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184 新人記者は地球のヘソへ

 オーストラリアのクラーケンガッタ空港に降り立った私達。

 ロビーにて、ある事が気になったので、大桜ゆきひとのサーフィン写真をツールを使い調べる事にした。ある事というのは、フェイク画像かどうかという事。

 今更気にしても遅いが、元々オーストラリアに来るつもりだったので……と思いながら検証した。結果は本物。写真が撮られた場所まで教えてくれた。


「サーファーズパラダイス」


 ここから車で三十五分の場所にあるリゾート地。

 近場のホテルは何処も高額……野宿でもしようかな。

 それはさておき、車を借りて二号に運転してもらい現地まで足を運んだ。

 

 冬でも暑かったバンコクと違い、オーストラリアのリゾート地は涼しいかと思いきや、暖冬祭のように、通路の至る処が床暖房的な設備で埋め尽くされており、寒いという感覚はなかった。

 肩から上はひんやりとしていたので冬服でも問題ない気温ではあったが、水着やへそ出しのお姉様方が多く、若干浮いている私達が気になった。

 もう一つ気にしたのは紫外線。床暖房が効いているので、UVカットするような設備もあるだろうが、サングラスが欲しくなったのでブロードビーチのショッピングセンターに寄った。雑貨屋でサングラスを探していたら、懐かしくなるような物を発見して高揚した。


「ジュラシックバスターのトランプ! 懐かしいー」


 私はアイドル時代、ジュラシックバスターというVRゲームで、バディというキャラクターのボイスアクターを務めていた事があった。その後ニート時代に、実際にゲームをプレイし、第一エンディングまでクリア。メンズ・オークションの司会をきっかけに社会復帰した私は、幕張メルシアで開催された東京ゲームショウのジュラシックバスターのイベントにお呼ばれした事もあった。


「これ買おう」


 サングラスと一緒にトランプを購入。後追いで双眼鏡も追加。

 ゲームプレイの記憶が蘇った事で、ある事を思いだした。

 そういえば私、ニート時代は死にたいと思っていた時期があった。最近は仕事で充実していたので忘れていた。京都行きの新幹線の中で、恋人が原因で自殺した松井セイカちゃんの気持ちが理解できないと思ったが、過去を思いだした時、少し気持ちを理解している自分がいた。


 ビーチの砂浜に座って、双眼鏡を駆使して大桜ゆきひと一行を探した。あの体格なら、いればすぐ見つかる。しかし大男は発見できず……ふと視界に入ったのは、二号が水着の女性とお喋りをしているシーン。……というか、二号に女性達が群がっている。握手を求めている人もいる。何が起きているんだろう。

 私が二号らに近づくと、女性達は解散してそれぞれのバカンスに戻っていった。

 何があったのかと二号に聞くと「わからないっス」の一言。

 多分、ゆきひと一行がいたら人が集まるだろうし、ここにはもういないだろうと思ったので、サーファーズパラダイスを後にした。


 夕食、リーズナブルな価格のレストランで取材相手の連絡を待っていた。

 後数日経つと約束の十二月中旬ではなく、下旬に入ってしまう。中々連絡が来ない事に少しイライラしていると、二号が「エアーズロック観光したいっス」と目を輝かせながら話しかけてきたので、明日の予定はエアーズロック観光となった。


 エアーズロックとは、オーストラリアの中心部にある地球のヘソとも言われる世界最大級の巨大な一枚岩でできた山の事で、別名ウルルとも呼ばれている。

 観光案内所を巡り彷徨っていると、可笑しな求人募集の張り紙を発見した。

 

「男性アンドロイドの、観光案内人の求人……」


 これ、アンドロイドを所有している人にお金が入るんだろうかと思っていたら、近くにいた女性に声をかけられた。

 なんでも、二号に観光案内の求人を受けて欲しいとの事。

 あまりの勢いとしつこさに、バスタードが中年のおっさんらからガイア・ノアに参加しないかと迫られた事に対して嫌悪感が湧いたという話に、共感してしまう私。一日だけでもやらないかと言われて、「私達は記者なので」……と断ったが、相手は引き下がらなかった。すると勧誘していた女性は「一日観光ガイドをしてくれたら、タ・ダ・でいいですよ」と言ってきたので、私は笑顔で引き受けた。


 十二月下旬に差し掛かりそうになった次の日。

 メインの観光ガイドを二号が担当して、サポートに別の女性がついて、エアーズロック観光へと向かった。


 観光当日。青天。

 雄大な大地を噛みしめ、大勢の女性を引き連れながら歩く二号。

 私も後からついて行って、広がる大自然を楽しんでいた。

 途中、すすり泣く声が聞こえてきた。それも一人や二人ではない。まだエアーズロックが見えていないというのに、どうしたのだろうか。私は悲しそうな表情をしていた観光客の女性に「景色が素晴らしすぎて、皆感動しちゃったんですかね」と言った。すると「それは、違います」と今にも泣きそうな顔で返答された。少し戸惑ったが、「では、何故泣いているのでしょうか?」と尋ねた。観光客の女性は、言うのを躊躇っていたが、深呼吸をしてこう答えた。

 「あの男性ガイドとソル様を重ねているのだと思います」……と。

 ……ソル様? 誰だろう。

 私は質問に答えてくれた女性にお礼を言って、ナノマシン検索機能の方を使い「ソル様」を調べた。ここで携帯端末の方を使うのは配慮にかけると思った。こういう時のナノマシン検索は便利だ。

 「ソル様」「ソル」「オーストラリア」「アンドロイド」「男性」「観光ガイド」、様々なワードを絡めて検索したが、「ソル様」の情報は一切出てこなかった。地元では有名だという事なのだろうか?

 それにしても、全く情報が出てこないというのは可笑しい。

 

 そうこうしている内に、エアーズロックに到着。

 現在はというか、大分前から登山禁止になっており、神聖な場所でもある為、ほぼ全ての場所が撮影禁止。

 これだけ圧巻の光景を撮影できないなんて、二号はさぞ悲しんでいるだろうなーと思って彼を見てみると、観光客の女性達に対して、エアーズロックの歴史を丁重に解説していた。その様子を見て関心する私。二号は解説を終えると、女性達から離れて、ペンを取り出した。そしてペンをバッターが狙いを定めるかの如くエアーズロックに向けた。

 ムムム、これはいけない。コイツ、最初から撮影禁止なのを知っていて、ペンカメラで撮影しようとしているな?

 私は二号に近づいて、ペンの上に手を被せて首を振った。

 「それはいけないよ二号」、心の声で諭した。

 しょんぼりする二号。

 ここはアンドロイドの主として納めなければいけなかった。

 悲しむ二号に対して、数人の女性達が集まり、オイオイと泣き出した。

 何事なんだと、私も二号も困惑した。

 多分、ソル様が原因なんだと思うけど……まるで怪奇現象だなと思った矢先、携帯端末に通知がきた。取材相手のオカルトマニアからだった。

 明日の午後五時、オーストラリアの首都キャンベラ某所で取材を受けるとの事。

 やっときた連絡に募っていた苛立ちは消えた。

 何故、苛立ちが消えたのか。

 それは、聞きたい事が山の様に増えた所で、グットタイミングだったからだ。

 

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