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144 会ってはいけなかった男

 指定の場所まで春希の車で向かった。

 大晦日の夜だからか、すれ違う車は少なかった。空はどんどん闇が深くなり、街灯も次第に減っていった。向かってはいけない場所に入っていくような感覚だ。恐怖心を煽る光景に次第に変化する夜景はこの世の果てのようであり美しくもあった。車から降り、FAXの住所と同じかどうかを確認した。


「合ってる。ここだ」


 春季は沈んだ表情だったが、しっかりとした声を発した。

 僕が黙って廃墟の中に入ろうとすると春希は手を握ってきた。震えが細かく伝わって来る。季節的に寒いという部分もあるだろうが、恐怖と心細さの方が勝っているだろう。警察には連絡していない。誰も助けは来ない。僕達だけでやるしかない。

 ここに来るまでに警察に頼った方がいいと僕を説得する機会はあったはずだが、春希は最初に美春をさらった男との会話以降、警察というワードを口にしなかった。もしかしたら僕の事情も察しているのかもしれない。警察を呼ばれて困るのは僕も同じだから。


 少し開けた場所に着いた。

 人の気配を感じて物陰に隠れた。


「出てこいよぉ、来てるんだろう?」


 僕は春希の手を離し、前に出た。

 声の主の容姿を確認する。

 年齢は五十ぐらいで身長は百七十センチ前後。上は半裸で下はジーンズ。年齢の割に体が締まっているという感じで、筋肉質とまではいかない体形。髪は……ない。スキンヘッドだ。赤毛とかいう以前の問題だ。瓦礫の積まれた上に座りながら、半笑いで右手に持った拳銃の引き金を指でくるくると回していた。

 今までに会った事のない男だった。

 その男の右側に、赤い布で被せられもぞもぞとしている何かがあった。

 

「エーーーデル、会いたかったよぉ」


「お前は、僕の事を知っているのか?」 


「お前? まずは名乗らせてくれ。オイラの名前はブリキ。ママがつけてくれた名前だ」

 

 奴の自己紹介を聞いた時点で。推測が確信にかわった。

 それ以前に声と容姿を見た時点で間違いないと思った。

 一度、兄さんから聞いた事がある。この男はママが最初に連れて来た子供だ。

 つまり、職業は殺し屋。

 この男は、ビヨンド兄さんにとって長兄にあたり、殺し屋に仕事を斡旋していた、パパーニャ大佐とも繋がりがある。

 そうだ、ママを殺せる手練れは限られていた。脳天を拳銃でぶち抜く殺し方を知っているのも限られる。偶然の可能性もあったが、あの部分を写真に収めた事には意味があったんだ。本気で見つけようと思えば、もっと早くターゲットを絞れた。 


「ブリキ、話なら聞く。美春を解放してくれないか?」


「その前に後ろのへっぽこ探偵も出て来いよ」


 ブリキに促され、春季は僕の後ろに立った。


「さっきから赤い布が気になってるでしょ?」


 そう言って、ブリキは赤い布を翻した。

 そこにはベリィショートヘアになった美春が手錠をつけられて泣いていた。


「じゃじゃーん! ヘアカットしてみました。どうだい? 下手くそでょ!」


「悪趣味だな」


「悪趣味? よく言うよ。お前だって現役時代は似たような事したんだろ?」


「僕は……!」


「おっと! 言うでない言うでない。オイラは元殺し屋、お前は元スパイ。違うって言いたいのか? 人を殺した人数は大差ないと思うぞ?」


 美春を生かして春希を呼んだのは、僕の過去を聞かせる為か。

 あまり会話を長引かせたくないな。


「この女、お前の仕込みか? 正直に言えよ」


「仕込みとはどういう意味だ?」


「オイラさぁ、あの探偵取材の番組見てさぁ、思い出しちゃってさぁ、この女に会いにいった訳よ。まぁ突然外人に声かられたら警戒するのは普通だけど、何かオイラの事を受け入れようみたいな空気を感じたのよ。喫茶店で二時間ぐらい話して、愛を感じた。帰り際、駐車場でテレビ局のプロデュサーをしているって嘘ついて、枕しないかって誘ったの」


「その見た目じゃ無理があるんじゃないか?」


「普段は普通っぽくしてるよ。まぁまぁまぁ、続きを聞いてくれ。僕が誘ったらさぁ、この女どうしたと思う? 探偵君、答えなさい!」


「えっ、俺? え……と、初めて会ったから断った。いい仕事をくれるなら考える……とか?」


「アッハッハッハッハ! 馬鹿だぞこいつ! 馬鹿だ!」


「……」


「ちげーよ!! この女、スタンガンで攻撃してきた! オイラがどういう存在か見抜いていた。オイラを誘いだして待ち構えていたんだ! でもな、普段感電プレイとかもしていたし、オイラは電気に強かった、すぐに意識を取り戻して反撃して縄で縛り上げて車に乗せた。こっちも少し動揺しちゃってさぁ、コンビニで一服して車に戻ったら、縄を解いて逃げ出してた。でも発信機をつけていたし、すぐに見つけて、今度は逃げられないように指の爪を全部剥がしたって訳だ。何者なんだ、この女!」


「彼女は僕の話に、同情しただけだ……」


「あぁ、そう」


「僕と話しが出来れば満足だろ? 彼女は解放してくれ」


「ダメだ。オーディエンスは必要だからな。エーデル、おかしいとは思わないか?」


「何がだ」


「何でこの女と寝た?」


「今は別れたが、当時……付き合っていた」


「そういう意味じゃねぇよ。ママから聞いていた話と一致しない」


 ……まさか。


「……おいっ!」


「だって、お前ゲイじゃん」 

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