表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
217/300

217 ハチミツクダサイ

「それはダメだっ!」


「……ダメ……ですか?」


 取材を受けない姿勢をみせるユッキーに、残念がるセイカ。


「タダではな」


「……というと?」


「一緒にSクラスを攻略してほしい! Sクラスのラスボスを倒せたら、取材を受けるかどうかを考えてもいい」


 この条件だと、クリアしても取材を受けない場合もあるが……どうするのか。


「わかりました、一緒に攻略しましょう! ……でも今更だけど、何で今このゲームをやってるの?」


「その質問も、攻略しながらだ」


「わかったわ」


 今までの話の流れを見ると、セイカが入室して来る事は予想の範囲内だったのかもしれないな。

 ユッキーは、セイカにサークルメンバーの招待を送った。


「サークルに入っていいの?」


「一緒にこれからSクラスを攻略するんだからな」


「あ、ありがとう!」


 セイカは招待を承認し、セイカもBTR,s ANGELのメンバーとなった。


「このBTR……ってアレ?」


「そうだ、アレだぞ」


 ……アレ?

 そういえばBTRって何の略だろう。

 新しいゲーム用語だろうか。聞き慣れない言葉だ。

 ANGELは天使の意味だろうけど。


「……あれ?」


 オジサンも意味がわかってないようだ。

 そこまで有名な言葉ではないのかも。


「オジサン、アレだよアレ。話したじゃんかニューヨークの話」


「あぁ……あれか。わかったぞユッキー」


 何なんだアレって……。

 BTRはニューヨークでは通じる言葉なのだろうか。

 だがしかし、BTRとニューヨークで検索しても、目ぼしい内容は出てこない。僕自身ゲーム用語を略す事は多々あるが、こう意味がわからないと、他者はもやもやするものなのだな。

 今度、サークルチャットで聞いてみるか。

 

 アレの話で盛り上がっている中、ユッキーのルームに「ゆうこ」というプレイヤーが入室してきた。

 僕はそれを見て、アレの話がストンと脳内から吹っ飛んでしまった。

 ゆうこだ……ゆうこがついに来てしまった。

 何も知らないであろうユッキーとオジサンは「よろしくお願いします!」と固定チャットを入れていた。一方のセイカは無反応。多分、彼女はゆうこの存在を知っているのだろう。


 「○うた」というプレイヤーネームをご存知だろうか?

 モンハァンをプレイした事のあるゲーマーなら知らない人はいないであろうと思われるプレイヤーネームで、荒らしの代表格と言われている名前だ。

 ジュラバスではこの「ゆ○た」に変わって、「ゆうこ」という名前の荒らしプレイヤーが一時期大量発生した。勿論、由来は「ゆう○」からきている。荒らしのスタイルは様々で、ギリギリのラインの迷惑行為をしてくる。

 一番ゆうこがいた時期は、Sクラスが実装した一周年の時期で、ジュラバスのアクティブが一番多かった時期でもあった。ジュラバスのアクティブの減少と共に、「ゆうこ」も年々減少し、初心者と上級者の二極化した現在では、まともな「ゆうこ」が増え、荒らしをする「ゆうこ」は絶滅危惧種みたいな存在になっていった。

 多分、まともな「ゆうこ」は、荒らしの「ゆうこ」という文化を知らずに名前を付けたんだと思う。

 今回、ユッキーのルームに入った「ゆうこ」は、プレイヤーデータを見る限り、荒らしだと思われた。

 BR「999」、HBR「55」という高ランク帯にもかかわらず、装備を全部外した全裸状態でルームに入室してきた(下着は着ている)。

 そして入室してきた第一声が「ハチミツクダサイ」である。


「ハチミツ? セイカ持ってる?」


「持ってるけど……」


 ジュラバスにおける「ハチミツ」は、モンハァンと違い、Sクラスからでないと入手できない少し貴重なアイテム。単体全回復アイテム「ロイヤルポーション」や、全体大回復アイテム「光輝の粉」の調合元となる素材なので、無料でプレゼントするには惜しい素材となっている。

 

「ハチミツクダサイ」


「ちょっと、道具ボックス見てみるか」


 この様子だと、ユッキーは荒らしだと気付いていないようだ。


「ハチミツクダサイ」


「ユッキーは持ってないと思うよ。Sクラスのクエストをやらないと入手できないから」


「いや、持ってるぞ?」


「えっ?」


 多分、配布アイテムパックの中に「ハチミツ」が入っていたんだ。

 ……とはいえ、ハチミツを渡せばいいという問題でもないが。


「このハチミツを渡せばいいのか?」


「ちょっと待って、ゆうこさんは荒らしプレイヤーだよ。だって装備外してるし」


「荒らし……?」


 ユッキーがハチミツを渡そうとしたら、セイカが静止した。


「違うっ!!」

 

 ゆうこが「ハチミツクダサイ」以外のセリフを吐いた。


「ワタシは、アライだぁ!」


「……??」


 困惑するユッキー。

 他の二人も戸惑っている。


「ハチミツクダサイって言ってんだろっ!」


 ゆうこは固定チャットに「ハチミツクダサイって言ってんだろっ!」を連打で入れた。流石のユッキーも荒らしだと気付いたようだった。

 

 ゆうこが現れた時、荒らし出現に残念な気持ちになったが、最近ではあまり見られなくなった光景なので懐かしさもあった。

 何たってこのゆうこは、生存競争に破られていったゆうこ達の中で生き残った、「歴戦のゆうこ」なのだ。ユッキー達は、この歴戦のゆうこに対してどう対応するのか、僕は興味が湧いた。

 

 オジサン、挙手。


「素朴な疑問なんだが、ハチミツクダサイという丁寧な言葉と、言ってんだろっていう荒々しい言葉を組み合わせている理由を知りたい」


「気になる所はソコかよっ! 意味なんてねーヨ! ワタシはアライだぁ!」


 ゆうこは荒ぶっているが、少し動揺しているようにも見えた。このランク帯のルームに入った時点で完全な初心者狩りだが、オジサンみたいな天然タイプはあまり会った事がないようで、完全にゆうこのペースという訳でもなかった。


「ユッキー?」


「どうしたオジサン」


「ゆうこの言っている意味がわからないし、何の為にこんな事しているのかわからない」


「ハチミツクダサイって言ってんだろっ! マジレスしてんじゃねーよっ! このイケオジがぁ!」

 

 少し顔を赤らめるオジサン。


「ドンだけキャラクリに課金してんだよっ! フザケンナヨ金持ちがっ!」


 ゆうこは、オジサンのビジュアルがキャラクリによる課金だと勘違いしている。本体が男性のプレイヤーはまずいないので、そう思うのも無理はない。


「ユッキー、もしかしてゆうこの言ってる言葉は暗号なのかも」


「暗号?」


「閃いた。ハチミツクダサイは、蜂蜜下さいじゃなくて、ハチミツクという物が超絶ダサいという事を、ゆうこは必死に訴えているんだ」


「ンナ訳ないだろ! そもそもハチミツクってナンダよ!」

 

 黙って聞いていたセイカは、自身のアイテムボックスからハチミツを取り出し、ゆうこに差し出した。


「ホラッ、ハチミツ欲しいんでしょ? 今日の所はこれで勘弁して」


 ハチミツを受け取るゆうこ。


「わかればいいんだヨ! ありがとナス!」


 ゆうこがルームを退出した。


「何だったんだ……。でも感謝出来て偉い」


「ねぇユッキー。サークル専用ルームに行かない? あそこならサークルのメンバー以外入ってこれないし。……それともルームに鍵かける?」


「サークル専用部屋に行こうか」


「僕もそれがいいと思うぞ」


 「ゆうこ」がルームに入室しました。

 「ゆうこ亜種」がルームに入室しました。

 「ゆうこ希少種」がルームに入室しました。


「女忍者、ハチミツくれたいいヤツ」


「亜種のアタシにもハチミツクダサイ」


「希少種のアタシにはイケオジクダサイ」


「逃げろおおおおおおおぉ!」


 ユッキーはルームを解散した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ