156 Birds of a feather flock together
目が覚めると、元いた子供部屋のような場所に戻されていた。
人の気配を感じ、その方を見ると先ほどの警備員がいた。
ただならぬ気迫だ。至近距離で目視し、尚それを強く感じた。
「気分はどうだ?」
「……最悪だな」
「お前のオークションイベントが近いので、今まで担当していた女性に変わって、私が手短に説明する事になった。私も詳しい内情はわからないので、わかる範囲でお前の質問に答えよう」
「質問? 何を聞けばいいって言うんだ。これは悪い夢だ。夢の中の相手と会話してどうする」
「先ほどの蹴りで、痛みを感じなかったのか?」
「さぁね。目覚めたばかりで感覚が鈍っているのかもしれん。だから、もう一度蹴りをくれないか? そうすれば現実だと感じるかもしれん」
「お前はドⅯなのか?」
「激しく頼む。死んでしまう程に」
「……何故、死に急ぐ」
警備員は、初めて戸惑った様子を見せた。
「もう生きていても仕方がない。僕の精神はもはや正常ではないのだろう。生きながらえる意味などない」
「先日、お前の体内に埋め込まれたナノマシンから、この時代の現状をまとめた情報が送られたはずだ。その情報は……残念ながら本当だ。信じるか、信じないかは関係ない。それが事実なのだから」
「急にこの時代が数百年後未来で、男性の大半が絶滅したと言われて信じられる訳がない」
「イベントに出れば全てがわかる。会場には女性しかおらず、一人の男性をめぐって争われるのだからな、このロシアで」
母国の名を聞いて気が沈んだ。今まで嫌煙していた、この国に帰ってきてしまったのだと。もしかしたら特殊な拷問を受けている最中なのかもしれないが、そのイベントやらに出れば真実が少なからず見えてくるのは確かだった。
男尊女卑でセクシャルマイノリティを受け入れられない国。その国で沢山の女性が集まって、男のオークションをするというのはありえない話だ。
「そのイベントには、必ず参加しなければならないのか?」
「拒否権は無い。……先ほどは悪かった、お前は大事な商品なのに蹴りを入れてしまった」
「悪いと思うなら、僕をここから逃がしてくれないか?」
「それは出来ない。私に何のメリットがある。それに、死にでもいいと言うぐらいなら、冥土の土産にオークションぐらい参加して行けばいい」
「君が僕と同じ立場なら、素直に参加するのか?」
「ふふっ、面白い事を言うな。答えは「参加しない」だ。残念だが同じ立場にはならない」
「……」
この警備員との会話は嫌いではなかった。
少なからず波長が合うような気がした。
気になるのは、ただの警備員とは思えない点。直感的に付け入る隙があるのではないかと思ったものの、これが僕の幻想だったら、この思考すら無意味なものだ。少し面倒になってきたので、黙秘を続ける事にした。
沈黙の数分が経って、痺れを切らした警備員が口を開いた。
「ガッカリだな」
「……どういう意味だ?」
「資料には、凄腕のスパイと書いてあったのだが」
「その情報は間違っているぞ。未来も大した事ないんだな」
「……これ以上の会話は無駄だな。イベントの参加は覆らない。お前にも私にも決定権は無い。強制的に参加させるしかないと上には報告しておく」
「……お前はやめてくれ。一応、エーデルという名がある」
「そうか、エーデル。資料に書いてあった名はうる覚えだったから、教えてくれて助かった。私はこれで失礼させてもらうよ」
「君の名前は何て言うんだ」
「名を話したら、イベントに参加してくれるのか?」
「どの道、拒否権は無いのだろう」
「そうだな。私の名は……クレイだ」
警備キャップを颯爽と外した麗人は、少しだけ微笑んで部屋を後にした。