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166 チ祭り

 様子がおかしい。

 多機能トイレに駆け込むまでは、女性達の賑やかで楽し気な声が聞こえていたが、今は騒然としたガヤが彼方此方から聞こえてくる。外観を彩るように植えられた木々の間に、点々と佇む女性達は困惑し、ある一方を見つめていた。

 僕はゆきひとのいた場所に急いで戻る。そこにいたのは、浴衣姿のフリージオと萌香だった。


「どうしたんだ? 何があった。ゆきひとは何処だ?」


「止めたんだけど、様子を見てくるって」


 答えたのはフリージオだ。


「何があったのか、わからないのか?」


「神輿の方で何かあったみたいだけど、もうすぐ警察が来るから」


 その言葉を聞いて、無意識に体が神輿の方に向いていた。

 背後からフリージオの引き留める声が聞こえたが、体は止まらなかった。

 神輿の方へと走っている間、とてつもない恐怖心が体中を駆け巡った。

 これは騒動が起きた事による恐怖ではない。

 もし、ゆきひとの身に何かあったらという恐怖だ。


 ふと、ある事を思いだして足が止まった。


「そうだ、あの時の……」


 廃墟で赤毛の男と死闘を繰り広げ、深手を負った僕は、謎の場所で力尽きた。

 そして目が覚めたら、ロシアの施設にいた。

 その間に見た夢。

 七色に光る大きな怪獣のような何かと戦っていた男。その男は巨大ドームの入場口のような幅の広い通路の奥で、細長い鉄筋に腹を貫かれて息絶えていた。

 あの時の男、記憶の奥底から呼び起こしてみると、あれはゆきひとだったのかもしれない。何故だ。あの時点ではまだゆきひとには出会っていない。だとすれば、あれは正夢の類か? 今と風貌はさして変わらなかった気がする。だとすれば数年後に起きる出来事なのか?

 ゆきひとは……近い将来死んでしまうというのか?

 そう思ったら、居ても立っても居られなくなった。

 

 ゆきひとのいない世界、そんな世界は耐えられない。


 僕は再び、神輿が設置されている場所へと駆けて行く。

 そこに着くと、ある一点に吸い込まれるように褌姿のアンドロイド達が、何者かに殴る蹴るなどの暴行を加えていて、その集団に漏れた数体のアンドロイドが、ゆきひとに向かって殴りかかっていた。


「ゆきひとっ……!」


 ゆきひとはアンドロイドのパンチを片手でいなし、顔面にパンチで体制を崩した上に、畳みかけの回し蹴りで一体を撃破した。


「ゆき……ひと……?」


 二体目の攻撃はバク転と捻りを加えたバク宙で躱す。大胆で迫力のある旋回は龍が天に昇るようで、風になびく帯は龍の髭が揺蕩うよう。これぞまさに龍の舞い。

 

 こんな動き、マッチョがしていい動きではない。

 

 しかも動いている最中、浴衣が様々な角度ではだけ、逞しい胸筋がチラチラと垣間見える。それでいて、○首が見えそうで見えない。大事な事だからもう一度言う。○首が見えそうで見えない。それに対して下腹部の褌はガッツリ見えた。ボクサーパンツも下に履いているようだが、これはこれでいい。棚から牡丹餅。偶然開けてしまった青春の宝箱だ。

 これだ、これこそが僕の求めていたエターナルチラリズム。

 とても不謹慎だが、もの凄くエロかっこいい。


「こんなん、惚れてしまうやろ」

 

 バランスを崩しながらゾンビの様に迫ってくる二体目のアンドロイドを、ゆきひとはカウンターで溝内に渾身のパンチをねじり込み沈めていた。息も切らさず余裕の表情。この戦闘力は恐らくこの時代で身につけたものだろうが、それにしても凄すぎる。僕が助太刀する必要もなかったし、むしろ足手まといになっていたかもしれない。


 それから間もなくパトカーのサイレンが急接近してきて、数台が神輿を囲む形で急停止した。そして中からバリバリに制服のキマっている女性警官が出て来た。「殿方のお二人はんは、そこから動かないで下さい!」と拡声器を使って翻訳されたであろう京都弁で語りかけてきた後、別の女性警官がロケットランチャーのようなものを、殴る蹴るなどをしている数十体のアンドロイドに対して標準を向けた。


「うわっ……マジか」


 現実離れした光景に、言葉を失っていると思った上で言葉が出てしまったが、そんな事はお構いなしに、ロケットランチャーの弾は放たれた。

 パンッ! ……っと、痛快な音が鳴り、アンドロイド達の方を見ると、アンドロイド達は倒れ込んで機能停止していた。ロケットランチャーの弾は実弾ではなく、電磁兵器のようだった。


 その後、ゆきひとは女性警官から、その場で事情聴取を受けていた。

 僕は近くでその様子を見ていて、現場に群がった観光客からすり抜けるようにやってきたフリージオと萌香を一瞥した。

 何が起きたのか全くわからないまま、僕達の暖冬祭は終わったのだった。


 


 

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