101 KEY PHRASE SCENE
「皆、アタシ頑張るねっ!」
ローズはバトラーズ・エンジェル達相手に意気込み、自分の世界に入っていた。
その奮起にバトラーズ・エンジェル達は「頑張って!」と応援して返す。撮影スタッフのゆきひとも、心の中でローズを応援していた。
全員が一丸となっている。
個々それぞれの内なる思いや方向性は違うのかもしれないが、ラストシーンに向けて、不思議と全員の意識がまとまっていた。演劇のマジックなのか、何なのか。この撮影に関わった人達は魔法にかけられていた。
噴水の水がチロチロと流れる傍で、ローズは静かに待った。メイクはナチュラルでシンプルに、服装はダークカラーのラメニットにワンピースとブーツ。とてもスタイリッシュで隠された素の美しさに一同の視線が集まった。
そんな主演を中心に円を描いて人の輪が出来ていた。
パステル、フリーシア、セラの三人は、ローズと少し離れた場所で見守り、その舞台にゆきひとがカメラを向けている。その新人カメラマンの補助にマーティン。その傍に監督を装ってカチンコを手に持ったテュルー。観客はメイク担当のアンサリーに、演技指導のヴィオラ。クレイは警備のアンドロイドに交じってラストシーンに注目していた。
主演のピリピリとした緊張感と厳戒態勢による重厚感。
今までの撮影とは雰囲気がまるで違う。
重苦しい空気の中、カーネーションが精霊の様にゆったりと現れた。服装はホワイトカラーのニットに、ワインレッドのカラーパンツでまとめている。普段見せていた氷の魔女のような冷たい表情はなく、天女のような暖かさを魅せた。
ゆきひとはカーネーションにカメラを向ける。ローズの方に歩いて行くカーネーション。その背後から、リリーとヴィーナも歩いてくる。ヴィーナはリリーに手を繋がれて相変わらずの人質状態だった。
ローズは胸に手を当てる。自分に向かって来るカーネーションに対して、緊張しているようだ。
そしてローズとカーネーションは向かい合う。
「カーネーション……アタシは……ずっと貴女のことが好きでした。アタシと一緒になって下さい!」
ストレートな言葉だった。
ローズの緊張感が周囲に広がる。
カメラマンの手を汗で滲ませるほどに。
どう返してくるのか、目が離せない状況だった。
間もなく告白を受けたカーネーションは、微笑んでローズを抱きしめた。
「わたくしも同じ気持ちよ。……勇気を出してくれてありがとう。……一緒になりましょう」
そこからは、少し目を背けてしまいそうな、熱い重なり合いがあった。
ドキドキしてしまうようなラブストーリーのワンシーンだった。それを見たバトラーズ・エンジェルの次女と三女は「キャー」と言ってはしゃいでいた。それはまるで、野次馬のJK達の様に青春の甘酸っぱさを絞らせていた。
ローズとカーネーションが離れる。
「カーネーション……アタシ嬉しい」
ローズは涙して喜んだ。
その主演の涙から、今までの苦悩から解放されたという感情が伝わって来る。思わずもらい泣きしてしまいそうな、感極まるシーンだった。
ホッとするような空気が流れ、その場は開放感で溢れ広がってゆく。
それも束の間、リリーはヴィーナをカメラの目の前まで突き飛ばした。
「二人が幸せになったんならしょうがない! ヴィーナ社長は返してやるよ!」
「何よそれ……」
パステルは突っ込まずにはいられなかった。
主演とカメラの間に立たされたヴィーナは、「あはは……」と言いながら、カメラに向かって手を振った。ファーストシーンと同じく苦笑いを浮かべて。
「カァァァット!!」
テュルー監督のよく通る声が響き渡る。
映画撮影終了の合図だ。
ゆきひとはカメラを下して手荷物をマーティンに渡した。もう意識は別の方向を向いている。次は自分の番だと。
目の前にはホッした表情を浮かべているヴィーナがいた。そんなヴィーナを、ゆきひとは思いっきり抱きしめた。
「ヴィーナ! ……良かった。ホントに良かった」
「ゆきひとさん? ご、ごめんなさい。私達のことに巻き込んでしまって……」
「私達?」
ゆきひとはノイズの入ったフレーズを聞いて、ヴィーナの肩を掴んで少し距離をとった。だが瞬間的な疑問より、気持ちを伝えたいという感情が勝っている。
告白は今しかない。
男の野生の勘がそう告げていた。肩を掴む力が強くなる。
もうこの気持ちは止められないのだ。
「いや……今はそんなことはどうでもいい。……ヴィーナ、俺と結婚してくれ!」