20 第三回メンズ・オークション閉幕
男という存在がいなくても人類は滅亡しない。
そもそも会場にいる女性達は、人類滅亡という危機感は微塵も感じさせてはいない。ヴィーナだけじゃない。こういった情報は一般的に広まっているのだ。知らないのは商品として出品されている男だけ。
それならば何故メンズ・オークションは開かれたのか。答えは出ている。ゆきひとは目覚めてから説明を受けている。今回のイベントで数千億近くの大金が動く。
要するに集金目的のイベントだということだ。
別に可笑しいことではない。利益が無ければ会社は動かないし、社会は回らない。だが金の為に無理やり未来に連れてこられたのだとしたら腑に落ちないし納得もできない。しかも男という存在を望んでない人もいる。
感情が無茶苦茶になっている男の視線の先には、百合界の女王に喰らい付いている女社長がいる。何が彼女をそこまで駆り立てているのか、それはわからない。でもそんなヴィーナを、人の上に立ち勇ましく発言しているヴィーナをゆきひとはかっこいいと思った。
「……確かに、皮膚細胞から精子を培養することは可能です。現在はY染色体のある男性の皮膚でのみ可能ですが、今後科学技術が発展すれば女性の皮膚からも可能になるかもしれません。ですが、人体の構造を完全に把握していない以上リスクは考えるべきです」
「しかーし! クローン技術は最近合法化されたな。クローンは良くて精子培養は何故ダメなのか」
「リリーさん。……タンナーズさんの言う通り、このまま話をしていても平行線を辿るだけです。私は思うんです。女性がいて男性の力強さやカッコよさが引き立つ。男性がいて更に女性の美しさや艶やかさが引き立つと。私は純粋に男子が好きです。ゆきひとさんみたいな男子を見て母性本能をくすぐられました」
「えっ」
「今回のイベントの為にたくさんの女性が集まってくれました。配信で見て下さっている大勢の女性達もいます」
ヴィーナは胸に手を当てる。
「男子には需要があります。そう、男子には、需要があるんです!!」
体中の力を振り絞って放たれた女社長の言葉に辺りは静まり返った。
パチパチと音がする。小さい拍手だ。
その拍手の主は特別バルコニー席にいるアメリカ本社社長、ギフティ・トルゲスのものだった。ギフティにつられて会場全体から拍手が巻き起こる。
拍手喝采は軍用ヘリの騒音に勝っていた。
リリーは分の悪さを感じ取り、ヴィーナから視線を逸らした。
「まぁ今回はこの辺に致しましょう。帰るよローズ!」
「はっ!」
空中歩行自動二輪に乗り込むリリー。配信カメラの方を向いた。
「もし、リリー・レズビアン・ラインのことが気になったらぁ、LLLでーけんさくっけんさくっ!」
敏腕弁護士はツッコミを入れたが、誰にも聞こえなかった。
軍用ヘリは天高く舞い上がり、それに空飛ぶバイクが続いていく。
夜空を突き抜ける風。
LLLが引き上げて残った物は、ステージ上の瓦礫と星空の光だった。
ゆきひとは茫然と輝く星々を見つめていた。
手を伸ばしても、きっと今は何も掴めない。
『ゆきひとさん、聞こえますか?』
『聞こえますよ』
『貴方は何故ベスト・ワイルド・ジャパンに出場しようと思ったんですか?』
『誰よりも魅力的な男になりたかったんです』
『それは何故ですか?』
『亡くなったばっちゃんが言ってたんです。魅力的な人間になれば魅力的な人に出会えると』
『素敵な言葉です』
『……そして、強く生きろと』
『ゆきひとさんは強いです』
『いや改めてわかりました。俺があのままベスト・ワイルド・ジャパンに出場しても優勝は出来なかったと』
『運も審査対象ですもんね』
『はは、そうですね。……俺はもっと自分を磨きたい』
『虫のいい話だとは思いますが、こうは考えられませんか?』
『……え?』
『この結婚生活はゆきひとさんが、より魅力的な男になる為の試練だと』
『試練ですか?』
『そうです。結婚相手となる彼女達からはたくさんのことが学べるはずです』
『それはさっきのステージを見て、何となくわかりました』
『ゆきひとさんは今よりもっともっと魅力的になれます』
『そう努力して生きたいです』
ヴィーナはゆきひとに対して何気ない笑顔を見せた。
月明かりに照らされた彼女は言葉にならないほど美しい。
ゆきひとは照れ隠しに小さく笑って頷いた。
「決まりましたか? ゆきひとさん!」
ヴィーナの視線の先には覚悟を決めた男の姿があった。
ゆきひとが最初の結婚相手に選んだのは弁護士のオネットだった。理由は自分が疑問に思うことに嘘偽りなく正直に答えてくれるだろうという考えから。とにかく信頼できる情報がほしかったのだ。
天上が崩れたボロボロの会場に歓声が沸き上がる。オネットは手を振って、その歓声に応えた。
アラブの女帝タンナーズはやれやれといった表情で玉座に寄りかかる。三度目の正直とはならなかったが、その表情は勝負事を楽しみ終えた満足感で満ちていた。
一方の萌香は泣き崩れている。嗚咽は止まらず会場の熱気とは真逆の態度を見せた。彼女は是が非でも結婚生活の切符を手にしたかったのだ。
ヴィーナは萌香の様子に気が付き、順番で結婚生活を送れるという発表をした。更に沸き上がる歓声。だがその発表に対して萌香は顔を上げなかった。
オネットは昇降機でステージに降り、瓦礫を掻い潜ってゆきひと達の元へ行く。
そしてキスコールが湧いた。
ゆきひとはヴィーナの方を見る。ヴィーナは平然とした表情でオネットへのキスを促した。ゆきひとは複雑な心境の中、オネットの頬にキスをした。オネットは初めての体験に喜びを爆発させた。
こうして第三回メンズ・オークションは成功という形で幕を下したのだった。




