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167 バースデーフォト

 旅館戻った僕達は、テーブルを囲んで鍋料理を食べていた。

 皆、口数は少なく淡々と食べている。

 和風情緒溢れる内装に合わない大型テレビは、ついさっき起きたアンドロイドの暴走事件を取り扱っていた。映像には、暴れるアンドロイドや、ゆきひとがそれを撃退する様子がモザイク付きで流されていた。今回の一見を簡潔に要約すると、神輿を担ぐ予定だったコピペ風の男性アンドロイドが、壮年のアンドロイドをリンチにしたという事件だった。アンドロイドの暴走事件は、今までにも何件か起きているらしく、気になった僕は、食べながらテレビの画面をチラチラと見ていた。


「結局、何が原因で暴走したんだ?」


 箸を持ちながら、ゆきひとが疑問を投げかける。


「ユッキーは、ネットの記事とか見ないの?」


 フリージオは、箸を置いて子猫のように首を傾げて答えた。


「最近、ちょっとずつナノマシンの使い方は覚えてきたけど」


「わかった。エッチィのばっか見てるんでしょ」


「ち、違っ」


 そんな会話を聞くと、エロい動画を見ているゆきひとを想像してしまうが、ここは真面目にいこう。


「僕もこの事件、気になるな。フリージオ、その口ぶりだと原因はもう知っているのか?」


「知らないけど、四か月前の「センテンス・プティング」の記事に、今回の事件と類似した事件を取り扱った内容の記事があるから、読んでみなよ」


 フリージオがそう言った瞬間、ナノマシンとスマホ型端末に通知がきた。体内のナノマシンとスマホ型端末の何方でも読めるようにしてくれた。テレビ視聴中という事もあり、スマホ型端末でその記事を読んだ。


 約半年前、東京にてタクシードライバーのアンドロイドが、乗客のアンドロイドに襲われるという事件があった。乗客のアンドロイドは、所有者の女性からのお使いの帰りで、襲う動機はなく、単純に暴走しただけだという。不可解なのは、タクシードライバーの自宅が荒らされていたという点。タクシードライバーの自宅に、乗客のアンドロイドが近づいた形跡はなく、自宅を荒らしたのは被害者のタクシードライバー本人ではないかと、この記事には書かれていた。


「ゆきひとは、どう思う?」


 ゆきひとの方を見ると、もくもくと鍋の中の肉を食べていた。


「ごめん……お腹空いちゃって」


 逞しい腹筋をさする。


「あ、いや別に」


「ねぇ、小父様?」


 フリージオが僕に声をかける。


「この記事、書いたの誰だと思う?」


「記者だろ?」


「いや、確かにそうだけど……」


 僕とフリージオの会話につられたのか、萌香とゆきひともスマホ型端末を取り出した。


「うわ、もしかしてパステルか?」


 ゆきひとの驚く声。このスピードだと、恐らく記事の内容は読んでいない。こういう類で記者が自分の名前を載せるのは不用心だと思ったが、電子記事だと普通の事なのかもしれない。


「パステルとは?」


「桃色の髪をしたアイドル好きの子、覚えてない?」


「あぁ、あの」


「へぇ、今、記者やってるのか」


 第二回メンズ・オークションにいた、歌を歌ったあの子か。


「ピンポーン」


 フリージオは無駄に嬉しそうだ。


「で、この事件は、現状よくわかってないのね」


 萌香が関心の低そうな声で呟いた。


「それはそうと、もうすぐゆきひとさんの誕生日じゃない?」


「そうだけど、萌香、よく俺の誕生日知ってたな」


「べ、別にいいじゃない、そんな事」


 何故、誤魔化す。


「んー……でも、こんな事あった後だし、誕生会とかは別にいいかな。アンドロイドとはいえ亡くなられた訳だし」


 ゆきひとは優しいな。

 でも、誕生会が出来ないのは残念だ。


「ユッキーはフランスでAIの不倫事件担当してたし、まぁAIにも愛着湧くよね」


 今のフリージオの発言、さらっと聞き逃せないと思ったが、そう言えばそんな事があったと言っていたな。いかんいかん、脳内がゆきひとの事ばかりになって、色んな事を忘れてきている。


「そうそう、ユッキーと小父様に誕生日プレゼント用意してたんだ」


「いや、待て。僕は自分の誕生日知らないが」


「そんなの調べたに決まってるじゃない」


「コラッ、勝手に調べるな」


「誕生日いつだか聞く?」


「いや、いい。知らなくていい事もある……」


「じゃぁ、プレゼントだけ渡すね」


 フリージオが差し出したのは、豪華な箱に入った金属製と思われる黒い球体。上部は透明なので内部は大体見えるが、黒い物体という印象しかない。取り出して触ってみる。触り心地はいい。何だろうか、触ることでマイナスイオンとか発生するのだろうか。


「何だと思う?」


「いや、わからない」


「それ日本円で五百万ほどするから、扱いには気をつけてね」


「五百万!?」


「それはね、「ナノカメラ」と言って、自分のナノマシンと連結すると、自分のお好みのカメラの種類に変形させる事が出来るという優れものなんだ。まぁ、ただ写真撮るだけの機械ではあるけど」


 さっそく自分のナノマシンからアクセスすると、取扱説明書などがずらっと脳内に流れてきた。念じるだけで、様々なタイプのカメラに変形するらしい。実際にやってみた所、一眼レフ、ポロライド、スマホ型カメラと、手の上で勝手に粘土がこねくり回されるように黒い球体が変形した。


「データ何件か入ってるから見てみなよ」


 保存データにアクセスした。

 スマホ型に変形させた状態だったので、画面に直接写真が表示された。


 な、なんじゃ、こりゃぁ!

 手がガタガタと震える。

 僕の目に映るは、彫刻のような筋肉を露わにした、ゆきひとのダイナマイトフルボディという名の全裸写真!

 これは、家宝だ……。家、無いけど……。


「どんな写真なんだ、俺にも見せてくれよ」


「えっ、いや」


 ゆきひとが、画面を覗きこもうとしたので、とっさに隠してしまった。


「どう、喜んでくれた? 不倫事件の証拠を集める時に撮ったものだけど」


「それって、俺がフルヌードした時のか?」


 フリージオが余計な事を言うから、ゆきひとが写真の内容に感づいてしまった。

 

「誕生日プレゼントに俺の写真とか……」


「くれるというなら、受け取っておこう」


「エーデルがそれでいいなら、いいけど……」


 ゆきひとは、頬を人差し指で掻いて何とも言えない表情をしていた。

 それからすぐに、萌香がそそくさと近づいてきて、僕の耳元に口を近づけた。


「後でわたくしの方にデータ送って下さい。お礼として、ゆきひとさんと一緒に温泉に入れるようにしますので」


「ちょ、データを送るのはかまわないが」


 そもそも送っていいのか?

 僕と萌香は、ゆきひとの目をじっと見た。


「知らない人には見せるなよ」


 比較的露出狂のゆきひとも、流石に恥ずかしいようだった。


「それはそうと、ゆきひとさんは何を貰ったんです?」


 萌香の鋭いツッコミ。


「そう言えば、俺のとこにも通知が入ってたな」


 ゆきひとはナノマシンの方で見るようだ。

 ある意味賢いといえる。


「……まぁ、どんな写真かなんていいじゃないか!」


 ゆきひとの顔が、赤くなった気がする。


「何故、隠す。気になるじゃないか」


「ゆきひとさん、何の写真だったんですか?」


「二人は興味ないと思うよ。てか、王子に聞けばいいじゃないか」


 三人で部屋を見渡す。何時の間にかフリージオは消えていた。


「アイツ、逃げやがったっ!」


「ゆきひとさん、これ以上詮索されたくなかったら、小父様と一緒にさっさと温泉にでも浸かってきて下さい」


「まぁ、そうだな。エーデル、温泉行こうぜっ!」


 とても自然な温泉行きに、僕は息を飲むのであった。

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