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143 探偵の真説

「オズ……いや、エーデル。これからどうしようか。この場合、やっぱり警察に言うべきだよな」


「ダメだ。警察に言えば美春は殺される」


「相手は複数かもしれないんだぞ?」


「その線は薄いと思う。会話内容や感情を乗せた話し方、他に仲間がいるなら、もっと淡々と話すはず」


 ……とはいえ、人を雇っている可能性はある。でも今は、必要以上に春希を不安にさせるだけだから、その事を伝えなかった。


「二人で美春を助けに行ってどうするんだよ。相手が攻撃してきたら?」


「春希はここで待っていろ。警察を頼るというのなら、僕は春希に協力出来ない。僕一人で助けに行く」


 僕がそう言うと、春希は僕の服を掴んだ。


「一人にはしないでくれ。一人は……怖い。……お前と一緒なら大丈夫だ」


「……」


「……殺す気なのか?」


「……」


「正当防衛でもないのに、それはまずいだろ」


「調べたのは大佐の事だけか? 僕の事は調べなかったのか?」


「エーデルは仲間だから……。元上司が軍の大佐なら、元軍人かと思ってた」


「大佐を調べるなら、僕を調べるのと変わらないだろ。奴の話は取り敢えず聞く。その後の事は保証出来ない」


 今から拳銃を調達するのは難しい。どうしようか。


「春希、今から武器を調達したいのだが」


「エーデル……実は……」


 春希は少しバツが悪そうな態度で、春希の専用クローゼットにしまってあった段ボール箱の中を僕に見せた。その中には、数丁のモデルガンがあった。以前、モデルガンを処理してほしいとの依頼があった。多分、その時のモデルガンだろう。モデルガンの所有は銃刀法違反になる。勿論、ここにあってはならない物だ。


「モデルガン、処分してなかったのか?」


「……かっこよかったから、少しくらいならいいかなって」


「そんな訳ないだろう。……でも今はいい。春希、モデルガンを貸してくれないか?」


「モデルガンで戦う気なのか?」


「無いよりはマシだ」


「貸すのはいいけど……なぁ、電話の相手に心当たりはないのか? 相手の特徴がわからないのは不利なるだろ。向こうはお前の事を知っているようだったし」


「……心当たりはないな」


「指定の時刻まで、まだ時間はある。美春を助けに行く前に特定しよう」


 僕は兄さんから受け取った物だと説明し、母が脳天を拳銃でぶち抜かれた写真を春希に見せた。春希は口を押えて厳しそうな表情をしていた。それでも堪えながら、息絶えた母の写真をじっくりと観察していた。


「裏にはエーデルよりって書かれているんだよな。何でお前のふりをしたんだ?」


「わからない。その写真は大佐の元にも届けられたらしい」


「写真を送られた二人、殺された母ちゃんに接点のある人物はいないのか?」


 この三人を結ぶ人物。

 僕は誰かを見落としているのか?


「なぁエーデル。この写真の表情どう思う?」


 春希に言われ、母の死に顔をまじまじと見る。

 特に変わった所はないが、やけに綺麗に見える。


「まさか、人形とか言わないよな? 美春をさらった奴は、ずっと大佐の部下に監視されていた。その部下が殺された以上、その写真は本物だと思う」


「遺体は見つかったのか?」


「……見つかってはいない」


「……本物か偽物かって言う事を言いたかった訳じゃないんだ。この写真の遺体、とても安らかな表情に見える。まるで、死を受け入れているみたいだ」


「死を受け入れる?」


「殺されてもいい相手に、殺されたんじゃないのか?」


「殺されてもいい相手なんているのか?」


「恋人……もしくは子供とかかな」


「母と殺した奴が一緒に歩いている所を目撃した奴がいた。恋人みたいに見えたと言っていたが……」


 母が殺し屋として現役だった頃は、寝た男を憎しみを込めて殺していた。恋人に殺されてもいいという線はないな。


「母は恋人を憎む傾向にあった。子供には甘かったが」


「恋人に見えただけで、本当は自分の子供とか。思い当たる人物はいないか?」


 ……いる。


「だがその場合、動機がわからない」


 もし僕の思っている人物なら、美春は今非常に危険な状況にある。


「その反応だと、思い当たる奴がいるんだな。動機は今は置いておこう。その男は危ないのか?」


「非常に危険な男だと思う。会った事がないからわからないが」


 まずいぞこれは。

 春希を連れてっていいのか?


「……俺は一緒に行くぞ。俺も連れていけって奴も言ってたし」


「そうだな。入念に準備をして立ち向かおう」


「エーデル、こんな時だけど聞いていいか?」


「あぁ」


「死ぬかもしれないのに、怖くないのか? 震えが、止まらない……」


「……怖くない訳ではないさ。慣れもあるだろうが」


「今から慣らすのか?」


「覚悟があれば、美春を助けたいという気持ちが、死の恐怖を和らげてくれるはずだ」


「……わかった、ありがとう」


「美春を助けよう」


 母を殺し、美春をさらった男。まだ同一人物なのかすら断言は出来ないが、この短時間で絞り込む事が出来た。

 今更悔やんでも仕方ないが、もっと早く春希と美春に伝えるべきだったのだろうか。そうすれば美春も拷問を受けずに済んだかもしれない。

 助け出す準備を進める過程で、僕の心は暗い影に蝕まれていった。


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