195 美男美女にできないキャラクリ
きっかけはキャラクタークリエイトの通知でした。
キャラクタークリエイト、略してキャラクリ、キャラメイクとも言いますが、主に自分を投影するタイプのゲームにおいて、自身の操作するキャラを創作、または設定する機能で、大体ゲームの序盤に決める必要があり、その事についての通知がありました。それは、3Dスキャン使用ユーザーの「男性プレイヤー」が現れたという内容でした。
この情報に僕は驚きました。
どういうことなのかを細かく説明します。
数百年前からゲーム界において「ポリティカルコネクト」という概念が定着していました。略してポリコレと言います。
ポリティカルコネクトとは、マイノリティや社会的弱者の立場に立ち、人種や性別に対して、寛容であろうという考え方です。
この考え自体は素晴らしいと思うのですが、この事が、ゲームやそのほかの映像コンテンツにおいての内容を歪ませる事態に発展していきました。
黒人やLGBTを出さないと評価しないとか、元々白人だったキャラをリメイクで黒人にするとか、主要キャラのセクシャリティを脈略もなく変更したり、あえて太ったキャラやガリガリのキャラを主人公にするなど、ゲームのクオリティよりもポリティカルコネクトを優先するようになったのです。
ポリティカルコネクトに配慮しないとバッシングを受けたり低評価をつけられたり……なので、ゲーム制作会社は配慮せざるを得なかったのです。
その背景には、配慮する事でゲーム開発費を援助してもらえるなどのケースもあったのですが、ジュラシックバスターは、元々利益を重視したタイトルではなく、採算が取れない事を理解した上で開発したタイトルなので、極力「ポリコレを排除」しようという初期の開発メンバーの理念があり、そういった要素は可能な限り無くし、ゲーム発展初期のようなシンプルさ、そしてゲーム自体のクオリティを上げようという心がけがありました。
……なので、ジュラシックバスターのキャラクリにおいては、現在では見られなくなった、最初の画面に「男性か女性か」を選ぶ項目があります。
キャラクリの決定画面で、再度、性別入力をすると男性女性以外に変更する事も出来ます。
しかし、このゲームにおいてもデフォルト状態だと、美男美女にできません。その対策というか集金要素として、課金すればキャラクリの幅が広がり、思い描いたイケメンや美女に出来るのですが、無課金だといくらキャラクリを練っても、これじゃない感の操作キャラクターになります。
実は、課金以外に無課金で「3Dスキャン」という、本人の容姿をスキャンし、そのデータを元にキャラクターを起こせるという救済処置があります。
つまり、自分の見た目をした操作キャラを作れるのです。
このご時世、遺伝子操作で容姿端麗な人が多く、3Dスキャンした方が見た目のいいキャラになります。その為、キャラクリに納得できないユーザーは、3Dスキャンを使うユーザーが多く、その場合、男性がいない現在の社会においては、ほぼ確実に女性アバターのプレイヤーとなります。ジュラシックバスター内においてもトランスジェンダー男性プレイヤーはいますが、容姿を完全に男にする性転換手術は恐ろしほどの課税が課せられる為、現在、トランスジェンダー男性においての3Dスキャンプレイヤーは存在せず、そういった方は課金してキャラクリを行っているケースがほとんどでした。
つまり、3Dスキャンユーザーが100%女性だったこのゲームにおいて、初めての男性プレイヤーが出現したので驚愕したのです。
現実社会で男性がほとんどいなくなった事は知っていましたが、外部の事に無頓着な僕は、外がどういう状況かいまいち理解していませんでした。
まず、この3Dスキャンをしたプレイヤーのデータを調べました。
プレイヤーネーム「ユッキー」「オジサン」それとお供枠の「セカンド」の三人。最近のゲームは、プレイヤーのプレイ状況をゲームに生かすためにデータ収集をしてもいいかという利用規約にサインしてもらうので、僕の行為は違法ではありません。……とは言っても、交友関係の無い特定のプレイヤーにここまで注力する事は今までありませんでしたが。
プレイヤーネーム「ユッキー」。本名、大桜ゆきひと。性別は男性。
生年月日は1992年11月22日。……1992年? ……どういう事だろう……今は西暦2827年だというのに、適当に入力した可能性はあるが、これは後で考えよう。
国籍は日本。なるほど、モンハァン発祥の国生まれか。
職業「マッチョ」。いや……それは職業ではない。
他は非公開。
プレイヤーネーム「オジサン」。本名、非公開。性別は男性。
生年月日、非公開。国籍、非公開。職業「スパイフ○ミリー」。
職業以外非公開だが、プレイヤーネームと職業でどういう人物か想像は出来る。
ただ、こちらも職業が漫画のタイトルになっているので、適当に入力した可能性は高いな。
プレイヤーネーム「セカンド」。本名、非公開。性別は男性。
生年月日、非公開。国籍、非公開。職業「黒服」。
こちらはジュラシックバスター内におけるお供キャラ枠での参戦。
このゲームには、人間キャラのサポートとして「ハスキルー」というシベリアンハスキーモデルの大型犬がいる。
基本的にはNPCだけど、プレイヤーがアンドロイドAIを所持している場合、そのAIを「ハスキルー」のサポートプレイヤーとして参加させる事も可能となっている。モンハァンは猫系のサポートがいるので、ジュラバスでは犬系のサポートを実装したらしいのだが、ナンバリングではない本編タイトルで、犬系のサポートが実装されていた事が開発終盤でわかり、残念な事になったという逸話がある。
ちなみに現時点でジュラバスは猫型のサポート実装の予定は無い。
セカンドも職業以外は非公開。
ただ、ハスキルーはAIでなければ選択できないので、AIである事は確実だ。
3Dスキャンはお供には実装されていないので、本体とは違う容姿だろう。
三人の情報がわかった所で、少し現実社会の動向について調べた。
どうやらユッキーとオジサンは、メンズ・オークションというイベントで、過去からタイムマシンで未来に送られてきた男性のようだ。生年月日の件はこれで納得。……というか、数分で特定出来てしまった。
この時代にタイムマシンが完成していてるという事に少し驚いたが、僕自身の出自を考えれば不可能ではないのかもしれない。
セカンドについては謎が多く、現時点ではよくわからなかった。
彼らを追っていけば、何故この時期にジュラシックバスターを始めたのか、それに併せてセカンドが何者なのかもわかるだろう。
それ以前に僕は、3Dスキャン初の男性プレイヤーの狩りを見たくなった。
ここから、僕のユッキー達を追う旅が始まったのである。