222 百万の乙女
「皆さーん! こんにちわですー!」
手を振る女性は、サラサラした土色の髪を揺らし、上品に手を振っていた。小麦色のつやつやした肌に白いワンピース。ライトも当たっていないのに発光しているような輝きを放ち周囲の注目を集めていた。十代後半の彼女は、絵画のような美しさで、まさに東洋のヴィーナスと言わんばかりの美貌だった。
この注目の的になってる女性こそ、サークルリーダーのウサギだ。
「か、可愛すぎる……!」
ユッキーは口を押えた後、胸に手を当てた。
「俺が年上好きじゃなかったら、危なかった……」
「ユッキーは年上好きなのか」
年上のワードに反応するオジサン。
セイカは、少しずつ歩を進めてウサギが誰なのかを探っているようだった。
「もしかして、セ……ちゃん?」
「そ、そうです。久しぶりです! パ……セイカさーん!」
ウサギとパステル……セイカはハグをした後、手をつないでピョンピョンと跳ねた。ウサギの本名の頭文字は「セ」から始まるようだ。
「セ……ちゃん、凄い可愛い。本当に懐かしいよー!」
「私もですー! セイカさんもかっこ可愛いいですー!」
ウサギとセイカは、リアルで知合いな上、かなり仲の良い様子だった。
「そのキャラクリ、かなり課金したんじゃない?」
「ハイッ! 日本円にして百万円かかりました!」
咳き込むユッキー。
……百万????
ものすごく可愛いとは思ったが百万????
いやいやいやいや、いくら何でもキャラクリに力入れすぎでしょ。
「どうやったら、キャラクリに百万も使うんだ?」
それは僕も気になる。
「それはですねー」
そう言って出て来たのは、プレイヤーのラスカル。そばにセカンドもいた。
ラスカルは白髪でスラリとした体形の王子風の見た目で、ボイスチェンジャーに課金しているのか、男性ボイスだった。
「王子、いたのか。ウサギちゃんが可愛すぎて存在が霞んでたぞ」
「いたのかなんて酷いよユッキー! 僕だって十万円キャラクリに課金してるんだからー」
「それで、何でキャラクリに百万も使ったんだ? そもそもどうやってキャラクリに百万使ったんだよ」
「ウサギのキャラはですねー、サークルの「SAI GRAFFITI」に依頼したんだ。基本、個人のお客様の依頼はお断りしてるらしいんだけど、お金を詰んだら受けてくれたよー」
サークル「SAI GRAFFITI」は世界ランキング「7位」のサークルで、世界ランキング「2位」である「E-YOUTH」の子会社サークルでもある。「SAI GRAFFITI」の特色としては、プロのEスポーツ集団のグッズやアートの販売を行っており、世界ランキングよりもグッズ販売に重きを置いているサークルである。
「E-YOUTH」は、個人の世界ランキング上位を目指す為の育成場であり、トッププレイヤーとして育った選手は、サークルを卒業したり、YO-チューバーになったりするので、メンバーの入れ替わりが激しい。このサークルの管理会社リートアスは、別の格闘ゲームにもEスポーツ強化として展開しているので、ジュラバスサークルの「E-YOUTH」は、リートアスの一部でしかなかったりする。
補足情報として、竜人獣人チケット発案の「雄ケモパラダイス」は世界ランキング「6位」なので中々の強豪サークルだったりする。
「金持ちの力ってすげー。何かムカつくけど……」
「オジサンから質問なんだが、ウサギちゃんのビジュアルにモデルはいるのかい?」
ウサギはこめかみを抑えた。
これは、モデルの画像をユッキー達に送っているのかな?
「このキャラで、色っぽくて大人な十代後半にして下さいと依頼しました」
僕には画像が来ないからわからないな。気になるぞ。
「これ子供だよな。二枚目の画像は幼女にしては色気があまりまクリスティだが」
「お空を旅するファンタジーRPGに出て来るキャラで、私のニックネームに名前が似ていて凄い可愛いなーって思ったので、このキャラで頼みました」
「へぇ……凄いな。でも完全に寄せたというより、ウサギちゃん本人にもちょっと似てる気がする」
本人もこんなに可愛いのか。
本名がわかったら調べてみようかな。
「モデルのキャラの子は褐色じゃないですからね。でも、本当に嬉しいです」
「よかったな。セ……ウサギちゃん」
ユッキーもウサギちゃん呼びに慣れてないようだ。
セイカ、挙手。
「ウサギの名前の由来は?」
「ウサギと言えば、美少女戦士ですよ!」
「あーそっちか」とユッキー。セイカも納得している。二人は元ネタを知っているようだ。
ウサギは非表示にしていた武器種ハンマーを取り出し「もちろんメイン武器はハンマーです。ウサギは月で餅を搗く生き物ですからね」と、手に持ったハンマーをブンブンと振り回した。細い腕で可憐な乙女が巨大なハンマーを振り回す様子は中々にシュールだ。ハンマーはゲームプロデューサーのお気に入りの武器種なので、ウサギはお目が高い。
続けてユッキーは「ラスカルの由来は?」と王子に言った。
「それは勿論、ベルばらだよー!」
「ラスカルは……アライグマだぞ!」
「えーー! でも確かに昔、そんな事言われたような……」
「検索すれば、すぐわかる事じゃんか」
「えへへ、僕ってうっかりさん」
「男の声でそのモーションは……何かやだな。プレイヤーネームは変更出来るし、変えればいいじゃんか」
「んーでも、もうこの名前で馴染んじゃったし、ウサギとラスカルで動物同士でいいかなー」
「ワザとだろ」
「ワザとじゃないもん」
「絶対ワザとだ」
「アライグマは可愛いし、もうこれでいいよ」
「俺世代だとシマリスを苛めているイメージだけど」
「アライグマがシマリスを苛める訳ないでしょ。ユッキー何言ってんの?」
ユッキーは「B○N○B○N○で検索してみ」と言い、ラスカルは「後で検索してみる」と言って、このショートコントは終わった。
再びセイカ、挙手。
「あの、今サークルメンバーが全員集合してますよね。別にクエストに行かないなら、二号呼んでもいいですか」
「別に呼んでもいいけど」とユッキー。ラスカルの傍にいたセカンドの表情が、何故かみるみる内に険しくなっていった。
セイカは、スカイホライズン担当NPCハスキルーのヒジカタの元へ行き、「二号」をルームに呼んだ。
セイカの傍に、蒼黒い毛並みのハスキルーが出現した。
セイカと蒼黒い毛並みのハスキルーが、ユッキー達の輪に加わる。
「呼ばれて飛び出て、ワワワワーン!」




