表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
179/300

179 人格を示す信号機

 アスカさんの部屋は二階にあり、ドアの前で五分待たされた。

 少し整理させてほしいとの事だった。

 入室すると、何台ものパソコンやモニターが見え、棚は布が被されていた。シルバーラックが何箇所か設置されていて、その上にペットボトル飲料や、何処かで見たようなヘッドマシーンがあった。部屋の隅に信号機を横に倒したようなランプが二つあり、片方が赤く光っている。何ていうか不気味な光だ。広さは八畳ほどあるが、物が乱雑としている上に照明が暗い為、比較的狭い印象を受けた。


「ここで株を……?」


「株……? 株なんてやってないけど」


 アスカさんのムスッとした反応。

 株じゃないなら何なんだ。

 解決した謎を復活させないでくれ……。


「この部屋で……ブログみたいな事と動画編集をやっていたの。主な収入源はモーテルより、こっち」


「アフィリエイトや動画の広告収入で稼いでいたって事か」


「そう」


「こんな場所に一人で」


「あの、私は一人ではないです。友達もいますし仲間もいます。随分前からネット社会ですし、勝手に寂しい人間みたいに思わないで下さい」


「ごめんごめん」


 フリージオも中に入って、部屋の内部を確認する。


「僕達をこの部屋に案内したのは何故?」


「あの部屋の隅のランプ、赤く光ってるでしょ? 普段はずっと青なんだけど」


「つまり……どゆこと?」


「あのランプが赤く光ってる時は、多分……トージに異常がある時なんだと思う」


 自分でもよくわかってないような言い方だ。


「以前友人をモーテルに呼んだ時、トージから「女が気安く話しかけんじゃねぇ!」って言われたと友人から聞いた事があって、その時に部屋のランプが赤く光っていた……。私はトージからそんな風に言われた事がなかったから信じられなくて、赤いランプが点いた瞬間にトージの様子を確認しにいったんだけど、私が会いに行くといつものトージで、部屋に戻ると青いランプに戻ってたんだ」


「そのランプって一体何なんだ? ……というか誰が設置したの?」


 俺からも質問を投げる。


「……正確な事はわからない」


 わからないって……。


「最近は赤いランプに光る事がなくなってたから、直ったと思ってた。でもこんな事になるなんて……。本当に申し訳ありませんでした……!」


 アスカさんの四十五度のお辞儀、再び。


「アスカーンは、いつかトージーンが何か仕出かすかもしれないって、わかってたんだね」


 フリージオよ、また独特な呼び方を……。


「……はい」


「それにしても、何処でランプの仕組みを知ったの?」


「ランプの所に注意書きがあって、赤いランプの時は危険なので、赤いランプが収まらなくなったら、アンドロイドを破壊して下さい……と書いてあった」


 完全に破壊した訳じゃないと思うけど、あの時の蹴りは凄かった。

 その事が気になったので、質問をしてみる。


「そういえばアスカさんの蹴り、すさまじかったけど、何か格闘技を?」


「格闘技とかは別に……」


 格闘技未経験者が、あの蹴りを放てるのか?


「アスカ―ンの話とトージーンの様子的に、ランプの光が切り替わる度に人格が入れ替わってたんじゃないの?」


 それってつまり……。


「二重人格のアンドロイド……」


 トージさんと思われるアンドロイドに襲われた時、暴走しているという感じではなかった。精神異常者のようにはなっていたが会話は成立していた。二重人格であれば一つの体に二つのAIが点在していた事になり、予測していた暴走条件は満たしているが、今まで暴走していたのは普通のアンドロイドであり人間らしいアンドロイドが暴走した事はなかった。だから、暴走したというより、二重人格であったという方が信憑性が高い。


「トージーンは、何であーいった仕様なんだろう。二重人格だとして、体を二つ用意する事はできなかったのかな。何か理由はあるんだろうけど」


「トージは……私の父の人格が反映されていたんだと思う」


 父親の人格?

 訳がわからなくなってきたぞ。


「トージさんって三十年前から稼働していたんだよね。だとすると父親とは面識がないって事かな?」


「父との……面識はあった」


 まさか四十代なのか!?


「そんなに驚かなくても……。地下の方も見ます? 地下の設備を見れば色々とわかると思う」


「地下?」


 無意識に声が出た。


「鍵のかかった部屋です。私も数年ぶりに入るので怖いですけど……」


「アスカーン! モチのロンだよっ!」


 元気に発言していたフリージオだが、手が震えていた。

 フリージオも多分苦手なんだな、怖い場所が。


 フリージオの部屋側の廊下をずっと歩いた先の右壁面に、鉄格子のドアがあった。アスカさんはカードキーと虹彩(目の)認証で鉄格子のドアを開けた。言っちゃ失礼だが、このオンボロモーテルには似つかわしくない設備だった。

 螺旋階段を下り、また鋼鉄のドア。次の扉は銀で覆いつくされたドアで中の様子は見えなかった。ここもアスカさんのカードキーと虹彩認証で突破する。


 部屋の中はちょっとした研究所になっていた。

 その設備の殆どが悉く壊されていた。


「何これ……私が以前見た時はこんなんじゃなかった。トージがやったの?」


「これって、今まで被害に遭ったアンドロイド達と同じだね。自分の居場所を破壊している。何か知られたくない事でもあるのかな?」


 フリージオが室内を見て呟いた。

 散々とした異様な設備に目を奪われてしまう中、一際気になる設備を発見した。人が横になれるスペース。近未来のベットのような死を感じせる空気を放つ機械。

 何かで殴打されたのか、ヒビが入っていたけどそれでもわかる。

 これは、ストック・ウィッシュ・ホールディングスの地下でも見た代物。


「コールドスリープ装置だ」


「ゆきひと……さんだっけ? ゆきひと氏はこれを見た事があるの?」


 ゆきひと氏って、急にオタクみたいな呼び方……。

 翻訳機能が働いてると思うから、潜在的なものが呼び起こされているだけかもしれないが、彼女、体育会系というより、オタクなのかな。


「俺、コールドスリープされる所だったんだ」


「……そう。ゆきひと氏も大変だったんだね」


「それより何故、コールドスリープ設備がここに?」


「私……コールドスリープ装置で二十四年間眠ってたんだ」


「え!?」


 俺の声が研究所に木霊した。


「年齢を言いたくなかったのは、アスカーンの生年月日と実年齢が一致しなかったからなんだね」


「友人に年齢を聞かれると煩わしいから、出来るだけ年齢の話題は避けてきた」


「何でコールドスリープ装置で二十四年も眠ってたの?」


「父が五十年かかるプロジェクトに参加していて、その完成品を娘の私が二十代の内に見せたかったらしくて……だから私はコールドフリーズで眠っていた。二十数年経って目が覚めたら、モーテルの経営が始まっていてトージがいた。だから、私はトージの事について詳しくは知らない。多分、父が私の為に用意してくれたアンドロイドだと思うけど」


 話が壮大になってきたな。

 素で関心が膨らむ。


「アスカさんの父親が関わっていた、プロジェクトって?」


「それは言いたくない」


 そこは秘密なのか。


「それと」


「ん……?」


「私の事は、アスカでいい」


「あぁ、うん。てか、お父さんは結局どうなったの?」


「ガイア・ノアって知らない? 結構有名な話なんだけど。三十年前ぐらいに、この世に生き残っていた七十数名の男性は、日常生活を普通に送れないと判断して、男性の人口が一定以上増加するまで、コールドフリーズで眠ろうっていう計画があったって。私の父は三十年前に、アメリカに建設されたガイア・ノアへと旅立った。多分、その施設で眠りについていると思う」


 アスカの話に、ずっと黙っていたエーデルが反応した。


「……ガイア・ノア。直接聞いた訳ではないが、僕がこの時代で来てすぐに、脳内のナノマシンに情報として放り込まれた気がする。なるほど、そういった経緯が」


「もう、いいかな。損害賠償無しで修理費も出してくれるんでしょ」


 ちゃっかりしてるというか、しっかりしてるな。


「色々教えてくれたから出しちゃうよー」


 何時の間にかフリージオは上機嫌になっていた。


 一階に戻ると、アスカは再び四十五度のお辞儀を披露した。思った以上に礼儀正しい子だった。宿泊代はいらないとアスカは言っていたが、フリージオは先払いで払ったしと言って断った。アスカはお金に困ってはおらず、宿泊施設の破損より、後始末の方をフリージオに担ってほしい感じだった。

 金銭的に不自由のない二人の会話を聞いて、貧乏生活の長かった俺は、ちょっと、ほんのちょっとだけムカついた。

 フリージオとアスカの話が、どういう形でまとまったのかわからなかったが、その後アスカは一礼し、二階に上がっていった。

 ここ数日の重圧が少しだけ降りた感覚があり、肩の筋肉を伸ばした。「んー」と緩んだ声が出る。ホッとした部分もあるが、何処かへ去ったアンドロイドが戻っくるかもしれないという緊張感は残ったままだった。それもあってか、無言の状態の俺達は、三人でそのまま動けずにいた。

 

「あの、ここだと狭いから、ユッキーと小父様……さっきの食事する部屋に来てもらえない?」


 頷くでもなく、反応した訳でもないが、フリージオの後を付いて行く俺達。


「本当に、ごめんなさい……!」


 フリージオによる五十度のお辞儀。


「いいよいいよ。とりあえず無事だったし」


「ユッキー……このままだと額に傷残っちゃうよね。ニューヨークに行ったら、治してもらう?」


「向こう傷は男の勲章だし残ったら残ったで。それよりもっとかっこいい形で傷が付けば良かったな。俺、恐怖で全然動けないんだもん、はぁ……恥ずかしいよ」


「……うん、わかった。後、小父様にもお詫びを……」


「僕に……?」


「先月プレゼントしたユッキーのフルヌード写真、全部じゃないから、追加で送ろうと思うんだけど、それで許してもらえない?」


「……ほ、欲しい……じゃない……! な、何で今その話題を出すんだ!」


「エーデル、「ほ」の辺りが小声で聞こえなかったんだけど、何て言ったんだ?」


「こんな雲一つ無い夜は星が綺麗に見えるじゃない!?」


「え、あー……うん」


 今のセリフ、そこまでの内容を詰め込むほど、話すスペースがあっただろうか……。最近、エーデルは何か大声で誤魔化すような事が頻繁にあるような。

 自分のキャラの方向性に悩んでいるのかもしれない。


「そうだ、僕からもフリージオ、君に謝りたいことがある」


「小父様……そんなに改まってどうしたんだい?」


「さっきは、声を荒げてすまなかった。黒幕だと疑った事も……」


 フリージオ黒幕説は、アスカの部屋と地下の研究施設のような場所を検証している間のフリージオの様子を見る限り、違うのだろう。

 エーデルも多分それを感じ取ったんだ。


「それこそ気にしてないよ。詳しく話さなかった僕も悪いし。……某少年探偵気質というか、自分で事件がありそうな場所に首を突っ込んで行ったら、疑うのも無理ないよね」


「それと、もう一つ」


「何?」


「先月の誕生日プレゼント……あれは嬉しかった。ありがとう」


 フリージオの顔が照れ顔になる。


「やだ、今、ちょっとキュンってなった」


「え?」


「これで僕と小父様の間に壁は無くなったね……!」


「それは……どうだろう」


「小父様、だーい好き!」


 フリージオはエーデルにガバッとハグをした。

 エーデルは両手を上げて、反応に困っていた。

 多分、こういうタイプにハグされるのは慣れていないんだろうなと思った。

 フリージオは、エーデルの厚みのあるほどよい弾力の胸筋に、顔をスリスリしていた。なんとも心地のよさそうな顔をしている。

 女性のいい胸の名称は美乳だろうが、一方で、男性のいい胸はどういう名称になるのだろうか。「逞しい胸筋ですねっ!」と言われれば嬉しいが、もうちょっと短縮したい。「雄っぱい」いう単語があるけど、これは男の胸を直訳した感じだし、何か違うな。そう言えば、某俳優がマシュマロみたいな胸筋と言われていた。

 そうだ、「雄シュマロ」という名はどうだろう。

 エーデルの胸、これから君の名は「雄シュマロ」だっ!

 男性女性関わらず、美乳や雄シュマロはどの性別をも魅了するだろう。

 俺もあの雄シュマロなら、虜になってしまうかもしれない。

 いつか、スリスリしたい所だ……って、何を考えてるんだ俺は。


 兎も角、エーデルとフリージオが仲直りしたみたいで良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ