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『包丁一本片手に持って』

初投稿となります、よろしくお願いいたします。



「何か食べたい」


 机に突っ伏して喋る弟の声を聞きながら、私はテレビのリモコンを操作していた。


 時刻は夕方。普通の家庭ならご飯を用意し始めるだろうが、正直面倒臭くて動きにもなれないのが現状だった。


「姉ちゃん、ねー早く作ってよー」


「んー……作る作る」


 ソファーに座っている所を横から揺らしてくる弟に適当な返事をする私。


「早くしないとお腹空いて死んじゃうよー」


「はいはい……」


「ねーーちゃんーーー」


「……あー、わかったわかったから揺らすな」


 うだうだ言いながら私の肩を揺らす弟にしびれを切らし立ち上がる。


「適当なので良いでしょ? ちょっと買い物行ってくるから待ってろ」


「カレー!」


「……へいへい」


 両親から預かっていたお金を適当にポケットに詰めながら私は出かける準備をする。私の住んでいる場所はコンビニすら1km圏内に見当たらない様な田舎町なので、どうせ今のジャージ姿で出かけようが人とすれ違う事など無い。


 財布にお金を詰めながら、近くの商店までならこの格好でいいや、と思いつつ玄関へと向かう。


「鍵開けたままだから気をつけとけー!」


 玄関から聞こえる様に大声で言うと、はーいと遠くから聞こえる。まぁどうせ、こんな家に誰か来る訳でもなし、余り心配する事も無いのだが。


 扉を出るともう既に夕日は沈みかかっている。そろそろ夕方も短くなってきたと思いながら私は近くの商店へ向かうのだった。







「ただいまー」


 意外と色々な物を買ってしまい、帰ってくる時には辺りは電灯の明かりしかなく、家の電気も付いていなかった。


 返答も無いし、もしかしたら弟は寝てしまっているのかもしれない。


「……カレー出来たら起こすか」


 待たせてしまった手前、わざわざ起こして手伝えとも言えないので、私は買い物袋を持ったまま台所へ向かう。


 しかし、それにしても暗い。夕方にすぐ寝た訳でも無いのに明かりもつけていないとは。


「……」


 何となく、静かな家が不気味に感じた。両親は隣町の会合に出ているので明後日まで帰らないし、正直こんな辺鄙な田舎で姉弟二人でも問題ないとは思っていたのだが。


 もしかして、泥棒?いやそんなはずは無い……と思いたいのだが。


「おーい……」


 買い物袋を台所に置き、弟が居るであろう居間へと向かう。あり得ない話とは思いながらも自衛の手段として、とりあえず台所にあった包丁を手に持ちゆっくりと歩く。


 居間の扉に手をかけ少し開けて中を覗くと、どうやらテレビはついているらしい。音は聞こえないが少しだけ光が漏れていた。


 そのテレビの前には弟が横になっている姿が見える。


「……はぁ、やっぱり何にも無いじゃないか」


 無駄に緊張していた私はため息を吐いて、弟の近くへと向かう。こんな所で寝ていては少し冷えて来た今風邪を引いてしまうので、近くのソファに寝かせタオルケットをかける。


 抱き起こしても起きなかった弟を見てクスリと笑いながら、付けっぱなしだったテレビを消そうと後ろを振り返るとその瞬間



ザザッ……



「うん?」


 テレビの画面が少し揺れた、というかまだ8時ぐらいだと言うのに画面にはカラーバーが映っており何か妙だ。


 そう思っていたらまた何かが聞こえてくる。



ザザ……の……ら……



「何だ……これ……」



 画面はどんどんと揺れ、既にそのグニャグニャした色は意味不明な模様を作り出している。


 惚けていた私は、とりあえずリモコンで画面を消そうとするが反応が無い。


「どうなってるんだコレは……!?」



ザ……えの……ら………らうぞ



 変な音は続き画面はグルグルと回っている。段々とノイズに混じった音が、繰り返すたびに綺麗に聞こえてくる。



……お…えの……らだ……もらうぞ



「どうなって……」


 私がテレビに近づいて電源を切ろうとして近づいた瞬間。


「っ!?」


 私の頭はふっと意識を失いかけた……いや、それだけではない。身体が何処かに持っていかれる様な感覚すらもあった。

 

 その直前、私はテレビに何か人の様な物が映っているのだけを確認した。その人物は、こう呟いた。



……おまえのからだを……もらうぞ



 消えかかる意識の中、私は手に持ったままの包丁を握りしめテレビを見据える。身体を貰う? 冗談じゃない。どういうドッキリなのか、それとも変な番組なのか知らないが私を私以外の人間に好きにさせる訳が無い。


「ふざ……るな……っよ!」


 最後の力を振り絞り、私は目の前の画面に向かい包丁を刺そうとする。しかしその時、私の意識は完全にフェードアウトした。


 

 暗闇の中、誰かの声が聞こえた。私を呼ぶ声なのか、関係の無い声なのか、今の私には考える事すらできなかった。







「聖王、アルディーン・クラウンがここに宣誓しよう! 必ずやこの国を平和と繁栄の続く国へと導く事を!」


 部屋の最奥にある玉座の前で一人の男がそう叫ぶと、その何十何百とも居るであろう部屋の中の人間から大きな歓声が上がる。


「今日、この日から、我らエルストの民。全てに祝福が有らんことを!」


 続く言葉で歓声と拍手が鳴り止まなかった。多くの民や臣下を眺め、アルディーン王は静かに玉座へと戻る。


「王、素晴らしい演説でございました」


「ヴィンセント……」


「さぞや亡き先王も成長した貴方様の姿を見れば、とてもお喜びになる事でしょう」


「……私の姿等ではなく、これからの国の生末をきっと父と母は喜んでくれるさ」


 隣に立ち呟いたお付きの召使いに対し、アルディーンは静かに返答した。


 多くの民や、兵士、その他近隣の者等がこのエルスト王国の城に集まったのは他でも無い、このアルディーンが王位を継ぐ日だからである。既に多くの者は、周りの人間と会話をしながらこのパーティーを楽しんでいる。


「アルディーン様、是非こちらに来ていただいた方達への挨拶もお願いいたします」


「解っている」


「では、まず一人目をお呼び致しますので少々お待ちを」


 王のお付きである執事長のヴィンセントはうやうやしく頭を下げると、その場を離れた。改めてアルディーンはこのパーティーに集まった人間を見渡す。


「素晴らしい……ここに集まった民、そして国に住む全ての民が幸せとなる様。私も努力しなければ」


 呟きながらも王の顔はとても嬉しそうだった。この様に祝われる事はそうある事では無いからだ。


 しかしそんな王の目の前へと、突然光が射した。


「っ!? アルディーン様!」


「なんだっこれは……」


 咄嗟に周りの兵士が王の元へと向かおうとする、アルディーンも驚きながらそれを見据えるしかない。





 光は一瞬で消え、そこには。


「……は?」




 ジャージ姿のまま、包丁を王の元に構えたまま、怪訝な顔をする女性が立っていた。



 ヒイラギ・ユウリ、16歳。季節は冬に入ろうとしている時期の出来事だった。

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