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187 新進気鋭な記者は地球の果てへ   『○』

 ニュージーランドに着いた翌日。

 炎上したモーテルのある場所へ行く為に、直通のバスに乗り込んだ。

 そもそもこのバス、何でモーテルまで走っているのだろう。

 観光スポットのモーテルに行くにしても、乗客もそれほどいる訳じゃないし……運転手に話を聞いてみたかったが、よくあるタイプの量産型のアンドロイドだから、有力な情報は得られないだろう……と思いつつ、聞いてみた。

 「このバスって廃線にならないほど、人気なんですか?」と。

 すると運転手は「そうですね」と言って、会話は終了。

 案の定な反応ではあるが、聞いてみる事に越した事はないので良しとする。


 搭乗中、反対側の席にいる二号の様子を見た。

 カメラを手に持っているが、撮影する気配はない。

 あれだけいる羊に目もくれない。

 空港にいたアンドロイドが「久しぶりだナァ」と発した言葉は、二号に対しての発言なのだろうか。

 二号と、あのアンドロイドは顔見知り?

 今まで二号に核心的な事を聞くと、「政府に管理されたアンドロイドなんで、言えないっス」とか何とか言って、詳しい話は聞けなかった。だから、二号にあえて聞かない事も沢山あった。

 でも、今聞いたら教えてくれるだろうか。


 二時間程で目的地に着いた。

 バスから降りた時に、二号に空港にいたアンドロイドについて聞いてみた。


「空港にいたあのアンドロイド、知り合いなの?」


 ドストレートに聞いた。


「わからない……けど、凄い嫌な感じがした」


 それは私も感じたけど……。


「顔見知りって訳じゃないのね?」


「顔見知りではない」


「そう、ならいい」


 気になる点はまだあるけど、今はいい。

 今は、この関係性を崩したくない。


 携帯端末の画面を確認しながら、動画にあったモーテルを目指す。

 日が落ちてきて、辺りが夕焼け空に染まっていく。目ぼしい建物はなく、何処までも草原が続いているように思える。この世の果てに来てしまったかのような、来てはいけない場所にいるような気分になった。


「……誰かいる」


 人影を見て、つい声が出てしまった。

 光り輝く天使のような白い髪、少し癖のあるミディアムヘア、透き通る白い肌。

 彼の名前は……。


挿絵(By みてみん)


「フリージオ・エトワール」


「あれ? 久しぶりだねパステルさん」


 フリージオが振り返ってこちらを見た。

 彼の奥の方には瓦礫の山。炎上したモーテルの残骸がそこにはあった。

 フリージオと会うのは、約十か月ぶり。映画撮影の時以来。

 あの時は、姉妹役を演じ、年上の頼れるお姉さんのように見えていた。

 でも今では……堕天使に見える。


「お久しぶりです。はぁ……やっと会えましたね」


「そうだね」


「大桜ゆきひとは今何処に?」


「彼らとは今、別行動をとってるんだ」


「別行動……ですか」


「会えなくて残念?」


「そうですね、残念です」


 話していると奥の方から誰かがやってきた。フリージオはそちらを見る様子もなく、知っている人物が来たという感じがした。


「やはりもう、目ぼしい物は無さそうですね」


 そう言いながらやって来たのは、よく見るタイプの男性型の黒服アンドロイドだった。心の中の「え……誰?」……という声が、脳内に焼き付いて残った。


「……殿下、どうされました?」


「言わなくてもわかるでしょ?」


「……お知り合いの方ですよね」


 気さくなやりとり。

 最近購入したアンドロイドではない?

 それ以前に、あのタイプの量産型アンドロイドが、何かしらの映像で言葉を発した所を見た記憶がない。

 特注品なのだろうか。


「そのアンドロイドは一体……」


「えっと、彼は……」


 黒服のアンドロイドを見ながら、言葉に迷っているフリージオ。


「わたしの事は、セカンドとお呼びください」


 セカンド……二号と名前が被るわね。


「セカンドは、フリージオさんとどういう繋がりなんですか?」


「セカンドはね、去年、僕の仲間になったんだよ」


 答えたのはフリージオだった。

 去年……? 映画撮影の時にあんなアンドロイドいなかった。

 私の見えない所で見守っていたというの?


「映画撮影の時は、いませんでしたよね」


「うん。今回、ちょっと身の危険を感じたから、出てきてもらったんだよね」


「身の危険……モーテルの火災ですか? なんだったんです? あの映像」


「イマーラから聞いたんでしょ? アンドロイドの生前整理かもしれないって。アレが二重で仕掛けられてたの。そういう事」


「それはわかりましたが、何故今回、私と会う気になったんです? 私達の事、避けてましたよね」


「それはフィフティーフィフティーかな。……会った理由は、このモーテルの後片付けを頼みたいから。勿論、報酬はある」


 そう言ってフリージオは、SDカードを指に挟んで私に見せた。


「ここで起きた出来事の一部始終、何が起きたのかを要約して収めてある。後片づけを引き受けてくれたら、これを君にあげる」


 フリージオからの交換条件を拒否するという選択肢はなかった。

 あのSDカードは是が非でも欲しい。

 ただ、三クールぶりに会った訳だし、この取り引きだけでは物足りない。


「その交換条件は呑みます。こちらからも頼み事があるんですけど、いいですか?」


「どんな頼みだい?」


「私を、仲間にしませんか?」


 私は意を決して、胸に手を当て発言した。

 

 フリージオは仲間を集めている。

 何処かでそんな噂を聞いた事がある。

 彼からの情報を更に聞き出せば、アンドロイドの暴走事件の真相にもっと近づける。それに……二号が暴走した時、私一人では対処出来ない。

 私にも仲間がいる。


「それは、できないな」


「何故です?」


「僕達は、別々に行動した方がいいと思う」


「それは……私が記者だからですか? モーテルの火災についての後処理も、警察には関わりたくないから……ではないですか?」


「否定はしない。そういった思考に至るという事は、アンダー・ザ・パンドラボックスの話を、イマーラから聞いたんだね」


「アンダー・ザ・パンドラボックスとは一体、何なんですか?」


「これ以上の話はいいかな。僕としては、最初の取り引きが成立した時点で、もうここに用はないから。もし何か、君も僕が取り引きしたいような物を持っていれば……話は別だけど」


 私が出せるカードは二つ。

 和宮萌香から貰ったヴィーナ・トルゲスの電話番号。しかしこれは、大桜ゆきひとがいないと弱い情報だ。しかも、ヴィーナとゆきひとは、ナノマシンのID交換をしている可能性が高く、距離が近ければテレパシー会話が可能。よくよく考えれば、ゆきひとも欲しがるかは微妙な所だ。

 もう一つは、空港にいたアンドロイドから貰ったUSB。正直、これは私の手に余る。このUSBを起動した瞬間に二号が暴走する可能性すらある。

 それより、あのアンドロイドの主人って誰だろう。

 モーテルの火災。生前整理。擦れたアンドロイド……。

 そうか……! あのアンドロイド、このモーテルにいたんだ!


「あの……! オーストラリアの空港で、ボロボロのスーツを着たアンドロイドに会ったんですが」


「そのアンドロイドから何かされたの?」


 食いついた。

 モーテルにいたアンドロイドで間違いない。


「主人に渡して欲しいと、ある物を託されました。その主人は何処へ?」


「ここは話さないといけない流れかな。彼女は、ユッキー達と一緒に行動している。途中で別れると思うけど」


 ユッキー? あぁ、大桜ゆきひとの事か。


「彼女の名前は?」


「アスカ、だよ」


「彼女に会う機会はありますか?」


「そのつもりでいるけど」


 貰ったUSB、私が直接本人に手渡した方がいいと思うけど、フリージオに渡してもらった方が、いいのかもしれない。恐らく、その方が物事の進展は早い。私が所有していても宝の持ち腐れになるし、持っているのも怖い。


「空港にいたアンドロイドから、USBを頂いたんですが、これをモーテルの主人に渡してもらえませんか? 交換条件は、このUSBの中身を教える事。どうですか?」


「……わかった、条件を飲もう。でも……約束を守らないかもよ」


「別に構いません。その時は、貴方の事を記事で悪く書くだけですから」


「フフッ、君、変わった……ていうか、強くなったね」


「殿下からお褒めの言葉を頂けるなんて、光栄至極に存じます」


「僕はどっちかっていうと、君からは、映画撮影の時みたいに、お姉ちゃんって思われたいかな」


 そんな言葉を交わして、私はフリージオにUSBを渡した。そして連絡先も交換。

 フリージオ、セカンドと別れる際に、手を振って別れの挨拶をした。

 セカンドからは「空港にいたアンドロイドと接して無事だったのは、ナノマシンネットワークがオフライン状態だったからかもしれません。くれぐれもオンラインにはなさらないで下さい」と言われた。私としては、貴方からも危険な香りがするんだけど……と思ったが、口には出さなかった。


 それから一週間、私と二号はニュージーランドで足止めを食らった。

 警察への電話が繋がらなかったので、直接、警察署に足を運んだ。そして、事情を知らない状態で警察官からの質問攻めを受けた。この場合の対処は、こちらからも質問攻めにする事。そして私が記者である事を明かし、二号がアメリカ政府管轄のアンドロイドである事も教える。すると相手の勢いは落ちていって、数日で解放された。

 開放が早かった理由は、私達の対応が面倒だったという事だけではなく、あのモーテルの事を不気味がっている様子もあり、あまり関わりを持ちたくないという事情もあったのだろう。

 SDカードは、警察署に行く前に、空港近くのコインロッカーに隠しておいたので無事。その辺りは、抜かりなく行動した。

 

 実は、警察官と話した事での収穫があった。

 炎上したモーテルの建設、それに至る為のバスの運行ルートには、メビウスカンパニーが関わっていた。

 点と点が繋がっていく……そんな実感がじわじわと湧いた。


 センテンスプティングのニューヨーク本社に戻ったのは年末頃。

 タイ、オーストラリア、ニュージーランドの件を編集長に話し、増刊号でアンドロイドの暴走事件についての特集を組んでもらえる事になった。

 年が明けたら、私は缶詰状態になるだろう。


 取材のご褒美という訳ではないが、編集長に大桜ゆきひととヴィーナ・トルゲスの駆け落ち騒動のリーク者について聞いてみた。

 リーク者は、匿名で送ってきたらしく、フェイク動画かどうかをツールで調べたところ本物だったという事で、掲載にゴーサインを出したとの事。

 中々、凄い判断ではある。

 結局、誰が送ってきたかはわからなかったが、情報提供料などの要求はなく、金銭目的ではないという事がわかった。そもそも、情報提供料を求めてきたら、うちの編集長が扱う訳ないか。

 金銭を要求してくる相手は九十九パーセント弾いているし。


 年末、萌香様から連絡がきて、紅白歌合戦を一緒にリモート通話をしながら見る事になった。

 気付いたら、避けていたアイドル曲も普通に聞けるようになっていた。

 

 去年の今頃は進路に悩んでいた。

 女子アナを目指すか、記者を目指すか。

 もし女子アナを目指していたら、今頃紅白で司会とか出来たのかな? ……それはないか。紅白の司会をする女子アナはヒエラルキーの上位層だと思うし、表向き仲がよさそうだけど、いじめや小競り合いも多いと聞くし。

 女子アナを選ばなかったのは、芸能界に近かったからなんだ。

 未練が無いというか、断ち切りたかった。

 現状を考えると、記者を選んで良かったと思う。

 

 ……そう言えば、私も紅白にアイドルとして出場した事があった。

 今思えば、恵まれていた部分もあったんだ。

 でも今は、アイドルより記者として成功したい。

 世界に爪痕を残すんだ。


 そんな事を考えながら、萌香様とリモートで談笑し、紅白でアイドルソングを聞き、ビールを一杯飲んで、来年の増刊号の為に、PCのキーボードをカタカタと叩いて弾くのであった。

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