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207 RE:イクサから始まるバスター生活

「ゆけっ、セカンド!」


「バウッ!」


 ユッキーの指示で、セカンドは走り出す。

 今回はいけそうな気がした。

 強風吹き荒れる山岳地帯の荒野で、

 立ち向かう相手は十度目の正直となるティラオス。

 四足歩行の土色の鱗で覆われた恐竜型モンスターで、フィールド一帯のボスとして君臨していた。

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアオオオオオッ!」


 ティラオスは、インド象並みの巨体を揺さぶり、大地を蹴り上げて咆哮を放った後、体を丸め始めた。

 咆哮と強風により、ユッキーは大剣を地表に突き刺して吹き飛ばされないようにガード。大剣はガードが出来るので、それによりスキルが無くてもタイミングが合えば、咆哮や強風を防げる。

 セカンドは、咆哮と強風耐性のスキルによって何とか持ちこたえ、空中に朧玉を飛ばした。


 その間、ティラオスは土色の鱗をエメラルドの輝きへと変化させながら、

 一帯を覆い隠すような翼を生やして上空へ飛び立とうとしていた。

 ティラオスは、拡張種スカイ・ティラオスへと進化したのだ。


 パァン!


 朧玉が弾け、周囲が一瞬にして黒い煙で覆われ太陽を隠した。


「今だっ! オジサン!」


 ユッキーが叫ぶと、崖上に待機していたオジサンが飛び降りてきた。オジサンはハスキルーガンに睡眠弾を込め、酩酊しているティラオスに三発撃ち込んだ。


「グルルルルッ」


 翼を広げていたスカイ・ティラオスは、丸まって眠りにつく。

 その隙に、ユッキーとオジサンとセカンドは、機械仕掛けの大火力爆弾を二個ずつ設置した。


「オジサン、また失敗するかもしれないけど、溜め切りさせてくれない?」


「構わないぞ」


「せーのっ、えいっ!」


 大剣はスカイ・ティラオスの頭部の手前に刺さり大地を切った。


「ヤー!」


 溜め切りの二発目が不発。


「ピーヤ!」


「ユッキー、向きがずれてるぞ」


「わかってるよオジサン。難しいんだよ溜め切り……」


「トュッ」


 のそのそっとスカイ・ティラオスは起き始める。睡眠状態は時間経過で解除されるのだ。

 その様子を見たセカンドは爆弾に体当たりして爆発させ吹っ飛んだ。溜め切りは当たらなかったが、爆弾によるダメージは稼いだ。


「……バフッ」


「すまない、セカンド!」

 

 オジサンはすかさず朧玉を空中に投げ、再度、スカイ・ティラオスを酩酊させた。


「ユッキー、閃光ハメをしよう」


「閃光っていうか、黒煙だけど」


 体制を立て直したセカンドは作戦内容を理解して頷き、ユッキーは大剣を持って突っ込み、オジサンは通常弾に切り替え援護射撃を始めた。

 再度眠らせないのは、二回目の睡眠は耐性が発生する為だ。

 朧玉の在庫が切れる前に倒すという勝負に出た。

 この戦いは正午固定になっている為、朧玉による撃破は正攻法だった。


 力強く大剣を振り回すユッキー。

 ひたすら通常弾を打つオジサン。

 朧玉を投げ続けるセカンド。


「ご主人ら、朧玉が尽きた」


「くっそ、まだ倒れないのか!」


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァ!」


 咆哮と強風が吹き荒れ、周囲の者達は吹っ飛ばされる。

 深緑の竜は空中で一回転し、ユッキーを薙ぎ払った。


「クッハッ! 体力の九割を持っていかれた」


「少し防御力を上げたが、僕が当たるのはやはりまずいか」


 ガンナーは近接剣士に比べて防御力が低い。


「もう一度眠らせるしかないのか……」


 スカイ・ティラオスが飛行しオジサンの方に突進。オジサンはユッキーの方にローリングで避け、ユッキーは所持していた残りの朧玉を投げた。


「これが最後だ。この機を逃したら、またエリアチェンジを繰り返されて、タイムオーバーになってしまう!!」


 その時だった。


「助太刀しますわ!」


 チャットにコメントが流れた。


「誰だ? 初めての助っ人?」


 驚くユッキー。


「いや、だが所定位置がこのエリアから遠い」


 冷静に状況判断するオジサン。

 救援の所定位置はランダムとなっており、戦闘中のエリアからは遠かった。


「お待たせ」


「早!」


 ものの数秒で戦闘エリアに到着した女、その名も「セイカ」。セミロングの黒髪を靡かた忍者のような軽装で、武器種「ツイスター」を装備していた。ツイスターはこの世界において「双剣」に当たる武器だ。

 セイカ……この名前、聞いた事がある。何処で聞いたのだろう。思い出せない。

 セイカは、バスターランク「14」で、ハイバスターランクは「1」。

 バスターランクは「BR」と略され、Sクラスのシナリオを進行すると徐々上昇し、Sクラスのメインクエストをクリアすると「10」からのスタートとなり、そこからクエストをクリアする度にまた上昇していく。上限は「999」。Tクラスに突入すると、ハイバスターランク「HBR」が解放される。上限は「999」。

 つまり、セイカはSクラスのメインクエストをクリアし、Tクラスを齧った辺りのバスターだと推測出来る。


「このエリアの真逆にいたのにどうやって移動したんだ?」


 オジサンはセイカに質問を投げかける。


「もっと上のクラスに行けば出来るようになるわよ。……私も最近出来るようになったんだけど。それより、閃光ハメしてたんじゃない?」


「よくわかったな」


 喋りながら朧玉を投げるセイカの問いに答えるユッキー。


「このクエストはそれが成攻法だからね。ノーマルクラスの装備じゃ、それ以外でクリア出来ない仕様になってると思うよ」


「そんな理不尽な」


「それより、私がハメ役引き受けるから、皆でその間攻撃しなよ」


 セイカは、Tクラスの序盤装備な為、彼女が攻撃に加わると簡単にクエストをクリア出来てしまう。だから、ユッキー達に攻撃役を譲ったのだろう。


「……助太刀、感謝する」


 ユッキーは、「俺達だけでクリア出来ればよかったなぁ……」というような苦い表情を見せつつ、閃光ハメでずっと酔っ払い状態のスカイ・ティラオスに立ち向かった。今まで逃げ回って捉える事の出来なかったスカイティラオスは、一歩も別のエリアに移動する事もなく、エリア「10」で撃沈した。


「勝ったっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ユッキーは勝利に叫び、オジサンは小さく拳を握る。

 そしてセカンドは遠吠えをした。

 やっとだ、やっとユッキー達はこのクエストをクリアした。

 Nクラスでここまで熱い戦いを見れたのは何年ぶりだろう。

 僕自身も心が震えた。


 彼らは辛くもスカイ・ティラオスに勝利したのだった。


 ……が、このクエストは「スカイ・ティラオスの撃退」がクリア条件の為、もちろんスカイ・ティラオスを倒せた訳ではない。

 このモンスターの剥ぎ取りを行えない中、次のシナリオ展開(剥ぎ取りなどの時間)までの「60秒」が発生した。その間に、セイカは勝利に酔いしれているユッキー達に近づいていった。


「やっと、会えた……」


 ユッキーは目をぱちくりさせた。


「どちら様で?」


「あぁ……この姿じゃ、わからないか」


「もしかして……」


「わかりました?」


「エリちゃん?」


「誰ですか、エリちゃんって!」


 そうこうしてる間に60秒が過ぎ、メインクエスト進行中のプレイヤー以外はマップから除外された。セイカは「あっ、ちょ」と言葉を残して消えていった。


「何だったんだろう」


「ユッキー、ありがとうは言いたかったな」


「そうだな、次会う事になったらありがとうを言おう」


 ユッキーとオジサンの語り合いをよそに、メインクエストは進行する。

 離れてこの戦闘を見ていたバディとストがユッキー達のエリアに来た。


「やりましたね、皆さん!」


「バスターさん達ならやれるやれるっ! ……と、思ってましたっ!」


 ストの次にバディが話した。

 その瞬間、スカイ・ティラオスは「カッ」と目を開け立ち上がった。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァ!」


 スカイ・ティラオスによる咆哮、そして強風が発生し周囲の人間を吹き飛ばした。その中でバディはその場に倒れ込んだだけなので、スカイ・ティラオスの攻撃射程範囲内に留まったままになった。


「バディ!」


 ユッキーは叫んだ。

 だが、見えない壁的な力で動けない。


 バディが立ち上がると、スカイ・ティラオスは両翼を広げ、バディに向かって鋭利な爪を振りかざした。

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