152 新人記者の情報整理 【1】 『○』
(あらすじ)女性新人記者と男性型アンドロイドのカメラマンは、アンドロイドの暴走事件を追っていた。一方で、表舞台に復帰した男達もアンドロイドの暴走事件に巻き込まれていく。
三人の男女が、フォークダンスを踊るように視点をバトンタッチしていくサスペンスラブコメディ。
7 ダンシング・パペット
西暦二ハ二六年五月十五日。
私が記者としての第一歩を進めようとしてる日だ。一歩というか半歩。……というか全然進んでいない。数ページの担当を任せされて浮かれてしまったが、何処から始めていいのかわからないのだ。
私が任された内容は「第二回メンズ・オークション」の裏事情。一先ずここは、情報を整理し、下書きとしてひたすらに書き込んでいこうと思う。
メンズ・オークションとは。
この二八〇〇年代では、Y染色体の消失により男性が生まれてこない。その為、過去から男性を「タイムマシン」で連れて来て、それをオークションにかけてイベントにしよう……というのが始まりらしい。人権を無視したこのぶっ飛んだイベントは「ストック・ウィッシュ・ホールディングス」、略して「SWH」が企画開催しており、過去に三回イベントが行われている。その二回目の記事を私は任された。
第二回メンズ・オークションは、ロシアで行われ、様々な問題が重なって荒れに荒れた結果、公式で黒歴史化し動画は一切残っていない。その為、催したSWHにおいて、公式的に黒歴史とされているイベントになっている。この黒歴史イベントは一定の需要があって安定したPVを稼げるのだ。
何故最初の担当がこれになったのかというと、私が直接関わったイベントだからである。私が記者として採用された理由は、多分これ。他に理由があるとすれば、カメラの扱えるアンドロイドを所有していた事も大きいだろう。兎にも角にも、初めての記事になるので手探り状態なのだ。
「第二回メンズ・オークション」は、二八二二年の一月に開催された。
私は入札者という立場で参加している。ここでの入札者というのは、出品された男性をお金を武器に争うのではなく、自らの魅力で男を手に入れる立場であり、オークションの客と言うより、一人の男を巡って争う女達という例えが正しいだろう。出品された男性は、ロシア人のエーデル・スターリンという男。四十代のいわゆるイケオジで、ささる人にはささるのではないだろうかと思ったりもした。
ここで「第二回メンズ・オークション」に関わった人物を整理しよう。
私……は飛ばして、まず入札者の二名から。一人目は、現SWH日本支社社長で当時SWH日本支社部長で科学者でもあったソフィア・トルゲス。彼女はこのイベントの主催である「SWH」の社長令嬢であり、若くして会社の中枢を担っていた。タイムマシン開発にも携わっていたらしいが……タイムマシンの技術は「SWH」が独占しており謎が多い。よくそれで国際問題に発展しないのか疑問ではあるが、当時の私と同じようにふんわりと捉えている人が多いようだ。タイムマシンがあるのであればあるのかもしれないが、本当はそう言っているだけで無いのかもしれない……と。今の科学力では、生物を送るのに、過去から未来の一方通行で、人類は過去には行けないらしい。その為、実用性はイマイチであり関心が低いのかもしれない。よくよく考えても「タイムマシン」の存在がふわふわし過ぎてよくわかっていない。今後の課題だ、いずれ調べよう。
話を戻そう。
ソフィアは第二回メンズ・オークションの参加は消極的……というか、家族や会社の関係で、嫌々参加していた。それで私が付きそう形になったのだ。ソフィアの血縁関係は複雑であり、六姉妹と知ったのも最近の事。母親の違う姉妹はまた別にいるらしい。精子バンクと人口子宮での出産という環境が、複雑な血縁関係を生んでいる。
入札者二人目は、タンナーズ・ライオネル。エジプトのカイロでカジノ経営をしているグラマラスなお姉様だ。彼女は、全てのメンズ・オークションに参加しており、とにかく金がある。メンズ・オークションには、その時々で参加枠が変わっており、会社からの推薦枠、資金枠、くじ枠と色々あった。その中の資金枠をタンナーズが全て消費した形となっている。
「第二回・メンズ・オークション」の中で、メインとなったのは、出品された男と入札者の女達なので、この辺りを中心にして書く必要があるが、ソフィアの事は書きたくないなぁ……。
まさかソフィアが社長になって、私が記者になるとは思ってもみなかった。あの頃が懐かしい。
別の人物にも、スポットライトを当ててみよう。
「第二回メンズ・オークション」の司会進行をやっていたのは、ストック・トルゲス。彼女はソフィアの母親でSWHの現会長。見た目はかなり若いが六姉妹の母。
その会長のサポートに、男性型アンドロイドのバロンがいる。彼は常にストックと共に行動をしていて基本離れる事はないらしいが、第二回メンズ・オークションでは私と会っていたので独立して行動していたように思う。
とても人間らしいアンドロイドで、普通のアンドロイドよりも性能が高いのではないかと推測出来る。私がロシアに入国した際、最初に出迎えてくれたのでとても印象に残っている。
当時、意識していなかった人物も語ろう。
イベントのアナウンスとして、ヴィーナ・トルゲスもこのイベントにいた。彼女は元SWH日本支社社長で、ソフィアの姉、ストックの娘にあたる。現在は社長業を退き、妹のソフィアに立場を譲っている。
後、もう一人。
警備員として参加していたクレイ。面識はほとんど無く……というか、直に顔を合わせて知り合いになったのは去年の九月。まともに話したのは去年の十一月の誕生会だ。当時は全く知らない他人であり、今も親しい関係とは言えない。
ざっと登場人物を説明するとこんな感じになる。記事のメインは、やはり出品された男性にした方がいいだろうか。SWHに関わる人物とか、最初にしてはハードルが高い。ここはエーデル・スターリンを掘り下げる事になるだろう。わかっている事は、名前、出身国、性別、年齢、メンズ・オークション会場で何かを大声で叫び倒れたという事。イベント終了後の行方はわかっていない。
実を言うと、私が知り得なかった情報の提供者は、イベントの警備をしていたクレイだ。彼女は現在SWHに雇われているボディガードだが、頼み込んだら情報提供してくれた。聞いといてなんだが、会社に雇われているクレイが、記者の私に情報を漏らしていいのだろうかとは思った。
話を聞いている間、クレイは淡々と語り、まるで他人事のようだった。彼女もまた、何か秘密を持っているのかもしれない。