローモーションが発生せず、人間だけが普通に動けるエリアとなった。
本来であれば、この時にプレイヤーはスローモーション解除を経験する。
「ユッキーさん!」
А・ティラメスに守られているストが叫んだ。
「あのデカい砲台を使いましょう!」
ストは、A・ティラメスのトパーズウイングを搔い潜り、砲台に向かった。
この巨大砲台の正式名称は「時空砲」と言う。
「スト君、俺が行くから!」
時空砲目がけて走っていくストを、追いかけるユッキー。
ハルガは、時空砲に向かう二人を立ち止まって見ていた。このまま攻撃し続けたら、砲台イベントを見る前にSC・デュークを倒してしまう。だから追撃しないんだろうな。やはり、ハルガは優しい所がある。
ハルガと同様、オジサンとコシロウも砲台の方を見ていた。
時空砲に辿り着いたストは、砲台の攻撃標準を大ダウン中のSC・デュークに合わせた。こういった操作は、初見で標準を合わせるのが難しいので、最初はストがやってくれる。
「スト君!!」
準備万端で発射するだけの引き金を持つストの手に、ユッキーに手が覆いかぶさった。
「あのモンスターも、きっと感情があって何かを訴えようとしているんですよね……」
ストは、躊躇っていた。
「アイツにも事情があるのかもしれないけど、今はアイツを止めるしかない」
「そうですね……」
ストはそう言いながら、A・ティラメスを一瞥した。
「俺も一緒に背負うから! スト君、いくぞっ!」
「はぃ……!」
ユッキーとストは、力を込めてゆっくりと引き金を引いた。
時空砲から「バァァン!!」という快音と共に、砲弾がホームランボールのように放たれるのであった。




