表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
147/300

147 第二形態マトリョーシカ

 奴はどこに行った?

 開けた場所の中央にはランプが置いており、明るくなっている。奴はこの周辺の地理を下調べしている。もしかしたらトラップを仕掛けているかもしれない。こちらが不利だな。


「おい、僕と遊んでほしいんじゃないのか? さっさと出てこいよ!」


 ランプの照明や月明かりの当たる場所を避けながら廃墟の中を進んで行く。

 奴からはあまり殺気を感じなかったし、殺し方のこだわりを考えると、現状そこまで警戒しなくていいのかもしれないが、銃の流れ弾が怖い所だ。

 こちらの武器はモデルガン。それで何とかするしかない。

 何部屋か移動すると、人の気配を感じた。他の部屋よりランプの照明が多く、中に後ろ姿の赤毛の男がいた。


「……赤毛?」


「やっと来たか。どうだい、似合うか?」


 振り返った赤毛の男はブリキだ。

 ボサボサの赤毛にピエロのような赤い口、半裸の上にジャケットを羽織っていた。この赤毛はカツラだ。ホテルマンの言っていた情報は間違いではなかった。


「ワダシ、キレイ?」


 狂気を感じた。この男は本物の殺人鬼だ。


「ワダシのこの髪、何か感じないか?」


「もしかして……」


「そうダヨ、あの女の髪でカツラを作ったんダヨ。今までも付き合ってきた女は赤毛ばかりだったんダヨ」


「過去の赤毛もそうなのか?」


「沢山の赤毛の女を殺した後、髪を集めてカツラを作ったんダヨ。皆、お互いを好きな時は、貴方の為なら死ねるみたいな事言うんダヨ。じゃぁ死ね! ……って、言う事で殺しちゃっだ!」


 奴はこちらに銃口を向けた。咄嗟に物陰に隠れ、放たれた銃弾を避けた。


「お前はずっとママの影を追いかけていたのか」


「沢山殺せばママが喜んでくれると思った! だからママと同じように殺し屋になってたくさん殺したっていうのに、後からエーデル、オマエが来た!」


「望んでそうなった訳じゃないさ」


「望んでない? そうだよ、オマエもビヨンドもママの愛を特別望んでいなかった。ワダシだけがママの愛を欲っしていた。ナノ二ナノ二ナノ二、ママは付き合ってるワダシを差し置いてオマエの事ばかり話した! ワダシにはエーデルって言う弟がいるのー。可愛くていずれダンディになるわのー。エーデルは優秀だのー。私と同じスパイになってくれて嬉しかったわのー。ダッテサッ」


 僕に対しての恨みは母親の愛情を独り占め出来なかった故の嫉妬か。

 奴は興奮しながら話し、拳銃を四方八方に無駄撃ちしていた。

 この嫉妬の感情は使えるかもしれない。


「そうだな。僕はお前より優秀だったから、ママに愛されたのかもな」


「はあああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!?」


 僕が物陰に隠れているにも関わらず、銃口を僕のいる方向に二発三発四発と撃ってきた。


「僕がママといる時は、お前の話はしてなかったぞ?」


「殺すっ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねSINNNNNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!」


 大量の弾を消費しながら、歩いてこっちに向かって来ている。

 ジャケットを羽織っている点を見て、残弾はまだあるとして油断は出来ないが、全て消費させれば戦いやすくなる。奴は快楽殺人者で戦闘のプロじゃない。僕自身、撃ち合いや接近戦などの直接的な戦闘は得意ではないし、現役を退いて何年も経つが、勝機ならある。

 

「オマエもビヨンドもママから独り立ちしたら見向きもしなかったのに、恩をアダで返したのに、ナノ二、何なんだよ! オマエがゲイだって言う事を、ロシア政府やスパイとして活動している奴らに向けて情報をばら撒いて、二度と祖国の地を踏めないようにしてやる!」


 奴が興奮している間、僕は奴の背後に移動し、ランプを奴の頭上に投げた。部屋に照らされいたランプの光は廃墟の暗がりの中で回転し、奴は反射的にランプを拳銃で撃った。ランプのガラスが舞い散り、奴が怯んだ瞬間、僕はモデルガンの弾を奴の右手に撃ち込んだ。地面を滑る銃。それを靴底で踏みつけた。


「ザンネーン」


 パンッ!

 発砲音がした。

 咄嗟に腹を押さえた。手を見ると赤い血がべったりとついていた。奴の方を見ると左手に銃を持っていた。


「二丁持っていたのか?」


「違うヨ。オマエの足元よく見てみナ」


 これは……モデルガンか?


「気付いたか? あの探偵事務所にテープを置いてったついでに、モデルガンを一丁くすねておいた。それと、さっきの銃声のほとんどはテープ音源だ。やはりオマエは二流だな」


「……腹を撃ったり、すぐにとどめを刺さないあたり、お前は三流じゃないか」


「あいにく今ので弾が無くなったみたいだ。弾がないと拳銃も男も使えない。やっぱりナイフの方が好きだな。エーデル……楽に死ねるとオモウナヨ」


 ドスの聞いた声だ。

 今までと違い強い殺気を感じる。まだ倒れる訳にはいかない。たとえ刺し違えてでも息の根を止めなくては。何か、何か手はないか。


「何でママを殺した」


「愛だよ、愛。殺しはワダシの愛情表現だ。エーデル、ワダシいい事思いついたヨ。ワダシお前に整形して、ビヨンドに会いに行って、殺しに行くヨ。信じていた弟に殺されたら、ビヨンドはどう思うかな? ワクワクして今日はネムレナーイ!」


「お前、僕より若干身長低いだろ」


「厚底ブーツで何とかするヨ。それよりもオマエ殺したら、誰が死んだかわからないようにしないとネ。顔は全部剥がさないとネ」


「ビヨンド兄さんを殺したら、それからどうする気だ。お前には何も残らない」


「キメタキメタキメタッ! 最後はワダシはママになって、ワダシはワダシを殺そう。そうだ、そうしようっ!」


「……意味がわからない。一人で、勝手に、死ねっ……!」


「ワダシが、ママに、ナルンダヨォッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ