216 セイカの中の人
「よろしくお願いします!」という見慣れた挨拶の数秒後に、この「セイカ」というプレイヤーが、あの時……スカイ・ティラオス戦で救援に入ってきたプレイヤーだという事に気が付いた。これは恐らく、一緒にクエストを遊んだプレイヤーの履歴から追ってきたのだろう。中々執念深い。
IDは同じで、装備もそのまんまだから見た目も同じ。黒髪セミロングの忍者風装備のツイスター使いだ。
ユッキー達もあの時のプレイヤーだと気が付くだろう。
「よろしくお願いします!」と、ユッキー、オジサン共々、固定チャットで挨拶を返した。
ユッキー、オジサン、セイカが、ルーム内で顔を合わせる。
謎の緊張感が走っていた。
「あの時は、ありがとうございました」
「いえいえ」
何だろう、空気が重い。
オジサンはその重い空気に耐えかねてか、ルーム内で走り始めた。
「セイカさんは、バディの人ですよね」
……????
……どういう事だ。いや……どういう意味だ?
「違……いや、そうですね。そういう事です。……ユッキーは、相棒で合ってますよね」
本人が認めている。
ん……? 相棒……?
「懐かしいですね。久しぶり、セイカ」
「久しぶり、ユッキー」
ユッキーとセイカは知り合いみたいだ。
いや……ちょっと待て! 思いだした……!
このセイカというプレイヤー、バディ役のパステル・パレットさんだ!
あぁ……なるほど、そういう事か。
僕の頭の中で、点と点が繋がっていった。
僕はパステル・パレットで検索した。普通にwikiに記載されている有名人だ。彼女は現在「センテンスプティング」に所属している記者で、元アイドル。最近はアンドロイドの暴走事件を追っていて、その事についての記事を上げていた。
僕もその記事はこの間読んだな。
僕が知っているパステルは、バディのボイスを当てたり、モーションアクターをしていた頃のアイドル時代。Sクラス以降のバディはAI処理されているので、パステルが演じたのはNクラスまでになっている。
その後、第二回メンズ・オークションに出場したり、第三回メンズ・オークションでは、司会進行を担当したりしていたらしい。
ネットの情報を見る限り、ユッキーと面識があるのは間違いない。
……いや待てよ。
第二回メンズ・オークションにも出てるなら、オジサンとも面識があるのでは?
オジサンは、じーっとセイカの方を見ていた。
先に声を出したのはセイカの方だった。
「オジサンとこうやって直接……厳密に言うと直接じゃないけど、会うのは五年ぶりぐらいでしょうか」
オジサンは、セイカに対して四十五度のお辞儀をした。
「あの時は、誠に失礼な事を言ってしまい申し訳なかった。この体たらくなオジサンを、どうか、許してほしい」
困惑するセイカ。
「えっ? ユッキー……。オジサンって、本当にあのオジサン?」
「俺は五年前の事、詳しく知らないけど、状況と時系列を考えた所合っていると思うぞ」
「ちょっと信じられないけど、あの時の事はもう何とも思ってませんよ」
「そうでしたか。それでは許してもらえるのですね?」
「えっ、ええ許します……って言った方がいいんですよね」
「オジサン、ホッとしました」
クスクス笑うセイカ。
「オジサン、凄い変わりましたね。私も変わりましたけど」
「クレイサンにも同じような事、言われました」
「オジサン、本名はアカンで」
「本名と言わなければいいじゃないか、ユッキー」
ユッキーのツッコミに、笑うオジサン。
知り合いで因縁があるようだったけど、和やかなムードになって良かった。
クレイサンが誰なのかよくわからいけど、一応メモっておこう。
……ていうか、ググっても情報が出てこなかった。
クレイサンはどうやら有名人ではないらしい。
「あの……!」
セイカの声にルームは静まり返った。
「ユッキー、取材させて頂けませんか?」




