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197 少年ストと受付のバディ

 彼らが目を開くと、広大な草原が広がっていた。

 少し離れた場所に、小学校高学年ほどの少年と、成人したばかりであろう女性がおり、かけよってきた。


「大丈夫ですか、皆さん?」


 少年の声と同時に、プレイヤーの思考に「君は?」と流れる。


「き、君は?」


 ユッキーの発言。ちなみに思考表示通りに発言しなくてもいいし、時間経過で物語は進行する。設定で自動進行をOFFにも出来るが、その場合、何か発言しないと物語は進行しない。


「僕の名前はスト! 武器を持ち込まずに亜空間に巻き込まれた人を探知して、駆け付けたんです!」


 ストの年齢は十歳で小奇麗な服装をしており、おぼっちゃま感の強い少年だった。


「俺達は亜空間に巻き込まれたんですか?」


「そうですね」


「ハイ、ハーイ!」


 ストに割り込んできた女性が、元気な声をあげた。


「私も、自己紹介していいですか?」


 プレイヤーの思考には「あなたは?」と表示されているが、少年の時とは違い、プレイヤー二人は驚きの表情で固まっていた。


「パ、パステル!?」


 ユッキーは、女性に向かってパステルという名を口にした。


「私の名前はバディ! フルネームはバディ・ジョー。クエスト発注の受付をしていて、皆からは受付ジョーって呼ばれています!」


 バディは、ピンク色の髪にツインテール、そばかすがチャームポイントの小柄な女性だ。ユッキーの驚きを見る限り、どうやらバディ役を演じた方と面識があるようだった。


「似てるけど違うか……というか本人の方が……」


「バディさん、その話はまだ早いですよ。どうやらお二方は記憶喪失みたいですから」


「俺達は記憶喪失という設定なのか」


「皆さん、トラックの荷台に乗りながらお話ししましょう」


 トラックに移動すると、運転手の親父と緑色のハスキルーがいた。

 緑色のハスキルーはストに駆け寄って小尾をフリフリしていた。


「この子の名前はオーガです。名前は厳ついですが女の子なんですよ」


「オーガデスちゃん、こんにちは」


「ふぁん!」


 ユッキー声に反応するオーガ。


「ユッキー、オーガデスじゃなくてオーガという名だ」


「スマンスマン、初歩的なミスをした」


 続いて運転手が前に出る。


「おいらは運転手のオヤジ。よろしくな!」


 オヤジは黒髭がキマっている体格のいい四十代男性だ。

 移動する場合、何処にでも現れる便利キャラで、物語に深く関わってはこない。


「オヤジさん、よろしくお願いします。それって本名ですか?」


「挨拶も一通り済んだ所で、トラックに乗りながらこの世界の現状をお話します」


「返答には答えてくれないのね……」


 Nランクの時点では、個別返答をしてくれない。

 トラックの荷台に乗り込んだユッキー、オジサン、セカンド、スト、バディ、オーガ。広大な大地と草原が生い茂るエリア「ワイルドサバンナ」の風景を見ながら、ストは世界観の説明に入る。


 この世界は、人類が争い六億人いた人口が百分の一まで減少してしまった歴史があり、人類減少と共に人間同士の争いは終息したが、一部の都市を除いて荒廃した土地ばかりになってしまったのだという。このワイルドサバンナの景色を見ただけでも、荒野に点々と古代文明跡地がひっそりと顔を覗かせ、その経過を観測できる。今は減少した人類がなんとか生活を送っているのだが、問題点はまた別にあり、その事が新たな火種を生む可能性があるのだという。


「ここ数年、各地で亜空間が発生するようになりました。ワイルドサバンナはその現象が多いエリアで、僕達のカンパニーがこのエリアの調査を任されました」


「なんと、スト君は私達カンパニーの代表代理なのですー!」


「現在、父が身動きの取れない状況でして、代わりに僕が色々とまとめている形になっています。お飾りのようなものですが……」


 元気溌剌なバディとは対照的に、ストは苦笑いを浮かべて縮こまった。


「その年で代表代理なんて偉いな」


「今僕達は調査拠点に向かっているのですが、何か質問はありますか?」


 「亜空間が火種とは?」「会社の名前は?」「俺達が見たモンスターは?」と選択肢がプレイヤーの意識に浮かぶ。全部選択しないと物語は進行しないが、第一エンディングのクリア済みデータがある場合はスキップ出来る。


「亜空間が火種とは?」


 オジサンが言う。


「亜空間はそれぞれ異なるエリアが連なっていて、大小様々です。そこには謎の科学技術が施された物があったり無かったりして、未来の物か、古代文明の物かは判別できていません。未知の科学物質に、権力者達はその技術の解析、技術転用に躍起になっていて……今は生活に浸透している程度ですが、いずれ技術の取り合いになり戦争の火種になるのではないかとの懸念が広がっています。その為、この亜空間の調査をする必要があるという事です」


「なんて名前の会社なんだ?」


 今度はユッキーが質問。


「会社の名前はTIMカンパニーと言います」


「TIM? 俺の記憶にはお笑い芸人のイメージしか……」


「名前の由来は……」


 ストはバディの方を向いた。


「気になりますか? 名前の、ゆ・ら・い」


 バディは人差し指を振って、少し色っぽく言った。


「気にならないかと言われたら気になるな」


「ふふふ、お・し・え・な・い」


 バディは、お・も・て・な・し……のテンポで話した。


「あんまこう言う事言いたくないけど……ちょっとウザいな。パステルには申し訳ないが」


「どうやらバディというキャラ、彼女がモデルになっているようだ。グーグル先生が教えてくれた。……最後の質問……あのモンスターは?」


 少しイラッとしているユッキーをよそに、オジサンが話を進める。


「あのモンスターの名前は、ティラオスと言います。亜空間が発生してから最初に観測された未知のモンスターで、恐竜に似ている事から、亜空間に関する生物はジュラシックと僕達は呼んでいます」


 全ての質問が終わると、ストは思い立ったように声をあげた。


「そうだ皆さん、ジュラシックバスターになりませんか?」


「スト君、それはいいアイディーア! 武器の扱いもアメリカ人が寿司を握ったような感じで将来性を感じるし、私がクエストの案内をしたいです!」


「どういう例えだよ」


「その、ジュラシックバスターというのはどういう事をするんだ?」


 バディの発言に苛立ちを隠さないユッキーをよそに、どんどん会話を進行するオジサン。


「ジュラシックバスターとは、ジュラシック、即ち亜空間に関するモンスターを討伐する職業です。亜空間にはモンスターが生息していて、カンパニーで調査をしたくても安心してできません。……なので、こういった職種が生まれたという訳ですね」


「皆さん記憶喪失みたいですし、仕事をしないと食べていけないですよね。私にお任せ下さい! 皆さんの面倒は私が見ます」


 胸を張るバディに、ユッキーは怪訝な顔をした。


「わかりました。俺達はジュラシックバスターになります。……そうしないとイベントが進行しないので」


「ユッキー、せっかくのゲームだから楽しもうじゃないか」


「オジサン……ごめんごめん。そうだな、投げやりはダメだ。スト、バディ、俺達はジュラシックバスターになります。立派な戦士になるから雇ってくれ!」


「ありがとうございます! 皆さん!」


「そう、こなくっちゃ!」


 ガタンッとトラックが揺れる。

 その揺れでユッキーの視線が上向いた。

 前方には風車が点在する小規模な施設があった。


「見えてきましたよ! 僕達の拠点、スカイホライズンが!」

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