仮面を外したセイギカン
今回少し短めです。
あと、ちょっと文章が崩れています。
一瞬、この静かな森がさらに時すらも止まってしまう程の冷気に包まれた。
レグルスは大きく動揺し、ライの体の主導権を手放すと、ライの心中の奥底へ入ってしまった。
ライは、レグルスのこの反応を見て、さらに驚いた様子で目を見開く。そして、再度、分からせるように言う。
「君は―――人間の、子供なんだよ。」
「正確に言うと君という「形」は子供なんだよ。でも、君という「存在」は動物の化身なんだ。簡単に言うと、存在の君は幽霊で、形の君は人の子ということだよ。」
「ん?」
レグルスはライの言っていることが分からず、思わず声が漏れる。それを尻目にライは続ける。
「つまりはね、君は神に認められ、この世に戻ってくることを許された。そして、実態を持たない状態でこの世界に戻って来た君は、その日たまたま亡くなった子供の魂が抜けた体に、知らぬ間に入ってしまい、自覚がないまま俺の前に現れたってわけだ。」
驚くべき真実、知る由もない真実、あってはならない真実。にも関わらず、レグルスは一切反応せず、動こうとしない。というよりも、逆に、驚きすぎて反応が出来ないのかもしれない。まあ、どちらにせよ、さっきまで人間を滅ぼすとか何とかほざいてた自称「動物の化身」様が、受け止めるべき真実を受け止めようとせず、耳塞いで、頭抱えて、受け付け拒否している姿を見ていると、まぁ、なんと無様で弱々しいことか。
ライは心の中で大きくため息なる息を長々と吐いた。そしてそっと目を右手で覆い隠すと優しい声で言った。
「大丈夫だよ。君がやろうとしていることは誰も邪魔しない、できないんだから。僕が守るんだ。君は自由にやればいい。だって、間違ってはいないんだから。この理不尽で、不条理で、傲慢な奴らばっかりの腐った世界を「終わらせよう」。僕は君の為なら武器にも盾にもなってやる。邪魔になったら消してもらっても構わない。気に入らないのなら裏切っても良い。だから、絶対に――――」
叶えて
最後は口に出さず、心の中で願った。
その願いは、レグルスの心にちゃんと届いていた。だから、レグルスは優しく反対の手で目を覆い隠していた手を外すと、口を開く。
「君の人生を任せられる程、僕は強くないし、頼れない。でも、僕は欲張りだから、仲間を守りたいし、願いも叶えたい。そして、僕の願望は人類を滅亡させること。それは、とても難しく、成し遂げるのが困難なことだ。当然、生きて帰れる可能性は少ない。だから、僕は君の体を出来る限り傷つけないようにしたい。だが、その「限りなく」は少なくとも全身の打撲、粉砕骨折は免れない状態で、下手をしたら、一生目を覚ますことが出来なくなるかもしれない。もしかしたら、腕や、足が使えなくなるかもしれないんだ。それは、分かっているのか?」
これでもか!という重い言葉を放ったレグルスの心は、痛く、寂しそうに震えていた。でもその鼓動は、孤独は、仲間など必要ないという心の証明ではない。ただ、一挑戦者としての、道ずれを防ぎたい一心の言葉なのだ。その心を、気遣いを知ったライは一瞬の間を置いてから口を開く。
「そんなの、覚悟か決まってなけりゃ言わないよ、ふつう。でもね、俺だって別に死にたくて誘ってほしいって言っているわけじゃないんだよ。そりゃあそうさ。だって、言い方が悪いかもしれないけど、死にたいなら、人に頼らず、人に迷惑をかけないで、一人で勝手に死ねばいいってもんでしょう?でも、それは無意味なんだ。だから、遺書を残したりと、未来を良い方向へ変えようと最後まで足掻き、信頼する人にそれを託す。それが「自らを殺して事を証明する」自殺だ。でも、そんなことをする意味が俺にはないからね。まぁ、シホを殺された恨みなら、晴らせるかもしれないけれど、ね?でーああ、何を話してたんだっけ?」
ライは一瞬考える仕草をした後、パッと顔を明るくして「そうだ!」と声を出すと、「そうだったそうだった」と言葉をつないで、
「俺がお前と共闘して俺が結果的に死ぬっていう話だったね~。」
「僕そんな軽く話した覚えないんだけど!?」
「いやいや、俺には結構明るめに聞こえたんだけどなぁ。」
「茶化すな!―――――これは!そんな簡単な、話じゃないんだ!」
「簡単な話さ!だってこれは、僕の命に関することで、僕は君に!命を預けているんだから!」
何故か、一瞬明るくなりかけた二人の空気だったが、明らかに元よりもさらに暗くなった。ただ、沈みかけたレグルスの心は、少し明るさを取り戻したように息を吹き返した。
するとレグルスは諦めたように軽くため息を吐き、声を出した。
「はぁ~。もう、いいや。どうにでもなれ!終わって、死んで、憎んで、恨んで、呪いたくったって僕はぜ~ったいに受け入れてやらないからね!そんな、一人で寂しく悲しい思いを持って今後の人生を歩みたいっていうのなら僕についてくればいい。嫌なら――――うん、心中って形になっちゃうかもね?」
「何怖いことサラッと言ってくれちゃってんの!?まぁ、別にそんな後付けな言葉で揺らぐほど、俺の心はコンニャクみたいに弱くないんだけど。」
「コンニャクなめんな!あの柔らかそうで全然崩れない芯の強さと言ったら、ねぇ!もう人間じゃ真似できないね!」
「まぁ、コンニャク作ったのは人間なんだけどね。」
「え、そうな―――――おほん。話がずれたが、取り敢えず、だが。付いてくる心は変わらないのだな?」
レグルスは再度問う。するとライは瞳に希望を感じる光を宿らせると、レグルスに一言。
「叶えられると思ったから俺は頼った。だから叶えろ。全力で、やり切るまでどんなことをしてでも精一杯足掻け!」
レグルスは目を見開いて驚いた。
まさか、こんなに僕を、僕たちを信じ、頼り、命を預けてくれる存在がいるなんて
と。
瞬間、レグルスは重大な決断を下す―――――――――――――――――
「じゃあ、僕と、僕たちと、一緒に神の理をぶち壊そう。そうして、新たな世界への革新の一歩を踏み出そう。」
「だ~か~ら~、さっきからそう言ってるでしょ?ていうかさぁ、もういっそ世界終わらせられないかね?」
「な、何を言って!そんなことをしたら罪のない動物たちも死んでしまうじゃないか!」
「じゃあ、罪のない人間が居たとしたらお前人間を殺すことは愚か、滅ぼすことなんて夢のまた夢のまた夢って感じだぞ?」
「くっ!ニンゲンは!放っておけば必ず良からぬことを考え始める!だから、たとえどんなに優しく、適度な距離を保ってくれるニンゲンが居たとしても、一人残らず地獄の鍋に放り込んでやらなければいけないんだ!それが唯一の解決策で唯一の改善策だ!これは絶対だ!」
「じゃあ、僕も殺すんだね?」
「ああ。当然だ。」
またしても、レグルスの表情は影を作り出すように曇った。ライもその曇りを吹き飛ばすほどの気力は無く、二人の間にまたしても、亀裂が生まれてしまった。
でも、レグルスは揺るがず、前だけを見据えて言う。
「嫌なら言ってくれ。出来るだけ出会うまでの時間稼ぎをするから。」
「何を言うか。そ~んな甘い脅しの様な言葉にこの俺がくじけると思うなよ!殺される?知ったもんか!俺だって人間に恨みがあるんだ。だから、俺は一人人間撲滅運動を進めようとしていたお前と手を組みたいと思ったんだ!」
声を上げたライはひどく動揺したように瞳に宿る光を震わせていた。しかし、落ち込んでしまったレグルスは、そんな孤独な瞳から伝わる隠しきれない動揺をすくい取ることが出来ず、ただ一点を見つめている。
数秒して、先に声を発したのは、ライだった。
「あ、あのさ、俺も人間を憎んでいるって言ったけど、それは、いわば人間的差別を見据えたものでさ。あ、なんでかって言うと、その差別、偏見の対象が俺の祖母キズキ・シホだったからでさ。俺的にはそれが、俺じゃなく、俺の家族がそうみられるってのが凄い嫌でさ。それが、長く続いたからその分憎たらしさが膨れ上がってな。そしたら、いつの間にかニンゲンってのが大嫌いになってて、そしたら次は心の最後のストッパーだったシホを自称人間撲滅機に倒されちゃってさぁ、もうほんっと俺の人生山なし谷ありって感じ。だから!新たな人生への第一歩としてこれからは、正義の真逆の事をしたいなぁ~って。人々の嬉しそうな笑顔を壊して紅く染める。それが今の俺のファーストミッションなんだ。」
ライの段々と見えてきた狂気的な裏の顔を知ったレグルスはライの瞳に宿る光が真の希望なのか偽りの光なのかと疑った。
が、その瞬間―――――――――――
ライはレグルスの疑う視線に気づいた瞬間、レグルスに向かって、絶望でも希望でも幸楽でも孤独でもない、ただ一つ、笑顔を奪うことだけを見つめた、ぎこちなく、不気味で、狂気的な笑みを浮かべた。
直後、レグルスの背筋には感じたことも無い、闇より深い嫌な寒気が走った。
何かおかしなことがあれば気楽にどうぞよろしく。