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22 青髪の敏腕弁護士

 二八二五年四月十七日。

 ゆきひとは東京ヒュージホテルの一室にいた。そこには日本SWH代表取締役社長のヴィーナ、部長のソフィア、ボディガードのクレイ、世話役のセラもいた。セラはゆきひとに祝福の言葉を送る。ゆきひとは「ありがとう」と笑顔で返した。

 ヴィーナは現時点で決まっていることをゆきひとに説明する。

 これからゆきひとは複数の女性と結婚することになる。婚姻届けを出さずに事実婚という形をとり、もう次の日から弁護士であるオネットとの結婚生活を始めなければならない。

 ヴィーナはゆきひとに連絡用のスマートフォンを手渡す。悩み事があれば何でも相談してほしいと告げた。


 四月十八日。

 日本国際空港。突き抜ける白い天上。ガラス張りの窓。複数設置されているエスカレーター。近代的だがゆきひとにとってはテレビで見慣れた風景で特にSFチックな所は見られない。何だこんな物かと思っている所に、ゲート近くに立っているオネットの姿が目に入った。 

 青と白を基調としたカジュアルスーツ。ブランドの時計を見て時間を気にしている。体内のナノマシンで時間を把握出来るはずなのだが、何気ない仕草や雰囲気を大切にしているのかもしれない。オネットは傍のトロリーケースに手をかけた。天然の性格とは裏腹に行動の一つ一つが知的に見える。 

 オネットはゆきひと達が来ていることに気が付き手を振る。


「ゆきひと君、二日ぶりだね。疲れはとれたかい?」


「はい。これからよろしくお願いします。オネットさん」

 

 ゆきひとは青のジャケットに白のYシャツ。下は白いパンツに黒いブーツ。

 行動を共にするのは、ボディガードのクレイと世話役のセラ。

 行先はオネットの地元フランスだ。

 四人がゲートを通過しようとした時、一人の女性の声が響いた。


「ゆきひとさーん!」


 息を切らしたヴィーナだ。

 ヴィーナはゆきひと達に労いの言葉をかけた。スマホで言葉を交わすことは出来たが、直接言葉をかけたかったようだ。加えてオネットに「結婚生活を楽しんできて下さい」とエールを送った。


 飛行機のクラスはファーストクラス。オネットは座席に着くと、大きい瞳のアイマスクをつけて目を閉じた。こめかみをトントン叩くと自身の脳内にオーディオのイメージが出現。収録されているのは日本のアニメソングで、オネットは空の騎空士達が活躍するアニメのEDテーマに決めた。フランスまでの十二時寝るつもりだ。

 マイペースなオネットだが、彼女にも彼女なりに悩みがあった。


 弁護士として得意としている分野は不倫と離婚。

 九分九厘女性の時代で同性婚は当たり前。

 恋愛に関心の無いオネットは、ビアンの依頼者と恋愛関係にならないという一定の信頼があり、所属事務所や顧客からの受けが良かった。表裏の無いサバサバとした性格が人気を博し独立。今までそのバイタリティでやってこれたのだが、運よく回避出来ていた壁にぶち当たった。恋というものを知らないが為に無神経なことを言ってしまい、不倫や離婚で本気になって悩んでいる顧客の気持ちを逆なでしてしまうのだ。弁護の依頼を解消されることも度々あり、今までずっと走ってきたオネットを立ち止まらせた。

 去年の十二月中旬、悩みを抱えていたオネットはコーヒーショップで一服しながら自身のPCで恋愛感情について調べていた。しかし文字だけ読んでも理解出来ない。そんな時目に入ったのが第三回メンズ・オークションの広告。結婚宝くじの販売は二八二四年十二月二十五日までだった。

 

 これだ。


 オネットは冬空の下、結婚宝くじ売り場まで足を運んだ。

 ネット販売は売切れていた。


「おばちゃーん! 結婚宝くじ下さーい!」


「何枚? 十連バラ? 連番?」


「一枚下さい!」


「えっ、一枚でいいの?」


「はい!」


「……当たりますように」


 オネットは一枚の結婚宝くじを胸に当てた。

 夢が膨らみ何故だか心が温まる。


 オネットのアイマスクが笑う。

 これから難しい案件に挑まなくてはならない。

 それは同性婚の不倫や離婚より難しい案件なのだ。

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