201 睡麻蝸牛と大陸歩鯨の依頼文
「バスターさん、ジュラシックモンスターについての研究に進展がありましたので、お呼びしました」
疾風イーエン討伐後、ホライゾンハウスにプレイヤーが入るとイベントになる。
今ユッキー達が、ストに呼ばれて会合室で話し合いをする所だ。バディとハスキルーのオーガ、ヒジカタもいる。
「何かわかったんですか?」
「先日、ティラオスの死体が発見されました」
「えっ? ティラオスって最初に戦ったモンスターですよね。何か因縁ありげだったのに?」
「あ、いえ、あの時戦った個体ではありませんね」
「ティラオスって複数体いるのか」
「死体が発見されたのは、この地で最初に発見されたティラオスです」
「それってわかるのか?」
「最初の個体は、マーキングしてあったので間違いないかと。どうやら別のモンスターに襲われたようなのです」
「ふむふむ。それで俺達にそのモンスターの討伐をさせようって事だな」
「まだ、どのモンスターに襲われたかはわからないのですが、彼らジュラシックモンスターは味方同士という訳ではなく、一般生物同様、捕食関係にあるのかもしれませんね。それと……山岳地帯にバスターさん達が戦ったティラオスがいるとの情報を得ました」
「俺達と戦った個体だって何で言えるんだ?」
ユッキーの疑問に、黒犬のヒジカタが答えた。
「バスターサン達が戦った時にティラオスが落とした素材と、山岳地帯、グランキャニオンで発見された個体が落とした素材のDNAが一致した。クローンでない限りは同個体であろう」
「素材って……。それにしてもこの犬、無駄にイケボだな」
黒犬ヒジカタは、イケボランキングで上位に入る程のイケボである。
「武器や防具の素材は、ジュラシックモンスターの部位が基礎で使われていますから。ジュラシックモンスターとまともに戦えるようになったのは、彼らの素材を使い始めて不思議な力を得てからなんです。ジュラシックモンスターと同エリアに入ると強制的に武器の性能解放が行われるのは、彼らの素材を使っているからなんですね」
ストの解説。
「バスターの皆さん、とうとうこの時がやってきてしまいました。次のクエストは因縁の大地の竜ティラオス討伐です」
バディは両手を合わせて言う。
「まだ、一週間しか経ってないですけど、終盤みたいな空気ですね」
「並大抵の装備では難しい気がします。しっかり準備をして行きましょうね!」
ホライゾンハウスのイベントが終わり、次のクエストはノーマルランクにおけるメインクエストの最終戦となる。
バディの言っていた通り、後半のギミックにより並の装備では太刀打ちできない仕様になっている。アイテムパックに頼らない通常プレイなら、ここで装備を更に強化する必要があるのだが、彼らの場合、とある戦術をとれば確実に倒せるだろう。その戦術に気付くかどうか。
ここで、外にいるバディに話しかければ、「決戦・大地の竜ティラオスの討伐」のクエストを受けれるのだが、ユッキー達は別の方へ視点を向けていた。
「なぁ、ユッキー……この睡麻蝸牛フリャフリャの討伐と、大陸歩鯨イビルゲイの討伐はやらなくていいのか?」
睡麻蝸牛フリャフリャは草原の竜ティラメス討伐後に受注出来るようになり、大陸歩鯨イビルゲイは疾風イーエン討伐後に受注出来るようになるが、何方もメインクエストに含まれない為、メインシナリオだけを進行させたい場合は、受注する必要が無い。
「このクエストはメインを進める上で必要は無いし、ティラオス討伐の為に装備を整える為のボスでもないからやらなくてもいい。イビルゲイに至っては、Nランクのラスボスより、下手したら強いらしいし」
セカンドが補足を入れてくれた。
「今の内に言っておくけど、あんまネタバレはやめてくれよ。俺、そこまで気にするタイプじゃないけど」
「ユッキー、セカンド……このイビルゲイのクエストが気になるんだが」
「オジサンが自主性を発揮してる……! これは、このクエストに行くしかありませんねぇ」
「いや、私達には目的があって」
「王子達! ……王子達は俺達がボスジャッカルの討伐をするまで、何をしてたか忘れてないよなぁ! 五時間もキャラクリしてて、全然シナリオ進めてなかったんだぞ!」
どうやら王子もこのゲームをプレイしているようだ。……達、という事は、王子も誰かとバディモードで組んでやっている可能性がある。
「その点については……ぐぅの音もでない」
セカンド敗訴。
「これで決まりだな。それにしてもオジサンは、何でイビルゲイに行きたいんだ?」
「いや……どれだけ恐ろしいゲイなのか気になってしまった」
ユッキー、ズッコケポーズ。
「オジサン、このゲイって言うのは鯨の事だ。鯨を音読みでゲイって言うんだ」
「そうなのか、でもこのクエストの依頼人の説明文が」
「説明文……? 気にした事なかったな。えっと何々……第三秘書からの依頼」
依頼内容、第三秘書から。「おホホホ、最近イビルゲイとか言うモンスターが発見されたザマス。わたくし、どんなゲイなのか気になって、夜しか眠れないザマス。バスターさん達に確認してきてもらって、ついでに討伐してきてほしいザマス。討伐報酬として、わたくしの今月のボーナスを支払うマスヨ!」。
「秘書も勘違いしてるじゃねーか! ……ていうか秘書がザマスなんて言うのか? そもそも、秘書より王女、いや、どこぞの奥様キャラだろ」
「何だゲイじゃなくて鯨か。それなら別にいいかな」
「えっ、いいのか?」
「芸人とか芸者とかゲイのつく言葉に少し反応してしまうんだ。ゲイあるあるだから気にしないでくれ」
どうやらオジサンはゲイのようだ。
「俺はむしろどんな鯨か気になるんだが」
「ご主人ら……。ならば睡麻蝸牛フリャフリャの方に行くのはどうか?」
「フリャフリャ? えっとクエスト説明は……」
依頼内容、第七執事から。「へィ! ミナさん仕事は決まったかーい? 俺、フリャフリャの肉を食ってみたいんだが、ジュラシックモンスターの肉を食べると腹を下して死ぬらしいぜー! そんなんジョーダンだろベイビィ。一度食べてみたいから、俺の為にフリャフリャを狩ってきてくれないか?」。
ジュラシックモンスターの肉は硬すぎて食べれない、食べたら死ぬという設定がある。ほぼ全ての素材は、武器防具戦闘用アイテムとなり、食用にはできない。
「こんなファンキーな執事がいてたまるか。元サーファーとかだろ。それにこのクエスト達成したら依頼人が死ぬんじゃないか?」
「内容はともかく、この睡麻蝸牛フリャフリャのクエストにイビルゲイが乱入してくるらしい。このクエストならクリアできなくもないし、いいと思うぞご主人」
こうしてユッキー達は、睡麻蝸牛フリャフリャの討伐クエストを受注した。




