233 亜空間から放たれた怪物
光に包まれた怪物は巨大な翼を広げた。
蒼と紅の混じった両翼は、ルビーとサファイアを奇跡的な配合で混ぜたような神々しさがあり、それをマントのように靡かせると夜空の漆黒と粉雪の純白に反射し、天国と地獄の狭間を思わせるような混沌的空間を創り上げていた。翼を大きく広げた姿は西洋の竜に見えるが、翼を折りたたむとドラキュラのようにも見えた。
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
C・デュークの進化個体が咆哮を放つ。
それを全身に浴びる受付ジョーとバスター達。
コシロウは尻餅をついた。あわあわして完全にビビっていた。
C・デューク進化個体は空を見上げ、槍を空に放つが如く、上空へ飛び立ち亜空間の壁を突き破っていった。
バディは真っ青な顔でユッキーを見る。
「まずいです! アレが亜空間の外に出たかもしれません!」
「あっ、そうだよな。そう言えば、モンスターが亜空間の外に出るのは初めてか」
「急いでこの空間を脱出しましょう!」
バディは、コシロウに「ほら立って」と言って立たせた。
そして一行は亜空間から脱出した。
フィールドに出た一行。彼らはワイルドサバンナの小高い丘の上におり、一キロ離れた拠点ルアーキャッスルを目視出来る配置にいた。
天候は快晴。亜空間同様、夜空が広がっており星々が静かに光っていた。
バディとコシロウは、夜空を見上げる。
「まださっきの怪獣出てないぜ? 別の亜空間に行っただけじゃないのか?」
「ちょっと、黙って!」
バディは焦っていた。
暫くすると、ひんやりとした風が吹いて雪が降って来た。
空は曇っておらず、何処からともなく雪が降ってくるのだ。
天高く光るオリオン座を思わせる配置の星々から空間が割れ、そこから先程のC・デューク進化個体が出現した。
「サジャアアアアアアアンクォオオ!!」
巨大な翼を羽ばたかせて咆哮を放つ怪物。
その怪物の真下から、救援の発煙筒が上がった。
バディは双眼鏡で発着元を見た。
そこには獣人ハスキルーのトリィがいた。
「トリィがいる。どういう事……?」
動揺するバディ。
バディの肩に手をかけるコシロウ。
「なぁ俺達も加勢しようぜ。俺達……ユッキーとオジサンが加勢すれば勝てるって!」
「戦うのはダメ! バスター専用武器は亜空間内じゃないと力を発揮できない。今はアレからトリィを逃がすのが先!」
ユッキーとオジサンは、未だかつてない緊迫感のあるシナリオ展開に対応できないでいた。
「俺達はどうしたら……」
「ユッキーとオジサンは、閃光や爆弾なんかで攪乱して。今貴方達の持ってる武器はなまくらだから使えない。……絶対にまだ戦わないで。私はトリィに事情を説明するから」
ユッキーとオジサンは、バディから暁玉と朧玉を一つずつ入手した。
「わかった。行こうオジサン」
「承知した」
コシロウは自分を指差す。
「あの、俺は?」
「アンタはそれぞれの拠点に緊急事態が起きた事を伝えて!」
「了解」
バディは救援筒の放たれたトリィの元へ走っていき。
ユッキーとオジサンは、バディの後を付いていった。
雪の舞う夜空の下で、怪物とトリィは相対していた。
トリィは力を発揮出来ない大剣を振り回し防戦一方だった。怪獣はルビーサファイアの両翼を手の様に扱い、トリィを一方的に追い詰めていた。
「トリィー!!」
バディは絶叫しながら走る。
トリィはバディに気を取られ、怪物の小尾薙ぎ払いで吹き飛ばされた。
「暁玉か朧玉を投げて下さい」との進行チャットが流れた。
ユッキーとオジサンは二人揃って閃光アイテムを投げた。
オジサンが朧玉を投げて周囲を暗い煙で包んだと思ったら、ユッキーの投げた暁玉がパァンと弾けて眩い光を放った。
「サジャアアアアアアアンク!!」
怯む怪物。
その隙にバディはトリィの元へ駆け寄った。
「大丈夫?」
「あぁ、問題無い」
全身傷だらけのトリィは、とてもじゃないが大丈夫とは思えない様相だった。
怯みが解除された怪物は大人しくなった。倒れているトリィとそれを支えるバディに、なまくらの武器を構えたユッキーとオジサンを、怪物は静かに見下ろした。貴族のような出で立ちには凄い威圧感があった。
「サジャ……ワイ」
「んっ?」
ユッキーの言葉が漏れた。
「ワイ……ユルセヌ……」
その声はドスが効いていて悪魔のような悍ましさあった。
言葉を発したと思われる怪物に一同は戦慄した。
「ワイッ! ユルセヌッ!」




