228 霹靂の対面
メインクエスト「不貞の四天王」とは。
Sクラスのメインクエストのラスボス戦の一つ前のクエストで、Tクラスのギミックのあるラスボス戦を除けば、純粋なSクラスのメインクエストの中では最難関とされる。
マップは「山岳」。初期エリア数「5」、時間は「夜」固定。
クエストを開始してすぐに、C・デュークとF・プロミネンスがエリア「3~5」の間を闊歩しており、十分経過かF・プロミネンスが瀕死になるとF・ウォーズがマップに出現、C・デュークかF・ウォーズの何方かを討伐するとスサノオが出現するという流れのクエストである。
初期マップは「5」であるが、乱戦が頻発する為、戦闘が長引けば長引くほどエリアが増加し消耗戦と化す。
クエスト中に四天王全員が出現するが、マップに四体が揃う事は無く、三体以下はキープされる。
クエストスタート。
ユッキーは救援を出して、皆で食事内容を選ぶ。
ただ、どの食事内容にしようか中々決まらなかった。今までの四天王戦はモンスターの属性に合わせて属性耐性を上げていたが、火、氷、雷、水の全属性を相手にしなければならない為、特定の属性耐性を上げてもあまり効果的とはいえない。
こういった場合は、「根性」を発動させて即死級のダメージを耐えるようにするか、「保険」を発動させて一乙分の失敗を無効にするかだと思う。
属性耐性を上げても効果的ではないとは言ったが、火属性攻撃をするモンスターが多く、火やられのスリップダメージは痛いので、火属性耐性を上げるのはありではある。
ユッキーはというと……食事を適当に選んでいた。
オジサンとウサギは火属性耐性を上げていた。
救援で野良プレイヤーが入って来た。
BR「11」のプレイヤーで、まだTクラスには突入してないランク帯だった。
十秒経つと、そのプレイヤーは離脱していった。
「何だ? 通信エラーか?」とユッキーは言っていたが、これはユッキー達のランク帯を見て、クリアできないと判断し早急に離脱していったのだろう。
ユッキー達のランクはBR「1」。Sクラスのラスボスをクリアするまでランク上限は解放されない。ランク上限が解放されると(サブクエ放置でメインクエのみを進めた場合)ランクは「10」からとなる。
BRランクが「1」という事は、Sクラスのラスボスを未クリアだという事が一目瞭然であり、このクエストに苦戦しており安定してクリアしたい勢からは、BRランク「1」のプレイヤーは敬遠される。
その後、何人かランク「10」台がクエストに参加してきたが、十秒ちょっとで皆離脱していった。
ユッキー達は三人でクエストクリアを目指すも、C・デュークとF・プロミネンスの二体が同エリア内で氷線や水圧光線をまき散らせば、その猛攻に耐えられずにクエスト失敗。わずか三分しか持たなかった。
二度目もまず救援を出し、飯はC・デューク対策で全員氷耐性を上げていた。F・ウォーズが出現するまでパーティが持たないと、火属性耐性はあまり意味ないか。
野良プレイヤーがクエストに参加してきた。
BR「50」HBR「1」のプレイヤーだ。
序盤は善戦していたものの、ユッキーがC・デューク相手に暁玉を投げてしまい、閃光カウンターを全員が受けて酩酊状態に。そのまま、C・デュークとF・プロミネンスの追撃を受けて全滅した。
C・デューク戦初見では運よく閃光カウンターのギミックを踏まなかったので、ユッキーはこのギミックに気が付いていなかった。夜なので効果の高い暁玉を投げたくなるが、これは夜固定にしている運営の罠である。
三度目に行く前に、ユッキーは四天王全員のモンスターデータを確認していた。
そしてまたクエストに挑むも、救援の野良プレイヤーは即離脱し数分で全滅。
四度目、五度目も似たような展開が続き、流石のユッキーも自分達のランクが敬遠されている事に気付いたようだった。その後、高ランクプレイヤーが入って来てC・デュークを倒すも、後からやってきたF・ウォーズとスサノオに対応できず、ユッキー二乙、オジサン一乙でクエスト失敗。高ランクプレイヤーが助っ人に来ても、今度はユッキー達が対応できないのだ。
今までやってきた閃光ハメ、高ランクプレイヤーに頼るという戦術がまるで通用せず、十回やってもクリアできなかったので、その日はお開きとなった。
一月三十一日。
サークルチャットの通知があった。
ルースターのコメントだった。
「昨日、BTR.sをバトルじゃないかという話があったけど、BTRはバトラーじゃないかしら?」という内容。
バトラー? バトラーは英語で執事という意味だ。
バトラーズエンジェルだと、執事の天使となる。
内容はともかく、最近のルースターはポイズンしか言ってこなかったので、ちょっと新鮮な気持ちになる僕。
僕は「……となると、執事って事になりますかね?」と返信する。
数分後に「執事というより、アメリカ大統領の事じゃないかしら? 大統領のラストネームがバトラーなのよ」というルースターのコメント。
そうなると、大統領の天使??
「その線もありそうですね、情報ありがとうルースター」と僕。
ルースターは「ポイズン」と返答。
サークルチャットの会話が終了した。
大統領の名前を使っているとなると、政治色の強いサークル名という事になる。それを隠す為に、略したと考えれば合点がいく。バトルをわざわざBTRと略す意味なんてないし。
……これはつまり、どういう団体なんだろうか。
BTR.s ANGELは大統領と何か繋がりがあるのか、それとも大統領がこのゲームを調べる為に送り込んだ刺客……?
そんな馬鹿な。
BTR.s ANGELを裏で纏めているのはフランス人のフリージオ・エトワールだと思われるが、アメリカ大統領のバトラーと何かしらの接点があるのだろうか。
それよりもBTR.s ANGELのサークルリーダーであるウサギが何か関係しているのか……BTR.sの由来を知りたかっただけなのに、謎が深まっていく。
僕はますます彼らから目が離せなくなっていった。
僕が考え込んでいる間に、ユッキー、オジサン、ウサギがログインしてきた。
彼らがまず向かったのは、武器屋だった。
流石に装備更新するようだ。
ユッキーの大剣は「バーニングバスター」攻撃力「270」、オジサンのライトは「フレアライトブラスト」攻撃力「220」、ウサギのハンマーは「バーニングレイ」攻撃力「280」に武器更新した。近接二人の武器の切れ味はブルー。
三人が作った武器はF・ウォーズの派生武器で近接は全て火属性。ライトは火炎弾の速射が使える。何度かクエスト中にF・ウォーズと接触していたので、落とし物だけで製作出来たようだ。
続いて防具屋へ。
防具はクリスタルシリーズを見ていた。C・デュークの素材で作れる防具だ。一式揃えると、スキルは「防御3」「氷耐性3」「盗み無効」「回復全体化3」となる。装備すれば、防御特化のヒーラー装備となる。
キングのポイント交換所で必要な素材を補完しても、五部位分の素材が足りず、C・デュークを周回する話になっていた。
なるほど、対C・デューク特化装備を作って、まずは序盤を乗り切ろうという作戦か。C・デュークは他の四天王と違い、プレイヤーに対して不利になる戦闘ギミックが多い。盗み、回復阻害、閃光カウンターと、エリアにいるだけでプレイヤーが戦いにくくなる。クリスタル装備にすれば、回復も共有出来るし、かなり戦いやすくなるだろう。そもそも三人だけでC・デュークを討伐できていないので、無難な判断だと言える。
懸念点は、防具一部位につき火属性耐性が「-3」な所。全部位で「-15」になり、食事で火耐性を上げても「30」を超える事はない。F・ウォーズとF・プロミネンスの必殺技が当たれば即死だと思われる。
ユッキー達は所有している素材で、クリスタル装備を作って装備。
そして設定を弄っていた。
とうとう「オートキック機能」を使うようだ。
一分間棒立ちで自動キック、五分の間に千以上ダメージを与えないと自動キック。救援に入る側からしたら、キャリーしてほしいんだろうなと思うだろう。
キャリーとは、運ぶや運搬の意味であるが、ゲームの場合、実力の無いプレイヤーが実力の有るプレイヤーに大部分で貢献してもらうという意味になる。
早くエンドコンテンツに行きたい彼らからしたら、当然の判断であり、遅いくらいの決断ではあるが、ユッキーが怪訝な顔で設定を変えていたので、本来であればオートキック機能は利用したくなかったのかもしれない。
ただ、Tクラスならまだしも、Sクラスでこの条件……救援は来るだろうか。
余程の物好きか荒らしプレイヤーしかクエストに参加しない気がするけど、変に低ランクがクエストの参加と離脱を繰り返されて士気が下がるかよりはいいのだろう。ある意味、これからは高ランクプレイヤーしか救援に入って来なくなる。
ユッキー達がC・デュークを周回してる所を見ながら、僕はハルガとオートマのフレンドデータを何となく観覧していた。ハルガもオートマもオンライン状態で、ジュラシックバスターをプレイしている。僕とルースターの会話に気付いているとは思うが、そこまで興味がないのか、特にチャットコメントは無かった。
ユッキー達は順調にC・デュークを倒して周回。
装備更新のお蔭か、攻撃面は火力が出ており、防御面は氷攻撃でのダメージをかなり抑えていた。不貞の四天王では散々な内容だったが、失敗した分だけプレイヤースキルは上がっていた。
三戦目が終わり「次が最後かな」とユッキーはコメント。
四戦目へと向かった。
見慣れた山岳マップに雷が鳴っていた。
ユッキー達は慣れた様子でC・デュークのいるエリアを目指す中、本日初めての救援プレイヤーが現れた。Sランククエのこの条件に参加するなんて、物好きもいるもんだなぁ……と思って、僕はプレイヤーネームを見た。
ハルガ……!???
いや、名前が同じだけかも。
RANKはBRが「999」で、HBRが「999」。
……えっと、ハルガはオンライン状態でインしている。
これは……本物かもしれない。
うちのリーダーが、ユッキー達のクエストに参加している?
ハルガはC・デュークを苦手としていて、定期的に練習の為、結構な数をポコパンにしていた。たまに僕やオートマも、ハルガの狩りに付き合って、TクラスのC・デュークを周回したりする。でも、SクラスのC・デューク相手では練習にならないはず。救援に入るクエストをミスったケースも考えられるが。
ハルガは途中からクエストに参加したが、Tクラスプレイヤーは瞬間移動が使えるので、ユッキー達よりも先にC・デュークのいるエリアに到達した。
ユッキー達は、三十秒後にC・デュークとハルガのいるエリアに到達。そこでユッキーはハルガを視認、ハルガはユッキー達に鋭い視線を送るのだった。




