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102 カオスエンド

 特殊な環境と状況が男を大胆にした。

 突然の告白に女は戸惑い言葉が出ない。

 二回目のじりじりとした熱い展開に、再度ドラマティックな盛り上がりを見せるかと思われたが、二度目の奇跡は輝かなかった。

 正確に言えば、一度目も奇跡など起きてはいなかった。

 何が起きたのか。

 最初に告白した者が悲痛な叫び声を上げたのだ。


「嘘だっ! 嘘だよね……カーネーション……」


「嘘も何も今のは撮影でしょ? 演技に決まってるじゃない。貴女もそれくらいわかっていると思ったけど」


「そ、そんな……」

 

 ローズは、絶望的な表情を浮かべて口元を手で押さえながら崩れ落ちた。

 幸せオーラは何処へやら。ローズを中心に、不のオーラが広がってゆく。邪念の宿ったバラがみるみるうちに巻き付くような、奈落の舞台へと変貌してしまった。

 

「リリー様の前で、無様な真似を晒さないで頂戴。反省なさい」

 

 カーネーションが投げた言葉は冷たかった。崩れ落ちた者を冷酷な視線で見下す。その表情は、とてもおどろおどろしいもので、何処か怒りを抑えているような様相だった。

 今まで優しい表情を見せていたのは演技で、リリーのやりたい事に不本意ながら合わせていただけだった。声をかけたら爆発しそうな雰囲気を見せている。

 カーネーションは深呼吸をした。深呼吸の意味は気持ちを切り替える為。親愛なるリリーの元へ戻る為に。


 この一変した状況で一人怒りに震える女がいた。その女はピンクのポニーテールを揺らしながら力強く踏み込んで、カーネーションの肩に手をかけた。カーネーションは条件反射で振り返る。その振り向き様の油断した顔に、ポニーテールの女は強烈なビンタを喰らわせた。カーネーションは反撃しようとしたが、ポニーテールの女は相手の攻撃を左手でガードして更にもう一度強烈なビンタをお見舞いした。

 

「一発目は、十代の頃の私の分! 二発目は、ローズの分だ! ……人の気持ちを何だと思ってるんだっ! 人の気持ちを弄ぶなっ!」


 カーネーションの美しい顔は赤く腫れた。痛みで頬を押さえる。そして、ポニーテールの女をギロリと睨んだ。


「アァ、ナァ、タァ、ダレッ!?」


「……!?」


 憤怒の形相に、ポニーテールの女は怯んでしまった。

 怯んだ理由はそれだけではない。

 ビンタした相手が自分の事を覚えていない。それは予想外の反応だった。

 いわゆる、やられた奴は覚えていても、やった奴は覚えていない現象である。

 ポニーテールの女はそれ以上踏み込めなかった。アイドル時代のストーキングに対する怒りをぶつけた瞬間は見事に自我を失っていた。だが我に返るのも早かった。髪型を変えたから気付かれなかったのかという他愛もない疑問は一瞬で、そこからはLGBTで炎上した記憶が蘇っていった。

 ラストライブでファッションレズであった事を改めて謝罪したにも関わらず、レズビアンの女をぶってしまったのだ。

 今の状況が映像として保存され、拡散されたらどうなるのか。

 ポニーテールの女は膨らむ想像に恐怖し、おののいてしまっていた。

 

「姉さん……ビリーヴ姉さん!」 


 ローズは最後の力を振り絞り、カーネーションを呼び止めた。聞きなれない名前と「姉」という発言。 

 ポニーテールの女も「姉さん?」と困惑し、周囲のガヤも騒ぎたった。

 そんな状況はどこ吹く風で、カーネーションはリリーに対して「ローズは置いて行きましょう」と提案する。それを聞いたリリーはため息を吐いた。


「ヴィーナ社長……暫くローズを預けます」

 

 リリーはらしくない表情を浮かべながら、カーネーションと共に姿を消した。

 LLLから見放されたローズは項垂れて地面に顔を擦りつけた。泣き声を押し殺しても漏れる声。告白に失敗したローズは全ての力を失った。

 

 その一部始終を見ていたヴィーナは、ゆきひとの手を振り払ってローズの方へと駆けて行く。そして子供をあやすように慰めた。

 その結果、ゆきひとの告白も空振りに終わってしまった。

 告白した男はポツンとその場に立たされる。状況がまるで理解出来ない。何故リリーがヴィーナにローズを預ける展開になるのか。何故ヴィーナがローズを慰めているのか。何もかもがわからない。

 

 男はただただ立ち尽くすしかなかった。

 

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