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獣達は人を恨んで地に堕ちる。  作者: minikurage
一章疑う勇気
2/7

騒がしい朝

危機を乗り越えたライは片手で頭を支える形で不安の感情を表していた。


「この調子じゃ目的を果たすのに一体何年掛かるか分からないな。」


「う~ん」と唸り声を上げる。そこでグルッと部屋を見渡してみる。するとそこに一つ。気になる物があった。机の上にあった日記だ。表紙にはキズキ・ライと書いてくる。


「どんな事書いてるのかな?」


ライはニヤリと笑みを浮かべながらその日記を手に取り、読み始める。雑な字がずらずらと書かれている。


「この年でこの字の下手さはまずいだろ。」


てか、どうやったらこんな下手に書くことが出来るんだ?

それが日記を読んだライの初めての感想だった。次々と捲られていくライという存在を示すページ。パラパラパラパラという音だけが部屋に響く。と、


「おっと、人の名前が出てきたねぇ。目的を果たすのに必要だろうから、一応覚えておこうかね。え~と、なになに~ケイン君、リゲル君、アスピディスケ君、カストル君、ボルックス君、プレアデスちゃん、ジェミニちゃんかぁ。結構時間かかりそうだねぇ、でも、この姿を見れば誰でも騙されて隙が生まれる。それを僕はじっくりと殺していく、絶望する顔を見るために。ああ、楽しみ。皆の恨み、必ず晴らしてあげるからね。」


憎き人間に報いを――――――――

目を閉じ何かに希望を与えるように囁くライ。一拍置いてから再び日記に目を向け、読み始める。


「あぅ、やっぱり読みにくいなぁ。これを僕も真似しなければならないとはなんと恥ずかしい。でもその分、もらえる情報も多いから良いか。」


不安交じりのため息を吐くライ。それと共に部屋の壁に取り付けられていた時計の秒針の音が一つ。


カチッ


それに反応したライは時計の短針を見る。八時になる直前だった。

あの人――日記にはおばさんって書かれていた人に言われた場所に行かないと


「そろそろ朝練に行かなきゃだな。」


そう言うと日記を閉じて机に置き、部屋を出た。するとそこには長い廊下と複数の扉があり、洞窟の分かれ道の様な景色が広がっていた。ライは頭を掻いて大きく深呼吸をしてから、


「さぁ~て、どこが食事場所なのかな?」


頭をカクッと下に向け、「う~ん」と唸り声を上げる。と、同時に一番手前にあった扉が目に入る。扉の中央にはガラスが入っており、そこからオレンジの光が漏れ出ている。おまけに声まで聞こえてきている。


「恐らくそれだろうね。外れだったら復讐やめて素直に成仏するわ。」


いや、マジで。

そう言ってゆっくりとドアノブに手をかける。そして勢いよくドアを―――――――――開けられた。


「おっそーい!」

「うぎゃあ!」


勢いよく開けられたドアがライの顔面に当たってゴン!という音が響くとともに、待ち兼ねたシホの叫びが重なる。ライは思ったより痛かった額の傷を涙目になりながらさする。一方シホはライが居たことに気が付いてビックリしていた。


「ご、ごめん!気付かなくてドア勢いよく開けちゃって。痛かったよね。ホントごめん!」


祖母が若々しいく心配そうな声で言ってくる。ライは安心させるように、「大丈夫大丈夫!」と涙を押し込んで元気に声を出す。すると今度は、


「あ、ああ、ライが、ライが大人になったあぁぁぁぁ!」


ピキッと何かにヒビが入る音がした気がした。瞬間、


「おばさん、おばさんは引き裂かれるのと――――――」

「おばさん~?」


ライが天罰を直接下そうとした瞬間、シホが「おばさん」に反応して、分かりやすく怒りを露わにしながらライの腕を目に見えない速度で取り、得意の関節技で関節を外そうとライの腕をあり得ない方向に曲げようとする。


するとまあ、当然、


「いたたたたた!痛い!痛いよ!?」


関節が外れそうで外れない痛みに泣き叫ぶライ。それを愉快愉快と笑い見下すシホ。なんだか微妙な空気が流れる。これでも彼女は村一、大陸一の格闘家で、本気になれば常人を二秒で瞬殺できる程の実力を持っている。その為、彼女とすれ違う者たちはどんな者でも動きを止める。キズキ・シホとは、それほど恐ろしい存在なのだ。だから皆彼女がこの村にいることを誇りに思っている。それと共に、恨んでいる。「そんな恐ろしい存在がいるのに、安心して過ごせるか。」そんな言葉が流れるようになってきたからだ。


その話はシホにも当然伝わった。シホは色々と考えた。この村は祖先たちが守り抜いた村だということ。このまま生きていれば、村の人々に迷惑が掛かるということ。人類とは実に「傲慢」であるということ。




色々と、考えた。




色々と考えて、たどり着いたのが、この村に居続けるという事。そうすれば、村人たちの苦しむ顔をずっと拝めるのと、村を守り続ける事も出来て、一石二鳥だからだ。その結果、村に近づいてきた魔物は当たり前のように壁の外で愉快に染みになり、村人たちはシホを恨むどころか、英雄と言うまでに褒め称えていた。


だから今この様なバケモノが潜んだ生き物でも泣き叫ぶ痛々しい状況を生み出しているのだ。


と、


「痛い、痛いって!聞いてる?ねえ、ねえってば!」


再度、ライの苦痛の叫び声が頭に響く。そしてハッと意識をライの方へ向けるとなんとライの腕が見事にシホの得意な関節技にかかっているではないか。シホは状況うを整理してから手をパッと離すと、


「あ、ごめんなさい?」


と言ってテヘペロッとふざけ交じりのごめんなさいアピールをする。するとライは素直に言ってしまう。


「年取ったおばあちゃんがやってると思うと引くな。」


するとシホはさらっと受け流してから、


「なぁ~に言ってんのよ、早く準備しなさい。私は「着替えてから」って言ったのよ。寝巻きで来なさいなんて言ってないわよ。」

「あら?」


予想していた答えが返ってこず、ライは不思議そうに首を傾げた後、指摘された通り服を確認する。


薄青色の半袖に灰色の半ズボン とても寝やすそうな服装だ


一拍置いてシホが、


「ね?」


と馬鹿にするように言ってくる。ライは腹立たしくため息を漏らしながらも、自分の部屋へと戻るため、回れ右をして元来た道を歩いていく。それを見てうんうんと頷くシホ。


「着替えろつったってどこに服があるのか分かんないのにどうしろと。ん?そういえば、あんなこと言っていたおばさんも僕と同じような服を着ていたような。」


気になったライはピタッと足を止めて再度回れ右をしてシホの服装を確認する。すると、思った通り。シホの服装も、ライと同じようなとても外に来ていく服ではないものを着ていた。ライは呆れた様にシホを睨み、こう言うのだった。


「むう、馬鹿に馬鹿って言われた気分だな。このまま行ってもしゃくだし、一応突っ込んどくか。」


そう言ってシホとの間合いを詰めるライ。シホは近づいてくるライに恐怖を感じ、ゆっくりと後ろへ逃げる。が、走るという考えに至る前に、ライが獲物を捕まえ、不気味な笑みを浮かべてそっと囁く。


「ルナクナラマトガイラワ」


シホは一瞬、頭が真っ白になったが、次の瞬間、


「あはははははははははは!ははは!あは!あは!あはははは!ちょ、な、、なに、ふふふ!したぁ!」

「え?笑いが止まらなくなる呪文だけど?」


シホは、床に崩れ落ち、笑い始めた。何が起こったのか分からない、苦し紛れのシホの問いにライは当然の様に言う。静かなキズキの家に笑い声が盛大に響く。二、三十秒したところで、シホの顔に異変が起こり始めた。息が苦しくなって、顔が青くなったのだ。さすがにこれはとライが焦りながらも、呪文を解く。


「昇は龍 降は狐」


瞬間、シホの笑いがピタッと止まり、今まで笑っていた顔が鬼の形相に早変わりする。そして、ライを神をも目を背ける程の目で睨みつける。ライはそうなる事を予想してすでに、回れ右をして、部屋に戻ろうとしていた。が、もちろんそんなのを見逃すはずがなく、シホは先程のライ同様、獲物を捕まえるが如く、その体を―――――――なぎ倒す。


「い!?ちょ、ま――――――」

「またなぁいわよぉぉ?」


逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ――――――


口を大きく横に開き、まるで食事をするかのように、飛び掛かるシホ。ライは両腕を固定され、足をジタバタさせてどうにか逃げようとしている。でも、最強で最凶の前には無意味。シホはライの目をジッと見つめ、ニヤリと笑うとサッと手を放し、ライを立たせて、


「これが、勇者様の強さってやつよ?」


上から目線で言ってきながら、部屋へ誘導するシホ。ライはホッとして素直に部屋へ向かう。ゆっくりと、ゆっくりと。


二、三歩、ライが歩いたところで、ライはシホの声が聞こえないことに気付いて後ろを振り――――向けなかった。何故なら、振り返ろうとした瞬間にシホの声と共に、ライの顔面に蹴りが入ったからだ。


「仕返しじゃあぁい!」

「ゴヘッ!」


ライは壁に勢いよく頭を叩きつけられ、思わず声が出る。シホはしてやったりとフン!と鼻を鳴らす。ライは頭を片手で抑えながらも、シホの調子乗った顔を睨みつけ、「くそがぁ」と小さく呟く。が、調子乗ってるシホさんは火に油を注ぐ様に、


「あれあれぇ?まさかこんなんでギブアップしちゃう?しちゃうのぉ?勇者の孫のクセにダッサ~い。」

「地味に親の問題突っ込んで来ないでくれるかな?それに、僕はおば――あなたを勇者だと思ったことは無いよ?」


シホは一瞬固まってから、「あっそ。」と言って受け流した。ライは深くため息を吐いた後、再び部屋へと向かう。なんだか身を守るかのように歩いているのが不思議なのか、シホは首を傾げて、


「もう、何もしないわよ?」


その言葉を聞いてライは体をビクッとさせて反応した。恐らく、それが怖かったのだろう。三回目が怖いというのもあるが、主な理由は、予想以上のダメージ。さっき食らったシホの蹴りが異常なまでに痛かったのだろう。


だから、怯えながら歩いていたのだ。だが、それを知られたくないライは必死に隠そうと、足掻く。


「ち、違うよ!こ、これは……」

「これは~~~??」


それをドМなシホさんは堂々と挑発する。挑発されたライは「うぐっ」と言って足を止める。そして、わざとらしくため息をついて、振り返ると


「勇者様が、怖かったんですよ~だ!」


シホを馬鹿にするようにキッと歯を剥き出しにしてイーッと子供っぽく威嚇する。


「―――」


シホはさっきの様な悪戯っ子の雰囲気から一変して、何かに怯えるようにブルブルと震えていた。でも、すぐに元に戻り、またニカッと笑い、心配するライの顔を軽くつねって、


「いちいち立ち止まってないで、早く準備しな!じゃないと練習に遅れるよ?ホラ、早く!」


クルッと半回転させて、ポンッと軽く背中を押す。ライはオドオドしながらも、部屋へと足を進める。


ライが部屋に入ったのを確認すると、


「―――――勇者、か。」


下を向き、先程と同じようにブルブルと震えている。「勇者」それが、その言葉が原因だ。キズキ・シホ。彼女は最凶というあだ名ともう一つ。「過去の勇者」という名がある。過去の勇者――その名前の意味とは。彼女が震える程の過去とは―――――


次回は

「レグルスのレはレモンのレ」です。よろしくお願いします。

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