193 イクサから始まるバスター生活 『○』
(あらすじ)筋骨隆々の大剣使いユッキー、ガンナーのオジサン、お供の大型犬であるセカンドは、とある人物を仲間に引き入れる為、
VRゲーム、ジュラシックバスターのエンドコンテンツを目指す!
……その様子を見ているゲームマスターからの視点のお話。
8 ジュラシックバスター
「ゆけっ、セカンド!」
「バウッ!」
筋骨隆々な戦士の指示で、赤髪の黒毛犬は走り出す。
フィールドは強風吹き荒れる山岳地帯が大半で、地表は荒野で覆われている。
立ち向かう相手は大地の竜「ティラオス」。
四足歩行の土色の鱗で覆われた恐竜型モンスターで、フィールド一帯のボスとして君臨していた。
「ガァアアアアアアアアアアアアアオオオオオッ!」
ティラオスは、インド象並みの巨体を揺さぶり、大地を蹴り上げて咆哮を放った後、体を丸め始めた。
咆哮と強風により、筋骨隆々の戦士は大剣を地表に突き刺して吹き飛ばされないようにガード。
赤髪の黒毛犬は、咆哮と強風耐性のスキルによって何とか持ちこたえ、空中に朧玉を飛ばした。
その間、ティラオスは土色の鱗をエメラルドの輝きへと変化させながら、一帯を覆い隠すような翼を生やして上空へ飛び立とうとしていた。
ティラオスは、拡張種スカイ・ティラオスへと進化したのだ。
パァン!
朧玉が弾け、周囲が一瞬にして黒い煙で覆われ太陽を隠した。
朧玉は二種ある目つぶし系のアイテムの内の一つで、飛び立とうとしていたスカイ・ティラオスを酩酊させ、飛行を妨げた。
「今だっ! オジサン!」
戦士が叫ぶと、崖上に待機していた壮年のガンナーが飛び降りてきた。ガンナーは武器種「ライトライフル」の「ハスキルーガン」に装填可能な睡眠弾を込め、酩酊しているティラオスに三発撃ち込んだ。
「グルルルルッ」
翼を広げていたスカイ・ティラオスは、丸まって眠りにつく。
その隙に戦士とガンナーと黒犬は機械仕掛けの大火力爆弾を二個ずつ設置した。
「オジサン、また失敗するかもしれないけど、溜め切りさせてくれない?」
「構わないぞ」
初心者が大剣の溜め切りをモンスターに当てるのは難しい。
それが例え大型モンスターであっても。
火力を出すには、一発目よりダメージ倍率の高い二発目を当て、その上で肉質の柔らかい頭部に当てる必要がある。
寝かせた事で当てやすくなり、睡眠中の一発目は火力が二倍になる為、このタイミングで溜め切りをヒットさせるかどうかで勝敗に大きな影響が出るのだ。
「せーのっ、えいっ!」
大剣はスカイ・ティラオスの頭部の手前に刺さり大地を切った。
「ヤー!」
溜め切りの二発目が不発。
「ピーヤ!」
「ユッキー、向きがずれてるぞ」
「わかってるよオジサン。難しいんだよ溜め切り……」
「トュッ」
のそのそっとスカイ・ティラオスは起き始める。睡眠状態は時間経過で解除されるのだ。
その様子を見たセカンドは爆弾に体当たりして爆発させ吹っ飛んだ。溜め切りは当たらなかったが、爆弾によるダメージは稼いだ。
「……バフッ」
「すまない、セカンド!」
オジサンはすかさず朧玉を空中に投げ、再度、スカイ・ティラオスを酩酊させた。
「ユッキー、閃光ハメをしよう」
「閃光っていうか、黒煙だけど」
閃光ハメとは、目つぶし系アイテムを連続で使用し、モンスターを行動不能にしている間に集中攻撃するという戦闘スタイルの事を言う。
この世界には、暁玉と朧玉の目つぶし系アイテムが二種あり、閃光を放つのは暁玉の方で、そちらが閃光ハメの名前の由来となっている。
暁玉の閃光はフィールドが夜の時に効果量が高く、朧玉の黒煙は昼に効果量が高くなるいう特性がある。深夜零時と正午はそれぞれ確率が99%になる。
体制を立て直した黒毛犬は作戦内容を理解して頷き、戦士は大剣を持って突っ込み、ガンナーは通常弾に切り替え援護射撃を始めた。
再度眠らせないのは、二回目の睡眠は耐性が発生する為だ。
朧玉の在庫が切れる前に倒すという勝負に出た。
この戦いは正午固定になっている為、朧玉による撃破は正攻法だった。
力強く大剣を振り回す戦士。
ひたすら通常弾を打つガンナー。
朧玉を投げ続ける犬。
睡眠爆破と違って善戦している。
それもそのはず、彼らはこの戦いに九回も失敗しており、
今回の戦いは十度目の正直だったのだ。
「ご主人ら、朧玉が尽きた」
……と犬。
「くっそ、まだ倒れないのか!」
戦士は慌てていた。
「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオァァァ!」
咆哮と強風が吹き荒れ、周囲の者達は吹っ飛ばされる。
深緑の竜は空中で一回転し、戦士を薙ぎ払った。
「クッハッ! 体力の九割を持っていかれた」
「少し防御力を上げたが、僕が当たるのはやはりまずいか」
ガンナーは戦士に比べて防御力が低い。
一撃でも当たれば、即、中継地点にリングアウトだ。
「もう一度眠らせるしかないのか……」
緑竜が飛行しガンナーの方に突進。ガンナーは戦士の方にローリングで避け、戦士は所持していた残りの朧玉を投げた。
「これが最後だ。この機を逃したら、またエリアチェンジを繰り返されて、タイムオーバーになってしまう!!」
その時だった。
「助太刀しますわ!」
チャットにコメントが流れた。
「誰だ? 初めての助っ人?」
驚く戦士。
「いや、だが所定位置がこのエリアから遠い」
冷静に状況判断するガンナー。
救援の所定位置はランダムとなっており、戦闘中のエリアからは遠かった。
「お待たせ」
「早!」
ものの数秒で戦闘エリアに到着した女、その名も「セイカ」。セミロングの黒髪を靡かた忍者のような軽装で、武器種「ツイスター」を装備していた。ツイスターはこの世界において「双剣」に当たる武器だ。
「このエリアの真逆にいたのにどうやって移動したんだ?」
ガンナーは女に質問を投げかける。
「もっと上のクラスに行けば出来るようになるわよ。……私も最近出来るようになったんだけど。それより、閃光ハメしてたんじゃない?」
「よくわかったな」
喋りながら朧玉を投げる女の問いに答える戦士。
「このクエストはそれが成攻法だからね。ノーマルクラスの装備じゃ、それ以外でクリア出来ない仕様になってると思うよ」
「そんな理不尽な」
「それより、私がハメ役引き受けるから、皆でその間攻撃しなよ」
「……助太刀、感謝する」
戦士は、「俺達だけでクリア出来ればよかったなぁ……」というような苦い表情を見せつつ、閃光ハメでずっと酔っ払い状態のスカイ・ティラオスに立ち向かった。
「勝ったっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
筋骨隆々の戦士は勝利に叫び、壮年のガンナーは小さく拳を握る。
そして赤髪の黒毛犬は遠吠えをした。
彼らは辛くもスカイ・ティラオスに勝利したのだった。
ジュラシックバスター、それはモンスターを狩る者。
このワイルドサバンナに発生する、膨張する空間に潜む謎と向き合い、生活を共にしながら立ち向かっていく。
君達は今、ロマンティックな冒険の世界に足を踏み入れたのだ。
ようこそ、ジュラシックバスターの世界へ!