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206 あの飛竜を彷彿とさせる飛行能力

 Nクラスのボスモンスターは、歩行系統ばかりなので、エリアチェンジをしても隣接したエリアに移動するだけなので追いつけやすかったが、Sクラス以上のボスモンスターは、飛行して滑空したり浮遊状態のモンスターが多く、エリアチェンジする祭はエリアを飛ばして移動する為、機動力の低いNランクバスターは中々追いつけないのである。今でこそ上位ランクの機動力や装備で苦戦を強いられる事は無いが、Nランクまでしか実装されていなかった当時は、数々のプレイヤーを時間制限に追い込んで葬ってきた。


 刻々と制限時間が迫る中、

 ユッキーはセカンドの助言でクエストをリタイアした。


 TAKE2。

 事前に設定で二回目のイベント演出をスキップに変更。

 故に一度見たストとバディのセリフチャットはカットされる。

 クエストを受注し出発。

 ティラオスが瀕死になり、スカイ・ティラオスになって飛び始めてからユッキーは目つぶし系アイテム「暁玉」投げるが遠すぎて失敗。

 距離が遠ければ酩酊状態にできないのはもちろんだが、目つぶし系アイテムでも、夜に効果の高い「暁玉」と、昼に効果の高い「朧玉」の仕様に気付いたセカンドの助言によりリタイア。効果量の差は確率に加え距離も関係するので、昼固定のこのクエストは「朧玉」を使った方がいい。


 TAKE3。

 ティラオスが進化しようと体を丸めている間に、ユッキーは「朧玉」を投げまくって失敗。目を開けている状態で、投げているプレイヤーの方をボスモンスターが見ていないと、目つぶし系アイテムは効果が無い。

 無論、フリャフリャなどの目が無いモンスターや、視力が低く感知を視覚に頼っていないモンスターにも効果が無い。

 今回もリタイア。


 日を改めてTAKE4。

 最初の閃光ハメ役をセカンドが担い、最初のエリアにとどめる事に成功するものの、ガチバトルに持ち込んだら持ち込んだで、スカイ・ティラオスの火力に対応できず3乙でクエスト失敗。


 TAKE5。

 初手の朧玉による拘束は成功。

 その後、ユッキーとオジサンはひたすら相手の攻撃をよけた。

 おそらくこれはモーションの確認で、今回は練習といった感じなのかもしれない。暫くして、スカイ・ティラオスは大技を放ってエリアチェンジしたので、ユッキーとオジサンとセカンドは三手に分かれてスカイ・ティラオスを追い始めた。

 スカイ・ティラオスと同エリアになったセカンドは朧玉を投げたが、上空を飛んでいたので効果範囲に及ばず無効。次にユッキーの待ち伏せしていたエリア「10」に戻って来るが、ユッキーのいるエリアの上空をくるくると飛んでいるばかりで、中々地上に降りてこなかった。


「アイツ……降りてこないんだけど……」


 ティラオスの好戦的ではないという設定が牙を剥いた。

 このスカイ・ティラオスはヒート状態にならないと襲い掛かってこない。戦闘のチャンスは進化のタイミングであり、一度ヒート状態が解除されると中々ヒート状態にならない。

 ヒート状態のなりやすさは、火雷風麻竜無属性がなりやすく、水氷土毒眠酸属性がなりにくい。このスカイ・ティラオスは、進化前が土属性である事と、ティラオスの性格設定と、実の所特殊個体であるという事もあって、中々ヒート状態にならないのだ。

 ヒート状態は大技の発生とエリアを増やすというプレイヤー側のデメリットがある一方、早く戦って勝負を決めたい場合はメリットになる。それにヒート状態になりにくいモンスターは、一度に発生するエリアの増加数が多かったりするので、何方が有利不利になるかは断言できない。


 そしてこのクエスト、Nランクまでしかなかった頃はメインクエストの最終戦だった為、難易度は現在よりも高く設定されていた。

 当時はヒート状態から大技を放った後、エリア数を「5」も増加させるマジキチ仕様で、多くの初見プレイヤーを困惑させた。その後、周年事に合わせて四度ナーフされ、一度目は「3~5エリアの増加」、二度目は「3エリアの増加」に固定、三度目は「1~3エリアの増加」、そして四度目のナーフで「1エリアの増加」という今の形に落ち着いた。

 何故これほどまでに難しく設定されていたのかというと、当時のプレイヤーは、このクエストをクリアして解放される新装備枠の装飾品堀りでスキルガチャをするしかやる事がなかったからである。


 ユッキー達は今回もリタイアした。


 TAKE6。


「ご主人、今回はいよいよ……」


「いよいよ?」


「救援を出してみるワン!」


「まぁ、仕方ないか……」


 クエストに参加出来る最大人数は「四人」。AIハスキルーは一人として扱われるので、このクエストに追加で参加出来るのは一人のみ。

 救援を出すと発煙筒が「パンッ」と上がる。

 亜空間で発煙筒は意味があるのかというツッコミは無しだ。

 救援を出してから五分経過。十分経過。十五分経過。


「誰も来ねーじゃねーか!」


「ノーマルランクのクエストだから仕方ないか。でもこれからは、救援を出し続けるワン」


 ユッキーは、額をトントンしてネット検索してるようだった。


「えっ……と、ジュラシックバスターのプレイヤーは全世界一千万人突破……! すげぇ……の、か? これは多いのか?」


 全世界の人口が減少している中で、フルダイブ型VRメインのオンラインハンティングゲームの中では世界一であり、この数字は頑張っている方なのだ。

 もう一度言おう、この数字は頑張っている方で凄いのだ……!


「ユッキー、一千万人は凄いと思うぞ!」


 オジサンは言う。


「あ、あぁ……一千万人は凄いな」


 ユッキーは言う。

 わかればよろしい。

 だが、救援は来なかったのでリタイア。


 TAKE7。

 エリア「10」の隅の小高い場所が安全だと気付いた彼らは、ガンナーのオジサンの戦闘配置をそこにした。プレイヤー全員が安全圏にいるとボスはエリアチェンジしてしまうが、ガンナー一人が安全圏にいる場合はセーフだ。……だからと言ってクエストをクリア出来た訳でもなくリタイア。


 TAKE8、TAKE9と救援を出しながら戦うが、相変わらず救援は来ない。

 疾風イーエンで学んだ睡眠爆破も織り交ぜ戦っても、エリア「10」にスカイ・ティラオスを継続して拘束し続ける事は難しく、一回、二回は戦闘不能になるので、制限時間内に撃退するまで体力を削る事が出来ないのであった。


 この日も、スカイ・ティラオスのクエストをクリアする事が出来なかった。


 TAKE10。その前に……。

 この日は、初めてセカンドの装備を見直していた。

 ハスキルーの装備は「武器」「頭」「胴」。

 武器はスカイ・ティラオスの落とした素材で作った「風属性」の「スカイファング」を製作して火力を上げた。少なくとも土属性であるティラオスは風属性が弱点なので、ティラオスが進化するまでのタイムは縮む。

 防具はイビルゲイの落とした素材で作った頭装備「ゲイイヤホン」で「咆哮耐性」スキルを付与し、胴は「スカイフォーム」で「強風耐性」スキルをつけた。これで閃光ハメの安定性が増す。

 この時点で、「咆哮耐性」と「強風耐性」をプレイヤーに付与するのは難しく、イビルゲイとスカイ・ティラオスの素材数からしてもプレイヤー分までは足りないので、ハスキルーのみの装備更新にしていた。

 ユッキーの装備はプラチナ一式で防御を固め、オジサンは武器「ハスキルーガン」で状態異常を狙う。

 目つぶし系アイテムもフルで持ち込み準備万端だ。


「ゲイ……イヤホン!」


「オジサン……鯨の事だぞ」


「すまない、反応してしまった」


 今度こそ彼らは、勝利へと向かう。

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