218 キックガードチケット
BTR,s ANGELのサークル専用ルームの場所は、調査拠点スカイホライゾンになっていた。この初期配置は、サークルリーダーの「ウサギ」の設定がベースとなる。多分だが、ウサギはまだSクラスに突入していない。……なので、初期位置がスカイホライゾンになっているのだ。
サークル専用ルームに、「ウサギ」ともう一人のメンバー「ラスカル」はいなかった。別のルームで狩りをしているようだ。
ルームに、セイカ、ユッキーが入室した。
オジサンは中々入室してこない。
「オジサン、やり方がわからないのかな」
一分経つとオジサンが入室してきた。
「すまない、遅れてしまった」
セイカが手を上げる。
「あの、今メンバー三人だよね。二号呼んでいい?」
……二号?
「あぁ……ゴメン、一枠は空けておきたいんだ」
「何故? TPが欲しい訳じゃないんでしょ?」
「んーーー……俺達の接触したい人が運よく入って来ないかなぁっていう作戦があってだな」
なるほど……サークルメンバー全員で狩らないのは、セカンドが溢れるからじゃなくて、野良を入れたいからか。
野良というのは、フレンドや知り合い以外の一般プレイヤーの事だ。
二号に関しては、セイカの話を聞く限りAIハスキルーだな。
「それって誰なの? 有名人?」
「このゲームでは有名人だと思う。俺的には、その有名人と交流を深めるのは無謀だとは思うんだが」
「有名人なら、SNSで接触した方が早いと思うけど。野良で入って来るのを待つなんて非現実的じゃない?」
「その人、SNSはやってないみたいなんだよ。……でも、王子は何か自信ありげなんだよね。取り敢えずこのままクエストは三人以下で進めて、俺達はエンドコンテンツまで行きたい訳」
つまりユッキー達は、とある有名人と交流を深めたいから、ジュラシックバスターをやっているのか。
「……王子ね」
フリージオ・エトワールの事だな。
サークルメンバーの情報に、プレイヤーIDが記載されているので、ウサギとラスカルの情報を見ておく。
ウサギに関しては全ての情報が非公開だった。
一方のラスカルは、情報がビッシリと書かれている。
プレイヤーネーム、「ラスカル」。
本名、フリーシア・エトワール。男性名、フリージオ・エトワール。
この人、本名はフリーシアって言うのか。性別は自由。
生年月日、「僕は毎日がハッピーバースデー、日々生まれ変わって誕生しているよ!」 ……生年月日の数字を入れる部分に何も入れず、補足の部分にコメントを書いている。何て言うかバディ感がある。
国籍、フランス。職業、王子。
ラスカルは間違いなくフリージオ・エトワールだ。
この人物が、裏でなんやかんやしていると思われる。
「それで、その有名人って誰?」
「おっと、俺達の話はここまでだ。クエストを進めるぞ」
ユッキーがクエストカウンターに向かうと、何かを思い出したように振り返った。
「あっ……そう言えば、セイカのアカウントって、バディを演じた時に貰ったの?」
「私、仕事が無くて引きこもってた時、このゲームをやり込んでたのよ。今思うとプレイして良かったと思うし、セーブデータも消さなくて良かったなって」
「ふーん。ソロでそこまで進めたのか、凄いな」
セイカのランクを見れば、Sクラスをクリアしているのがわかる。
ユッキーもそれを理解しているようだ。
「戦闘中は救援を出して、Sクラス後半は助けてもらったけど、基本ソロだったかな?」
忍者装備のセイカからは、先輩オーラが溢れていた。
「あっ、もしさっきみたいな荒らしプレイヤーが現れたら、キックした方がいいと思うよ」
「キック」とは。
部屋主が、クエストやルームのプレイヤーを強制的に退出させる行為である。
ジュラバスにもこの機能は存在し、実装されたのは二周年目の時であった。
「あぁ……俺、キックってあんま好きじゃないんだよね。自分がされたら嫌な事はしない主義だから」
「目当ての人が来なかったらキックして、新たに枠を空けた方が目的の人に辿り着ける可能性が高くなると思うけど。それに今はキックした方が、お互いにwinwinになるシステムもあるし」
「キックした方が、winwinに……?」
「見て、このアイテム」
セイカはとあるチケットを取り出して、ユッキーに見せた。
「キックガードチケットよ!」
「キックガードチケット!?」
出ました「キックガードチケット」。うちの主力商品である。
一枚「一ドル」で購入出来る課金アイテムで、一度だけキックを完全に防ぐ。一度に最大九十九枚所持が可能。このチケットは、「キックガードチケットQ」と「キックガードチケットR」の二種類があり、Qの方はクエスト中のキックを防ぎ、Rの方はルーム入室中のキックを防ぐ。配信映えを気にする配信者にとっては、必須課金アイテムとなっている。
部屋主の対処法としては、Qの場合はクエストを一回クリアすればいいが、Rに関しては部屋を作り直す必要が出てくる。
このキックガードチケット、所有者のチケットを消費させる事によって、所持者以外のプレイヤーのドロップ枠を増やす効果もあり、廃課金者はキックをガードする為ではなく、ドロップ上昇アイテムとして使うプレイヤーも多い。
こういう仕様な為、キックする側もされる側もwinwinだという事だ。
更に、プレミアムパスが実装されてからは、パス加入者のみ「オートキック機能」を使えるようになった。このオートキック機能、内容を細かく設定出来る。
一分間、棒立ち放置するプレイヤーを自動でキック出来たり、その内容にフレンドを除外したりなど、自分好みにカスタマイズ可能だ。DPSチェック的な設定も出来、五分間、一定以上のダメージを与えないと自動でキック出来たりもする。
キックするのが精神的に辛かったり、戦闘中のキックが負担に感じるプレイヤーにとって、好評なシステムとなっている。
救援に入る側にも勿論メリットはあり、条件が厳しければ厳しいほどレアアイテムのドロップ率が上がる。
DPSチェックに関しては、お気に入り設定のレア素材が「100%」入手可能という破格の上昇率を誇る。お気に入り設定は、一度入手した事のあるアイテムである必要があったり、そもそもお気に入りレア素材がドロップするモンスターでないとドロップ自体しないが、ドロップ率の高さから、DPSチェックの救援は人気がある。自動キックはプレミアムパス加入者しか使用出来ない為、廃課金者である可能性が高く、廃課金者は上級者の場合が多い。その為、プレイヤースキルも一定の信頼感があり、自動キック部屋は人気があるのだ。
廃人プレイヤーは、「キックガードチケット」と「オートキック部屋」をフルに活用し、ドロップ率を極限にまで高めているのが、今のジュラバスの現状である。
「これがあれば所持者はキックされないし、キックして道具を消費させれば、それ以外のプレイヤーのレア素材ドロップ枠を増やすことが出来るのよ」
「へぇ……ていうか、何でセイカはそれ持ってるの?」
「いや……ユッキーと話す前にキックされたくなかったから」
「俺はそんな事しないよ。まぁ……キックに関してはその時の状況を見て判断するよ。……もしかして、あのゆうこ達は……」
「多分、キックガードチケットは持っていたと思う」
「ハチミツは無いのに?」
「そう」
「あのゆうこ達にキックが効かないなら、俺達は逃げるしかなかったのか」
「逃げるは恥だが」
「役に立つ」
オジサン、挙手。
「早くクエストやらないか?」
「オジサン……放置してスマン」
「むぅ」
ユッキーはクエスト受注カウンターで、
Sクラス最初のメインクエストを受注した。




