208 強襲 乱戦 追い追い世
「バディ、オイオイヨ!」
ユッキーは見えない力に阻まれながらもバディに向かって叫んだ。
「ユッキー、オイオイヨとは?」
オジサンも見えない力に阻まれながら言う。
「こういう緊迫感のある場面で飛び降りろって意味だ。あぁ……ゲーム進行中にこのセリフが言えるなんて感慨深い」
「なるほど……日本語は奥が深いな」
「ご主人らの会話で緊迫感なんてまるでないぞ」
ここでプレイヤーがNPCに語り掛けても、物語の進行に影響はない。
……というか、どうせバディは無事だろうと高を括っているのが見てとれる。
まぁ、その通りなんだけども。
スカイ・ティラオスの攻撃がバディに迫ったその刹那、上空から亜空間の穴が発生し、光線状の氷の息吹が放たれた。
スカイ・ティラオスは多少被弾しながらも、その氷線を避ける。
その隙にバディは攻撃範囲から逃れ、ストの元に駆け出し安全圏へ。
それから気温がみるみる下がって、空は曇り、雪が降り出して嵐となった。
「あれを見て下さい、何か出てきます!」
ストが上空を指差すと、プレイヤーの金縛りが解け、ユッキー達は、指差す方をパッと見た。少しモザイクがかって見えるその先に、犬寄りのフェイスをした飛竜のようなモンスターが出現した。鋭い眼光に水晶の鱗を持つ賢者のようなその面持ちは、場の空気を緊迫感で氷漬けにした。
BGMが「嵐の中の白き軍師」に切り替わる。この曲は謎のモンスターの専用曲で、荒れ狂う風の中で冷淡に画策する猛獣がいるような楽曲となっている。
「クリュウウウウウゥゥゥウウウゥゥッ!!」
謎のモンスターは地表に降りた瞬間、スカイ・ティラオスにクロー(パンチ)、クロー(パンチ)、ローリングテイル(尾による攻撃)の連続攻撃を放った。スカイ・ティラオスは、態勢を崩しながら、その攻撃に対応。しかし、完全にスカイ・ティラオスが劣勢になっており、それは誰が見てもわかる攻防だった。
フィールド画面に「乱戦」の項目が表示された。
この「乱戦」とは、ジュラシックモンスター同士の戦いである。同格か、格の近いSクラス以上のモンスターが同エリアに二体以上いると発生する。格が違いすぎると「乱戦」は発生せず、格の低いモンスターが速攻で別のエリアに逃げ出す。雄雌の「つがい」関係であるティラオスやティラメスなどは、協力して敵対モンスターやプレイヤーに襲い掛かって来る。特殊個体はこのケースに当てはまらない場合もある。
「乱戦」が発生すると、モンスター同士大技を放って互いに大ダメージを負うので、プレイヤー側に有利ではあるが、Sクラスモンスターのギミックの関係上、エリア数が一気に増える。そう考えると、乱戦発生も有難みが薄れるが、Sクラスからのスキルで「空間力・覇」という、エリア数が多ければ多いほど火力の上がるスキルもあるので、プレイヤーにとって有利になるかは戦い方次第となる。
「クリュウウウウウゥゥゥウウウゥゥッ!!」
「ティラウォ!?」
謎のモンスターの猛攻に、スカイ・ティラオスは圧倒されていた。
それもそのはず、この謎のモンスターは、スカイ・ティラオスよりもかなり格上のモンスターなのである。
この時点でこのモンスターの名は明かされないが、情報を先出しして教えると、名を「クリスタル・デューク」と言う。クリスタル・デュークはSクラスモンスターにおいての四天王的な位置付けのモンスターで、戦う順番の関係上、四天王の次鋒感が強いが、それでもスカイ・ティラオスよりも圧倒的に強い。属性は氷属性。
このSクラス四天王は、モンハァンにおいての三大ディスコ竜との類似点が多く、戦闘力もそれに匹敵する。
C・デュークは全体重をかけ、S・ティラオスを踏みつけた。
S・ティラオスはバスター達との戦闘もあって、息も絶え絶えである。
「……これは、どうすればいいんだ?」
困惑するユッキー。
「今は取り敢えず、遠くから見守りましょう……!」
ストが大声で言う。
それに続いて遠くからまた謎の気配が……。
「ティラメエエエエエエエエエエエ!!」
ユッキーとオジサンの上をティラメスが飛び越えた。
二人の体の上をティラメスの影が通過する。
ティラメスは至近距離でC・デュークを威嚇。ティラメスは、S・ティラオスに加勢した格好となった。
C・デュークは、息を吸い込みティラメスに氷の息吹を放つ。ティラメスは両翼でガードするが、体中が凍り付いた事で、彼女の重さにより地表にヒビが入った。
ティラメスは、氷で覆われた巨大な卵のように形作られてから数秒後に、トパーズのような輝きの翼を広げ、全身黄土色に光り輝いた。
「ティラメスが進化した!?」
驚くスト。
「私は、このティラメスをアース・ティラメスと名付けます……!」
驚くバディ。
「名付けるのはえーよ」
ツッコミのユッキー。
E・ティラメスは、飛び上がって上空からレッグクロウ(足蹴り)をかます。それをC・デュークは落ち着いた表情で躱した。C・デュークが位置移動した事で、S・ティラオスが解放され、E・ティラメスとS・ティラメスは二体で高く飛んだ。
C・デュークの視線は二体のジュラシックモンスターに向いている。
その間に、ストとバディはユッキー達の元へ行った。
「もしかしたら、ティラオスとティラメスの合体技が放たれるかもしれません。ここにいたら危険です! この亜空間から逃げましょう……!」
慌てるスト。
「皆さん、これを腕につけて下さい」
バディから貰ったリングを装着するユッキー達。
「装飾品が解放されました」の表記が出る。
「これはクゥイックテレポゥトリゥイング、ですっ!」
「一々発音よく言わなくていいから。クイックテレポートリングね」
「これを装着して崖から飛べば、このクエストから脱出出来ます」
ユッキーが辺りを見渡すと、何時の間にか荒野の崖エリアが、亜空間に浮かぶ断崖絶壁のような場所になっていた。
周囲はどこまでも暗いヴァイオレットに染まっている。
「私達は先に行きますね」
バディは、崖から飛んでシュワンと消えた。
「皆さんも僕達に続いて下さい」
ストも、崖から飛んでシュワンと消えた。
「ほらセカンド、オイオイヨ。そうだ、皆オイオイヨと言いながらオイオイヨう」
「何を言ってるか意味がわからないワン。飛び降りろが元ネタなら、落ちる人が言うのは可笑しいんじゃないか?」
ユッキーはセカンドを持ち上げた。
ちなみに、プレイヤー全員が飛び降りるまで、イベントの進行は待ってくれる。
「……!? 何するワン!」
「勇気が出ないなら、俺が落としてやるよ。セカンド、勇気爆発だ」
「これじゃぁ飛び降りるじゃなくて、突き落とすだワン!」
ユッキーは、獅子の如くセカンドを崖から落とした。
「オイオイワーン!」
フェードアウトする声と共に、セカンドはシュワンと消えた。
「ユッキー、一緒に落ちないか?」
「そうだな。一緒にオイオイヨだっ!」
ユッキーとオジサンは固い友情の握手を交わし、颯爽と崖から飛んだ。
「オイッ! オイッ! ヨォ!」
「エイッ、エイッ、ヤー!」と同じテンポで、ユッキーとオジサンはオイヨした。ユッキーは落下しながら上空を見上げた。視線の先には、二体の飛竜が円をかいてブレスを放つ様子があった。
二人が退散した後、大技のぶつかり合いで、このクエストの亜空間は消滅した。




