モブでも王族です
初投稿作品です。
乙女ゲームネタでちょっと思い付いたものを書きました。
私はどうも乙女ゲームの世界に転生したらしいのです。
だけど該当するキャラを知っているだけで私自身の名前は聞き覚えが無いのです。攻略対象である王子様のはとこ、というなんとも設定外の存在、つまりモブという事です。
あ、今更ですが私はアストライアと申します。マウリス王国の財務相エンディ公爵の長女です。兄と弟がおりますが攻略対象ではありません。
先々代の王子が臣下に降りて我が家を興したので兄は公子殿下、私は公女殿下と呼ばれている末端とは言え王位継承権を持つ王族です。
私が転生者である事を知っているのは両親と兄、執事長のゼルマンと侍女長のエスタだけです。前世が庶民だったせいか人に仕えられるのが苦手でフォローが不可欠だったのですよ。
未だに人に命令することは苦手なので、お願いという気分でいます。エスタには威厳をと注意されますので、表情だけは頑張ってキリッとさせています。
…余り言いたくありませんが平民か下級貴族に生まれていたかったです。とにかく覚える事が多くて。
例えば、礼儀作法も目上の方と家格が上の方に対しては違うとか、ウチは上には王家ぐらいしかありませんのでまだマシでしょうが細かい配慮が必要で教本の分厚さとそれをマルッと覚えなくてはいけない事にはほんっとーに辟易しました。
乙女ゲーム『魔法学園ウルティア』はWヒロイン制で好きな方を選んで遊べます。可愛い系の正統派男爵令嬢とライバルの綺麗系お嬢様侯爵令嬢のどちらかでゲームを開始します。
一番成果を出した学科や魔法属性で攻略対象の好感度アップで各種イベントが発生する王道のシステムでノーマルエンドは賢者や大司教、宮廷魔導師等のステータスの一番高かった職業エンドと友情エンド、攻略キャラエンドはヒロイン双方でのフレンドエンド、恋愛エンドがありました。
2周目で隠しキャラが攻略可能で、ファンディスクで結婚式までの甘さ倍増しルートという、手堅いゲームで続編が出るほどではありませんがそこそこの人気だったと思います。
さて、今現在…
私は件の王立ウルティア学園に新入生として入学したのですがいきなり遭遇してしまいました。可愛い系ヒロインことレイン男爵令嬢アリアさんと綺麗系ヒロインことトレノ侯爵令嬢ロージアさん選ばなかった時のヒロイン名ですね。
「…そこは貴女の様な下級貴族の座る席ではありませんのよ。他の皆様はご存知ですからあちらのお席にいらっしゃるのですわ」
「ですが校則では身分は学園内では問われないと…」
なんというか、さっさと席に着いて頂かないと他の生徒に迷惑ですわね。めんどくさい、あらやだ本音が。
このような全校生徒の前で目立ちたくはないのですけれどね。
「開会まで時間が無限ではありません。席などどうでも宜しいではありませんか。」
私の言葉に彼女らだけでなく他の生徒もふりかえる。
「貴女、どなたですの?私をトリノ侯爵令嬢と知っているのかしら?」
周りがざわめいた。私を知らないなんて、この方も周りガン無視のヒロイン至上主義の転生者なのかしら?
社交界では貴族の名前と顔を覚えなければやっていけませんから貴族年鑑で調べてサロンや夜会で顔をたたき込まされます。通常の学問や作法等より重要なのですわ。
社交界デビューが学園卒業後の18歳の私達なので夜会には出られませんが、貴族夫人達が主催する昼間のお茶会は令嬢、令息達の顔合わせでいわゆる派閥にとりまき…ゲホゴホ、友達や側近を作らせるのも目的の一つなのです。現にトリノ侯爵令嬢の後ろに令嬢が三人ほどおります。私の後ろにも何人か友人がおります。まあ幾人か友人以外も混じっているのですけれどね。
その混ぜ者が私の事を無視してトリノ侯爵令嬢を怒鳴りつけた。
「貴女こそこちらの方をエンディ公爵家のアストライア公女殿下と知っているのか!」
彼女らが驚いた様子の無い事で少し呆れましたが…
そんな事はどうでも良いのです。
「貴女達がそこでお話をなさるのは結構ですわ。けれど私達がずっと立たされたままなのは貴女達が通路を塞いでいるせいですのよ?新入生が着席出来ずに入学式が出来るのかしら?私達だけでなく先輩方や先生方、列席者にもどのように見られているか、いい加減にお気付きになってはいかがですの?」
そこでやっと周りの目に気付いた様子です。困り顔ならまだ良い方です。明らかに怒りや呆れを含んだ冷たい視線に二人とも慌てた様に近くの席に着いて俯いた。
謝罪も無いなんて本当に呆れてしまうわ。漸く私達もそれぞれに席を見つけて座っていきます。
「トリノ侯爵令嬢にレイン男爵令嬢でしたわね?」
親友のマスティア・シャルネ侯爵令嬢が呟くのに、溜め息で応えた。あんなもので終わらないのよ、攻略キャラを挟めばね。
すぐに2人は有名になりました。入学式での争いが序の口だった事も周囲に知れ渡りました。
「この状況で侯爵や男爵が出てこない事が不思議ですわね。明らかに令嬢としての資質に欠けています。」
「…マスティア、いい加減諦めなさい。仲裁して恨まれるのは割に合わなくてよ?」
男爵令嬢が攻略対象にしたのは第二王子殿下の様でしたから余計に侯爵令嬢の下級貴族にあるまじきとエキサイティングした結果の対立は凄まじいものです。
「先日、王妃殿下のお茶会に行った時は酷かったわ。男爵令嬢を殿下がお呼びになるとは思わなくて…」
アリア嬢は第二王子殿下の心を順調に絡めとっている様ですが、周囲が許さないなんて思わないのでしょうね。殿下の傍らに侍る為に授業すらサボりますので成績が悪いだけでなく教師の心証も悪くて評価は最低です。学園では初めての留年を覚悟しなくてはいけないレベルです。
またロージア嬢はアリア嬢に対してだけなのですが苛烈な態度ですので男子生徒にその、余り良い印象は与えていません。王子殿下のいない時に限ってですから、殿下の前でのしとやかな姿が尚更嘘臭くて貴婦人や令夫人としての未来図が見えてこないのです。殿下がアリア嬢を選べばフレンドエンドなら修道院ですけれど恋愛エンドなら侯爵家より勘当の国外追放になってしまいます。お助けしたい気持ちは有りますが、アリア嬢の前では冷静さや淑女らしさが吹っ飛ぶ様子で…
恥ずかしながら恐ろしくて口を挟めずにおります。
どうしてこうなったのかしら?
「なんであんたが選ばれるのよ。ヒロインはアタシよ!」
そのようにおっしゃられても。
「貴女はただのモブじゃないの!どうしてなのよ!」
ですから私におっしゃられても。
先日、国王陛下より勅使が我が家に参られて、私が第二王子殿下の婚約者に内定いたしました。
アリア嬢には『王位継承権を剥奪して男爵家に養子に出す』と国王陛下が殿下に最後通牒を突きつけたそうです。学園初の留年生徒に王族は無理なので殿下が平民になれと言ったところでしょうか。
すかさず野心溢れるトリノ侯爵が持ち出した縁談は『気に入らない人間には所構わず令嬢らしからぬ態度や言動をなさる方を王族に迎えるのは…』と王妃殿下の強硬な反対で潰えた。
まあ、仕方ないですけれどね。お二方は周りを無視し過ぎでしたもの。
婚約者となったはとこ、第二王子メルクリウス殿下に問いかける。
「殿下は私で宜しいのですか?アリア嬢はお気に入りでしたのに」
「ウ~ン。僕はちゃんと彼女らの夢の王子様役はこなしたしゲームじゃないなら別の女性を選びたかった」
えーと殿下、もしかして貴方も?
FIN