214 サークル入会 そしてSクラスへ
ニ八二七年一月二十六日、彼らは再びログインしてきた。
この日は、モンハァンが世界で有名になった記念日であり、ジュラバスではワールドフェスが二週間開催される。この期間はゲーム内電子マネーの入手量が増加され、救援に入ると二倍、自分より下のクラスで二倍、フルダイブVR版で二倍と、全ての条件を満たすと八倍になる。
ゲーム内電子マネー倍倍キャンペーンは、一月二十六日のワールドフェス、三月十二日のアニバーサリーハーフフェス、六月三十日のブレイキングフェス、九月十二日のアニバーサリーフェスの年四回の期間のみなので、この期間はいつもよりプレイヤーが増える。
ユッキー達にはパトロンがいるようなので、あまりこのフェスの恩恵はないと思われるが、前回の様に全く救援が来ないといった事は無くなるだろう。もしかしたら、この期間を狙ってログインしてきたのかもしれない。
ユッキーは、スカイホライゾンの噴水広場にいる獣人化ハスキルー「トリィ」に近づいて話かけようとしたが、セカンドが吠えた事で動きを止めた。
どうするのかと思っていたら、彼らはオンライン御用達のキャラ、ヒジカタの方へと向かった。そしてサークルを検索し始めた。
検索したのは「BTR,s ANGEL」という名前のサークルだった。
聞いた事のないサークル名だ。
ユッキー達はその「BTR,s ANGEL」に入会申請し、数分後には受理された。するとセカンドは、移動オヤジに連れられてユッキー達のルームから退場した。
……?? どういう事だ?
この受理速度を考えるに、BTR,s ANGELはユッキー達の知り合いのサークルだ。僕はゲーマスの権限を使い、このサークルのメンバーを確認した。
BTR,s ANGELのリーダーの名前は「ウサギ」というプレイヤーで、二人目に「ラスカル」というプレイヤーがいた。三人目は「ユッキー」で四人目は「オジサン」になっている。AIハスキルーはサークル内で人数としてカウントされない。
サークルの仕様として、サークル内のメンバー間でAIハスキルーを共有する事が出来る。セカンドが消えたという事は、ウサギかラスカル、もしくは両プレイヤーのルームにいった可能性が高い。
サークルに入ったのは、セカンドを共有する為か?
そんな事を考えている内に、ユッキーとオジサンは、二人でトリィの元へ行ってイベントを進行させた。
「お主らが、期待の新人バスターか?」
プレイヤーに対してメッセージが入る。
Sクラスからは、AI処理でNPCもプレイヤーの行動次第で行動が変化する。
その事についての解説が入ったのだ。
「トリィパイセン初めまして、俺の名前はユッキーだぜ」
「ハッハッハツ、ユッキーは面白いのう」
「……名前呼ばれた?」
プレイヤーの名前にも対応。
Nクラスまでは、主要キャラにボイスアクターがついていたので名前を呼ぶ事が出来なかったが、Sクラス以降は、今までのデータを元にモデルのボイスを再現して名前を呼んでくれるのだ。
「少しホライゾンハウスで話がある。ちょいとついて来てくれ」
「バディが心配してましたよ?」
「彼女を気にかけるのは気疲れするだけだ。気にせんでいい」
「そうですね」
ユッキー達は、ホライゾンハウスの会議室に集まった。室内には、ユッキー、オジサン、スト、バディ、ヒジカタ、トリィがいる状態だ。
「皆さんお集まり頂きありがとうございます。
……おや? セカンドさんがいませんね」
「あ……セカンドは出張中で」
NPCらしからず人間らしい洞察力を発揮するストに、ユッキーは戸惑っていた。
「そうでしたか」
「オーガはどうしたのだ?」
トリィの疑問。
オーガは、序盤に登場していたストのパートナーハスキルーだ。
「最近、体調不良で」
「それよりトリィ、皆さんにごめんなさいでしょ。ぷんすかぷん」
不機嫌なバディ。
「ごめんなさい。これでいいか?」
「何だこの関係」
「ユッキー、私達はいつもこうなのだ。気にしなくていい」
「そうですか」
ゴホンッ……とストが咳き込む。
「本題に入ります。トリィさんが戻ってくるまでの調査結果について……と、新装備についての話があります。亜空間についてなのですが、どうやら亜空間が発生してジュラシックモンスターが出現するという一方通行ではなく、モンスター自身も亜空間を発生させる要因になっているとの結論に至りました」
「モンスターが怒るとエリアが増えるぐらいだからな」
「その、エリアを増加させる個体を、僕達は【拡張種】というカテゴライズに分ける事にしました。この先、拡張種が増え続けたらワイルドサバンナ、いえ、この場所だけじゃなく全世界が大変な事になるかもしれません」
手を上げるトリィ。
「その事についてなんだが、新たな拠点を設けようと思う。……というか、その場所を探してきた」
「調理素材を探してたんじゃ……そもそも料理人という設定は」
「もちろん料理はする。新たな拠点で楽しみしといてくれ。……新たな拠点の場所はグランキャニオン近くに点在する古城跡を改築して拠点としようと思う」
バディ、挙手。
「私は、その拠点を【SUITE BYEBUY】と名づけます」
「却下」
「えぇー」
「名前はもう決めている。新拠点の名は【ルアーキャッスル】だ。既にTIMカンパニーの職員を派遣している」
スト、挙手。
「トリィさんに質問なのですが、クリスタルの鱗をしたモンスターをご存知すか?」
「そのモンスターなら確認済みだ。吾輩はクリスタル・デュークと呼んでいる」
「クリスタル・デューク……」
「グランキャニオン付近で突如出現した個体だ。今後相まみえる事もあるだろう。これから強大になってくるモンスター相手に、新たな装備は出来ていないのか?」
「そーでした! いや、そーなんです! ユッキーとオジサンに新たな特殊装備があります。これを受け取って下さい」
ユッキーとオジサンは「スカイリング」を手に入れた。
特殊な装飾品枠で固定装備となる。
「これを装備する事で、二段ジャンプが出来るようになります。高低差のある山岳マップでも移動が楽になる事でしょう。飛行モンスター相手にもある程度対抗出来るようになります」
「二段ジャンプとか何かメタいな。アイテム、ありがとう」
感謝するユッキーに続て、オジサンも「ありがとう」と言った。
「いえ、どういたしまして。クイックテレポートリングについては試作品なので回収させて頂きますね。同様の効果はスカイリングに含まれていますので」
「お、おう」
「武器や防具も新たな強化等がありますので、それぞれ担当者さんに聞いてみて下さい」
「わかったぜ」
「これから僕達は、二つの拠点に分かれて拡張種という新たな脅威と立ち向かう事になります。皆さん、心してかかりましょう!」
その場にいる全員の掛け声が響く。
「ユッキーとオジサンとやら、吾輩は噴水広場で待っているから、ルアーキャッスルに行く準備が出来たら声をかけてくれ」
ホライゾンハウス会議室での話し合いが終わった。
まず、ユッキーとオジサンは武器屋へ。強化内容に関しては前回話した通りだ。
担当者に話しかけると「ジェットパーツ」を人数分受け取った。
「ジェットパーツ」は素材でカスタマイズしながら強化していくが、素の状態でも十分使える。
ユッキーは、Sクラスの新武器を確認しただけで武器強化は行わなかった。
次に防具屋へ。
防具もSクラスの序盤装備が並ぶ。
鉱山石系を除いて、他は素材が足りないので製作できない状態になっている。
Sクラスの防具は、Nクラスと違い部位ごとにスキルが割り振られている。つまりキメラ装備が有用だ。Sクラスの上位モンスターで作れる防具は、Nクラス同様全部位を統一するとシリーズスキルが発揮される。
ここでも、新装備を見ただけで何も製作しなかった。
「セカンドがいないと何の装備を作ったらいいのかわからないな。どうやら俺達はAIに頼りすぎたようだ」
「ユッキー、わからない事はグーグル先生に頼ればいいんだぞ?」
「あぁ、そうそう。何か初心者向けの動画配信があるから、困ったらそれを参考にすればいいとセカンドが言ってたな」
「イッツオートマチックという、オートマという名のプレイヤーの動画だぞ」
……!? ユッキー達はオートマを認知している?
……いや、でもそうだよな。初心者が攻略動画やサイトを検索して最初に辿り着くのは、大抵オートマの動画か攻略サイトだ。
彼らがマッチングするのもそう遠くない気がして、何だか怖いな……。
武器屋と防具屋を覗いたら、いよいよトリィの元へ。
「出発の準備は出来たか?」
するとユッキーは……。
「いいえぇ」
会話が終わる。
「ユッキー、進まないのか?」
「Sクラスからは、プレイヤーの反応でNPCの対応が変わるって説明があったから、ずっと断り続けるとどうなるのかなって……」
トリィに再度話しかけるユッキー。
「出発の準備は出来たか?」
「いいえぇえ」
静寂。
「出発の準備は出来たか?」
「いいいえ」
「良い家なら、次の拠点で作れるから心配はない」
「良い家で反応したか」
「……んな訳ないだろ。吾輩で遊ぶんじゃない。さっさと行くぞ、お主ら」
「ごめんなさい」
ユッキー達は、強制的に新拠点へ連行された。




