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172 私服で不機嫌な宿主の乙女   『〇』

 建物の中はこじんまりとしていた。薄暗い部屋で木造建築の内装が不気味さを醸し出している。入ってすぐに客が訪れる場所は綺麗にしていると思ったが、建築年数が経っていそうで見た目以上に汚れて見えた。

 そんな幽霊屋敷の入門編に相応しい出入口で、モデル並みにスタイルのいい女性が出迎えた。


「やぁ、いらっしゃい」


挿絵(By みてみん)


 少しかったるそうな口調だ。

 「いらっしゃい」と言っている時点でここの従業員だと思うが、とても勤務中とは思えないラフな格好をしていた。髪はロングで黒髪。前髪は少し赤いメッシュが入っている。身長は女性にしては高いが、180センチメートルある俺よりは低い。年齢は年下だと思うが、ヴィーナさんの母親みたいな前例があるから断言はできない。

 ヴィーナさんの母、ストックさんは、年齢アラフィフにして娘より若い……というか、子供っぽい容姿をしている。この女性も二十代に見えて、実はアラフィフかもしれない。女性に年齢を聞くのは失礼だから、聞けない所ではあるが。

 ここはゾンビが出迎えなかっただけ、良しとしよう。


「このモーテルを予約したフリージオです。年末まで滞在すると思うので、よろしくお願いします」

 

 フリージオが少し声を震わせて、出迎えの女性に対応した。

 怖いのかと思う部分もあるが、この場所が寒いので、寒気からくる震えなのかもしれないとも思った。オーストラリアで滞在していたホテル周辺が、何処でも暖かかったので、余計に冷えを感じてしまう。

 

 この怖くて寒いモーテルに二週間近く滞在しないといけないのか……。

 入館して早々こんな事を思ってしまって申し訳ない。


「よろしくお願いします。私が言うのも何ですが、ここに二週間近く泊まるとか変わってますね。まぁ、大体ここに泊まりに来るお客さんは、ホラー気分を味わいたいとか、そういう方が多いんですけど」


 なる程、そっち方面でこのモーテルは需要があるのか。


「ここでの宿の案内、食事、受付、その他もろもろは、彼が全てやるので」


 宿の女性が、親指を向けた先から、中年の男性が出て来て会釈をした。中肉中背で大人しそうな印象の彼は、確実に男性型のアンドロイドだと思われた。アンドロイドというと京都の一件が脳裏を過ぎる。今まで被害に遭ったアンドロイドは、皆人間らしいアンドロイドだったようだから、人間っぽいアンドロイドがいたら、また事件が起きそうで怖い。このアンドロイドはどっちだろうか。普通のアンドロイドよりも物腰が柔らかそうだが、もっと観察してみないとわからないな。


「あの……失礼ですが、そのアンドロイドは大丈夫ですか?」


 思い切って聞いてみた。


「……どういう、意味?」


 宿の女性は、ムスッとしつつ、少し動揺したような声だった。


「知らないんですか? 人間らしいアンドロイドが襲われる事件」


「興味、ないね」


 やけにキッパリ言う。


「それよりも、生きた男がうちに泊まりに来る方が驚きだよ」


「俺達の事は大体……」


「メンズ・オークションとかいう変なイベントで、タイムマシンを使って時空を超えて来たとかいう」


 メンズ・オークションの事は知っているのか。


「……ていうか、タイムマシンとか本当にあるの? にわかには信じ難いけど」


 え……? タイムマシンってこの時代ではそういう認知度なのか?

 タイムマシンが無かったら、今ここにいる俺はいったい。


「そろそろ皆様をご案内したいのですが、よろしいですか?」


 男性型アンドロイドが、にこやかな表情で言った。

 落ち着いた明るい場所でなら、いいフロント係だと思っただろうが、この幽霊屋敷での笑顔は少し不気味だ。


「わたくしめが宿の管理を一括で任されています。名をトージと申します。これから二週間ほどよろしくお願い致します」


 トージさんか。覚えやすい名前で助かった。


「じゃっ、トージ、後よろしく」


「あ、ちょっと君、名前はなんて言うの?」


 フリージオが宿の女性を呼び止めた。


「えぇ? 名前言う必要ある?」


「名前が嫌なら、年齢教えて?」


 ジェンダーレスは対人類相手に怖い物無しか。


「アスカよアスカ。これでいい? 私はお客様方が帰るまで会う事はないから、これ以上は全てトージに全て聞いて。じゃっ」


 不機嫌なアスカは去っていった。

 アスカって滅茶苦茶和名っぽいな。ニュージーランド人なのに謎だ。覚えやすいからいいけど。


「現在この建物には、わたくしめとご主人とお客様三人しかおりません。なので従業員スペースと鍵がかかった部屋以外は、ご自由にお使い頂いて構いません」


「トージさんとやら、食事はどうすれば」


 エーデルは食事が気になるらしい。

 ……というか、あのアスカという女性が主人なのか。


「食事は三食、わたくしめが作ります。予約を入れたフリージオ様ならご存知かと思いますが、宿泊期間の食事しか発注をしていないので、オーダーは予約前しか受け付けておりません。他店のフランチャイズへのモバイルオーダーは可能ですが、かなり割高になるかと思います」


 場所が場所だけにそうだよな。

 地続きとはいえ、この場所は陸の孤島だ。

 

 一先ず俺達は、トージさんに寝床まで案内された。

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