117 赤毛のママ
彼女の家は綺麗とは言えず、木造建築の内装は至る所が朽ちていた。それでも寒い外よりマシではあったし、困窮した状況下において贅沢は言えなかった。
キョロキョロしていた僕は、彼女に促され、朽ちた木材のテーブルとセットになっている朽ちた木材の椅子に座った。
彼女はスープを温め始め、テーブルの上にポトンと置いた。
スープの匂いを感じるだけで心が温かくなった。
「どうぞ、召し上がれ」
気がついたら黙々とスープを口に運んでいた。木製のスプーンを持つ手がぎこちないながらも、喰らいついて胃に流し込んでいた。
「食べ終わったら、ごちそうさまって言うのよ」
「ごちそうさま」
僕はお礼に、肌身離さず持っていたペンダントを彼女に差し出した。
「これ、あげます」
「何だいこれは」
彼女は銀のペンダントを角度を変えて見た後、中までくまなく観察していた。
「謎の赤ちゃんの写真が入ったペンダントです。どの道、お金に困ったら売ろうと思ってました」
その言葉を聞いた彼女は、口を押えて吹きだし、大声で笑い出した。
「謎の赤ちゃんって、どう見ても君の写真でしょ」
「そうでしたか」
「わかった、これは預かっておくよ」
「ごちそうさまでした、ありがとうございました。それでは」
「君、面白いね。ここに住まない?」
「えっ、でも……」
「親はいない感じだけど、やっぱ親の元に帰りたい?」
「いえ、僕はいらない子だから捨てられたと思うので、別に……」
「そう。ここにいれば、毎日美味しいご飯が食べられるんだけどなぁ」
「よろしくお願いします」
僕は食べ物に目がなかった。
「君、名前は?」
「名前は……よくわかりません」
「じゃぁ、私が名前をつけていいかな? うーん……君の名前は、エーデルがいいかな。エーデル・スターリンでいい?」
「構いません、それでは貴女の事はなんて呼べばいいですか?」
「私の事はママって呼んで。私の名前はママで、そしてアナタのママになってあげる」
「あ、はい。よろしくお願いします」
展開がよくわからなかったが、食事に釣られて返事をしたのを覚えている。
僕にママという存在が生まれ、名前はエーデル・スターリンとなった。