129 飄々男子
羽田空港に着いてすぐ外へ出た。
日本時間午後七時。初めて降り立つ日本の地にて、多少なりとも気持ちが高揚しているのがわかった。日本と言えば、高級な電化製品を製造する国というイメージがあり、ママが憧れていた地でもある。ほんの些細な接点ではあったが、その影響からか、スパイ学校で学ぶ複数の語学の中で日本語を専攻していた為、少しは話す事が出来た。
空港の外は薄暗くなっていた。その暗がりの中で様々な色で散りばめられた光が異国の地に来たという実感を呼び起こした。どのタクシーに乗ろうかと少し歩くと、その途中、壁際に座り込んでいる若い男が目に入った。足元に空き缶を置いている。恐らく、お金を入れてもらう為に設置した物だろう。僕は妙にその若い男が気になり、立ち止まって声をかけた。
「靴磨きか? それとも何か芸でもしてくれるのか?」
若い男はゆっくりと顔を上げた。
「……外人さん? 貴方はどうして日本に来たんですか?」
「……?」
「……あ、日本語はわからない……って、今凄い日本語うまかったな」
「ここで何をしている」
「凄そうな外国人に声をかけようと思ったんだけど、勇気が出なくて……」
事情がよく呑み込めないが、若い男の腹の虫が鳴ったので、お腹を空かせている事は理解出来た。
「パンでも食うか?」
バックに入れていたコッぺパンを若い男に差し出した。若い男は「ありがとう」と言って勢いよく食べ始めた。何だか昔の自分を見ている様な気がして、不思議な感じがした。
パンを食い終わった若い男は、立ち上がって僕に握手を求めたきた流れで、軽い握手を交わした。
「外人さん、日本語上手だね。日本は何度か着た事があるのかい?」
「初めてだ」
「さっきも聞いたけど、何で日本に来たんスか?」
「人を探している。日本にいるかもしれないという情報しかないんだが」
「何スか。その無謀な捜索」
若い男は小さく笑った。
「まぁ、そうだな。悪い、今のは忘れてくれ。じゃぁ僕はこれで失礼するよ」
立ち去ろうとした瞬間、何かに引っ張られた。
男が服を引っ張っていた。
「何だ? まだ何か用か?」
「外人さん! 俺を雇いませんか?」
「いや、人探しは自分一人でやる」
「雑用でも何でもします! だから俺を雇って下さい!」
必死だな。日本人はコミュニケーションに消極的だと聞いていたが、話しと違う。彼が変わっているだけかもしれないが、切羽詰まっているからかもしれない。
何にしても困ったな。
「仕方ない……取り敢えず一日だけだ」
「あざーす! 外人さん、やっぱ只者じゃないッスよね。オーラが違いますもん」
「オズだ。オズと呼んでくれ」
「オズさんスか? 俺は春希って言います! それでなんですが……」
「まだ何かあるのか?」
「給料前借り出来ませんか? 二人で一杯飲みましょうよ」
あまりの厚かましさにあっけに取られてしまったが、数時間後、僕と春希は新宿の飲み屋に移動していた。