116 マシュマロ 『〇』
(あらすじ)セクシャルマイノリティは生まれながらにして犯罪者なんだと教えてくれた人がいた。その人は少年の母親となり、少年は母親と同じ道を歩んでいく。ロシア旧ソ連に生まれた男の半生を描いたセクシャルハードコアサスペンス。
6 白銀のシンセツ
セクシャルマイノリティは生まれながらにして犯罪者なんだと教えてくれた人がいた。その人の言葉は差別や傷つける為ではなく、自衛の意味が込められていた。
何故そう言えるのかというと、教えてくれたその人もまたセクシャルマイノリティだったからだ。その事を教えてくれた彼女に出会った頃は、まだ言葉もろくに知らない子供の時だった。行く当てもなく、寒空の下、外路地の隅に座り常に飢えていた。恐らく年は十一を越えた辺りだったと思うが、一般的な子供達に比べて知恵も遅れていたように思う。当時はいかに空腹を満たすのかという事ばかりを考えていた。彼女はそんな僕に定期的に会いに来て食べ物を与えてくれた。固いパンが多かったが、ゴミを漁って食べる食事に比べたら何倍も美味しかった。
「ありがとう……」
上手く言葉を話せなかったが、彼女に感謝の気持ちを伝えた。
彼女は微笑んでいた。そんな彼女を僕はまじまじと見た。赤髪で強気な風貌。胸を大胆に強調する服装。この腐敗した街では似つかわしくない格好で無理やり景色に溶け込んでいた。
「ねぇ銀髪君。うちに来るかい?」
難しい言葉はわからないし、文字の読み書きも出来ない。でも何となく意味はわかった。
ただ、乗り気がしなかった。
「うーん……」
「うちに来れば、もっと美味しいものを御馳走するよ」
彼女は声はしなやかで滑らかだった。本当なら知らない人について行くのは危険な行為だ。しかし、身寄りのない僕は、その日食べる物に困窮する日々で、飢えをしのげるならと彼女の誘いにのった。
その出来事は、まだロシアがソ連と呼ばれていた頃の時代であった。