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191 アイ・V・あい・愛

 「お、おう」という感じで、プラチナフィストに入る前と後で何が変わるのかと言ったら、それほど変わる要素とかは無いが、詳しい事情を知った事で、信頼が増したと思った。

 いや、でもそれだけじゃな気がする。今までほわほわとした関係で、バラバラな方を向いてまとまりの無かった空気感が、チームという名の元に一体感が生まれた。俺、エーデル、フリージオ、クレイという、性別、人種、年齢、人生経験の違う、全くの赤の他人だった俺達に、仲間という強い繋がりが芽生えた。


「あ、そうそう、晴れて仲間になった事だし、君達の先輩である会員ナンバー四番を紹介するねっ!」


 フリージオが思いだしたように手を叩く。

 大広間のドアが開き、大きい歩幅でゆっくりと歩いてくる男。

 赤髪の短髪、高身長、全身黒服のスーツ。

 俺が隙間時間によく見ているバーチャルYOーチューバーの人に似ていた。


「私の名前はセカンドと申します。ゆきひとさん、エーデルさん、これからよろしくお願い致します」


 紳士的な身のこなしで、胸に手を当て自己紹介をするセカンド。

 声優並のイケボで、その低音ボイスが耳に残った。

 フリージオやクレイも独特な空気感を持っているが、この赤髪のアンドロイドも引けを取らないほどの圧があった。

 場の和んだ空気を、一瞬にして緊張感の交えた空間に変えたのだ。

 フリージオが仲間にしたアンドロイドだから、そこだ辺にいるただのアンドロイドな訳ないよな。


「初めまして、セカンド……先輩? よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 俺はセカンドと握手。


「先輩は不要ですよ」


 セカンドが少し微笑む。

 イケオジというには少し若い見た目だがその気質は感じた。

 アンドロイドだから成長はしないんだけども。

 セカンドは俺との握手の後、エーデルの前に立った。

 そこには謎の緊張感があった。

 ……というより、エーデルが少し緊張しているようだった。


「エーデルさんも、よろしくお願いします」


 セカンドが、エーデルの前に手を出す。エーデルは、握手する手を一瞬止めたが、前に突き出して勢いのまま握手をした。


「……よろしく」


「やはり、赤い髪が苦手なようですね。これから慣れて頂ければと思います」


「……」


 エーデルを牽制している。

 やはりこのアンドロイド、只者ではない。

 ……というか、アンドロイドなのか?


「あの、セカンドはアンドロイドですよね?」


「はい、私は今、アンドロイドです」


「ん?」


 「ちょ、ちょ、ちょ、タンマタンマ」とフリージオが割って入った。


「セカンドは、去年僕の仲間になったんだけど、出自が特殊で……セカンドも詳しい経歴を知られたくないって言ってたんだから、もっとスマートに発言して。それと、セカンドは凄い人間くさいけど、ガイア・ノアとは関係ないから」


「すみません殿下」


 苦笑いのセカンド。

 そして、そのまま俺を見る。


「いずれ話す機会もあるかもしれないですし、細かい事は少しずつわかって頂ければいいと思っておりますので、ここはどうか、私の事を探らないで頂けると助かります」


「あ、はい」


 何だろう、セカンドとは初対面のはずなのに壁を感じない。

 そもそも初対面なのか?

 もしかして、俺の知っている人物なのか?


「実はもう一人、お客様がいらっしゃいます」


 「どうぞ、お入り下さい」と言いながらセカンドが向いた方を見ると、そこに美少女がいた。美少女というか、セラちゃんだ!

 セラちゃんはクレイの妹で、去年の二月、ヴィーナさんの妹であるフォーシアのお世話をしたいと言って俺と別れた。

 フォーシアは、姉のビリーヴに告った所振られてしまい、失意のどん底に落とされて入院していた。心の優しいセラちゃんは、そんなフォーシアを放ってはおけず、看病してたという訳だな。

 それにしてもセラちゃん、ますます可愛くなっていくなぁ。


「セラちゃん、久しぶりー!」


「お久しぶりです、ゆきひとさん! お元気そうで何よりです」


「ローズ……フォーシアは元気にしてる?」


 「実は……」と、セラちゃんの落ち込んだ声から、フォーシアとの別れを聞いた。あの映画撮影から、フォーシアはずっと元気の無い状態が続いていた。転機が訪れたのは、ヴィーナさんの謝罪会見をモニターで見ていた時。フォーシアは画面に釘付けになりながら一筋の涙を流したのだという。そして、次の日には姿を消してしまったとの事。


「私、ニューヨークでクレッセントさんの事件が起きた時、フォーシアさんがやったんじゃないかと思ってしまいました。フォーシアさんを疑ってしまった自分が恥ずかしいです」


「セラ、今までの話を聞いていたのか?」


 クレイが、セラに詰め寄る。


「はい。セカンドさんに頼んで、フリージオさんの服に盗聴器を仕掛けさしてもらいました」


 フリージオは「セカンド、やってくれるね」と苦笑い。セカンドは「最善の策が浮かんだ場合は自己判断でと仰ったのは殿下ですよ」と笑って返した。もしかしてこの二人、いいコンビなのか?


「フォーシアは、今何処にいるのかわからないのか……」


 ヴィーナさんの妹だから心配って部分もあるけど、映画撮影の終盤ではローズ……フォーシアと普通に仲良くなれたんだよな。一個人として心配だ。

 

 セラちゃんに向けた視線を俺達の方に戻したクレイは「今だから話しますが……」という前置きをして、フォーシアとヴィーナさんの関係を何時知ったのかを教えてくれた。

 その時期というのが、エジプトのカイロに滞在していた二年前の夏。俺がフォーシアに襲われた後、フォーシアとヴィーナさんの通話内容を、携帯端末から情報を抜き取って知ったというのだ。

 俺の所有していた携帯端末に自動録音機能があったなら、そりゃわかるよなって話なんだが、盗聴機能みたいに携帯端末を使った事について、クレイとフリージオが謝ってきた。

 俺は全く気にしてない……と言ったら嘘にはなるが、それよりもヴィーナさんとフォーシアの会話内容が気になった。会話の内容は、ただの他愛ない姉妹間の話で、仲の良さだけが窺えたとの事。フォーシアはヴィーナさんの事を姉として慕っていたのかなと思うと、駆け落ち騒動の謝罪会見は、心に更なる負担をかけてしまったんじゃないだろうか。フォーシアが告った相手であるビリーヴは、ヴィーナさんの顔に寄せていた事もあったし。


 盗聴の件について、フリージオが「今僕が言える事じゃないんだけど……」と、前置きをして危機管理についての話をした。

 先月、俺達が事件に巻き込まれた……巻き込まれに行ったモーテルの室内の至る所に、盗聴器が仕掛けられていたのだという。食事処のアンティーク調の椅子とテーブルは、盗聴器そのもので、体温やボディチェックをする機能もあったらしい。

 廊下の壁には火薬が仕込まれており、爆破する危険性もあった。

 

 俺とエーデルを除く、プラチナフィストのメンバー四人の内、頭脳派はフリージオと会員ナンバー三番とセカンドの三人で、武闘派は今までクレイしかいなかった。俺とエーデルに求められるのは武闘派としての役割だが、盗聴や爆薬を察知するなどの、危険予知能力も高めて欲しいとフリージオは言った。

 食事が危険かもしれないとわかっていて、睡眠薬入りのカレーを食べてしまうのはダメでしょと言われたら、ぐうの音も出ない。


「……ていうか、フリージオはどうやってそれを調べたんだ?」


「それは、セカンドが……」


 俺の意見に、ちょっとたじろぐフリージオ。


「あの場にはいなかったじゃないか」


「その件については、違う機会に私の方からお伝えします」


 セカンドの補足。


「後、武闘派に頭脳を求めるなら、フリージオも肉体的に強くならないと」


「あ、はい。善処します」


「それに、ガイア・ノアに侵入するなら、この人数では足りないんじゃないか?」


「それなんだけど、僕達プラチナフィストは少数精鋭でいきたいと思ってる」


「どうして?」


「人は鏡だから。僕が優秀で魅力的な人をそばに起きたいと思うのは、否が応でも身近な人間に影響を受けてしまうからなんだ。優秀な人間は他者の能力を引き上げるんだよ」


「別に俺は優秀なんかじゃ」


「僕と君の付き合いはそう長くないけど、君が様々な人達に変化や影響を与えて、成長を促した様子を見てきた。君のお蔭で僕も成長出来たと思う。それぐらい関わる人って大事なんだよ。ねっ、小父様!」


「えっ? あ……ゆきひとは……僕も優秀だと思うぞ」


「魅力の無い人っていうのは、互いに互いの足を引っ張り合う。優秀な人材をたくさん集める事が出来ればいいけど、それは簡単な事じゃない。だから少数精鋭でいきたい」


「まぁ、そこはリーダーが決めればいいと思うよ」


「わかった。ちなみにソフィアから言伝を預かってるんだけど」


 あの、ソフィアから? あのとか言ったら失礼だが。……というか、ソフィアとフリージオって繋がりがあったんだっけ。うーん……そういえば、俺達を預かる時にフリージオはソフィアと交渉したんだっけか。


「好きな数字は何? ……って」


「いや、何で今そんな話を……えぇーと、ナンバーワンの一とラッキーセブンの七が好きだな」


「わかった、伝えておく。……ソフィアについてだけど、彼女、どう思う?」


「どうって?」


「ストック・ウィッシュ・ホールディングスの日本支社社長になる前まで、タイムマシン事業のトップにいたのが彼女だよ。ソフィアはハーディの意志と技術を最も受け継いでいる人物。アンドロイド暴走事件に彼女が関わっていないとは言い切れない」


 ソフィアはヴィーナさんの妹で、姉に心酔していた。だから、俺はずっとソフィアに憎まれていると思っていた。あの時までは……。

 ソフィアは、俺がヴィーナさんと一緒になれず号泣していた時に励ましてくれた。あの時の光景は今でも脳裏に焼き付いている。


「ソフィアは違う。彼女はアンドロイドの暴走事件に関わっていない。それに、ソフィアのお蔭で、こうやって俺達と旅を出来るようになったんだろ? 疑うなよ」


「そうなんだけど、逆にね、簡単に手放したからクローンじゃないかと思った訳さ」


 うぐ、そこでその話に戻るのか。


「私は別に、ゆきひとさんがクローンでもそうでなくても、大好きですよ」


「セラちゃんは優しいぃなぁ」


「あの、ゆきひとさん」


「なんだい?」


「言っておきたい事があります」


「言っておきたい事?」


「私……」


「私?」


「おとこのこ、なんです!」


「ん?」


「だから、お・と・こ・の・こ、なんですー!」


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえ!!」


「そんなに驚くなんて、ゆきひとさんの意地悪」


「いやいやだってだって、そんな事隠してたら大変……」


 クレイがため息を吐く。


「だからずっと隠してきた。これは一部の人間しか知らない。勿論、戸籍は改ざんしてある。これが明るみに出れば大騒ぎになるし、大企業や政府の実験材料になり得てしまう」


「そう……だったのか」


「私がプラチナフィストに手を貸す理由、もう言わなくてもわかるだろう。私はセラが自由に生きていける環境を作りたい」


「姉様……」


 セラちゃん、ちょっと気まずそう。


「ちなみにフリージオの本職は、ボディガードじゃなくて産業スパイだよ」


 クレイの話にフリージオが補足を入れた。


「スパイ!?」


「私は貴殿の護衛をする傍ら、涼しい顔をしてヴィーナ社長らを欺いていたんだ……」


 クレイ……何だか申し訳なさそうだ。


「貴殿のコールドスリープの件、何故私が知っていたのか疑問だっただろう。情報を得たのは、貴殿が大統領に会いにストック・ウィッシュ・ホールディングス、ニューヨーク本社に入って、私が一人で待たされた時だ。社長室に侵入し、パソコンにアクセスして情報を抜き取った」


「クレイは優秀だと思うよ、でもあの会社って、科学技術が最高峰なのに対して警備が手薄すぎるんだ。だから僕はそろそろ手を引きたかった。タイで僕とフリージオが揉めてたのはその事なんだけど……あの後、クレイが意志を貫いて潜入を続けた事で、ユッキーのコールドフリーズの件を知る事が出来た。結果的にユッキーが無事生還出来たのは、クレイのお蔭という訳だね」


「クレイ師匠、ありがとう!」


「バカタレ、師匠でもないし、感謝される謂れはない」


 クレイがデレてる所、初めて見たかも。


 エーデルが挙手をする。


「僕がロシアの施設にいた時、脱出を促すような映像が脳裏に浮かんだ。あれはクレイサンが仕込んだ事なのか?」


「それは私ではない。だが……エーデルさんが逃げて、私が貴方を捉えた事により、私の警備としての評価が上がり中枢に潜り込む事に成功したのは事実。結果的にその事が我々の有利に働いた」


「では、あの映像は何だったんだ?」


「その話、僕的には初耳なんじゃが……何ていうか似てない? 駆け落ち騒動のリークで僕の有利に状況が運んだ事と。意図しない出来事が周囲の人間の利益になっている。もしかして、小父様の脱出経路の映像を送った人物と、駆け落ち騒動のリーク者は同じなんじゃないかな」


 フリージオの仮説に、静まり返る一同。


「フリージオ、私はこれからもストック・ウィッシュ・ホールディングの潜入を試みたい」


「君、ソフィアのボディガードは、三か月でお役御免になったでしょ? これ以上危険な行為は、ちょっとね。あくまでプラチナフィストの目的はガイア・ノアに侵入する事だから。……何か気持ち悪いんだよね、誰かの手の平の上で踊らされているような気がして」


「生憎、私は誰かの手の平の上で踊るのが得意なのです。フリージオ、貴方の手の平の上から、別の誰かの手の平の上に舞台を変えるだけの事ですよ」


「もう、そんな事言ってー! そんなんじゃ、まるで、まるで……僕が小姑みたいじゃないか!」


 いい例えが思い浮かばなかったんだな。


「でも、私の事は友達だと思ってくれているのでしょう?」


「そうだよ……ん? そうそう僕達は友達。クレイ、マイ、フレンド」


「友達なら、ここは背中を押してくれませんか?」


「はぁ……まぁ、今更引き留めたって言う事を聞く訳ないしね。頑張ってクレイ」


「ありがとう、フリージオ」


 「はわわ」と、セラちゃんは頬っぺたに両手を当てた。感激してる様子だった。

 俺もちょっと心に沁みるものがあったかもしれない。

 主従関係にあった二人が、友の契りを交わしたのだから。


「ゆきひとさん!」


「なんだい、セラちゃん?」


「私が男の子だと知って、気持ち悪いと思いましたか?」


「全然」


 セラちゃんって、今、十六か十七ぐらいだよな。

 可愛すぎて、男の娘に目覚めちゃいそうだ。


 肩に誰かの手が乗る。

 クレイの鋭い視線が突き刺さった。

 相変わらず、師匠はシスコンだな!


「姉様、今大事な所だから退いて」


 クレイの手がするりと引く。


「ゆきひとさん、やっと私の秘密を話す事が出来ました。これでやっと、やっと……私達友達になれますねっ!」


「ああ、俺達は友達だ。何ならずっと前から友達だぞ」


「ゆきひとさん、大好きです!」


 セラちゃんは姫のようなジャンプで俺にハグをした。

 よしよしよし、可愛いなぁ。

 離れた後、俺はセラちゃんの頭を撫でた。


「ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」


「あぁ、よろしくな!」


「あのあのセラちゃん」


「何ですか? フリージオさん」


「セラちゃんも、プラチナフィストに入らない?」


「入ります!」


「じゃぁ、会員ナンバー七番ね」


「わーい、ゆきひとさんの大好きなラッキーセブンですねっ!」


 そんなクラブ活動みたいなノリで……。


「次の目的なんだけど……」


 その言葉に、皆の視線がフリージオに集中する。


「もう一人、どうしても仲間に引き入れたい人物がいて、その人物をスカウトする為に、ユッキーと小父様にとある場所まで潜入してもらいます」


「俺達二人だけ?」


「二人だけというより、パーティも七人に増えたし、バラバラに動こうかなと。詳細はまた後で教えるね」


「わかったぜ」


「その人物を仲間に出来れば、僕達のパーティに足りない最後のピースが揃う。皆、頑張っていきまっしょい!」

 

 セカンドが、一歩前に出る。


「話が一段落したようなので、今からガイア・ノアの位置を確認しに行こうかと思います」


 セカンドの発言により、全員でぞろぞろと出入口に向かった所、エーデルがそれを引き留めた。


「僕が言うのも何だが、このキャラの濃い面々で集団行動したら目立つのでは?」


「たまにはいいじゃない。誰かさんが釣れるかもしれないしっ」


 フリージオの不敵発言に促され、俺達はガイア・ノアの位置確認へと向かった。

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