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第二話「謎の戦神現る」・その4

紅紅茶郎は挑戦部部員の到着を心待ちにしながら、コーヒー党副総裁・マンデリーンが一人で切り盛りする露店スタイルのコーヒーショップの様子を陰で見張っていた。一杯十円のコーヒーではあるが、実際に飲んだ生徒の感想を聞くに、「今まで体験したことのないかぐわしい香りと芳醇な味わい」だそうで、行列が途切れないのも至極当然といった感じである。


(厄介だな。コーヒーの安売り自体は悪いことでも何でもないから、もしコーヒー党がずっとその路線を行くならば、俺達は、戦いを挑む大義名分を失ってしまう)

 そう考えた時、紅茶郎の脳裏にピンと閃くものがあった。


(もしかして、それが奴らの本当の狙いか?──まずは暴力を止め、挑戦隊との戦闘を極力なくして、穏やかな手法で静かに勢力を拡大していく。そして、挑戦隊単独の力ではどうにもならないくらい世の中に浸透しきってから、突如としてコーヒー党はお茶関連のあらゆるものを叩き潰しに動く、と)

 実に合理的だ、と紅茶郎は素直にそう思った。


(ずっと静かなままということはないな。コーヒー党の最終目的が、この世の全ての飲料をコーヒー一色で塗り潰すことである以上は。となると、こっちも陰から地道に妨害活動をしなければならんのか。面倒だな。──マンデリーンめ。どうにかして、悪党の本性を引きずり出してやりたい)

 マンデリーンは目まぐるしく動き回り、メカ怪人らしい正確な動きと疲れ知らずのボディで、てきぱきと客を捌いている。ひっきりなしに客が来るにも関わらず、行列の長さが常に一定以下に保たれているのは、マンデリーンの能力の高さゆえだ。多過ぎる客にてんてこ舞いしているように紅茶郎の目に映ったのは、ゆるキャラ風に扮装したマンデリーンの姿にギャップがあったための錯覚である。今のマンデリーンは、咆哮する獅子を想起させる威圧感のある顔から、満面の笑みを浮かべたライオンを思わせる親しみやすい顔に変わっていた。


「百円をお預かりします。九十円のお返しです。コップが熱くなっておりますのでお気をつけください。クリームと砂糖はセルフサービスとなっております。ありがとうございました。またお越しくださいませ」

 言葉遣いはどことなく機械的だが愛想のいい接客である。


 紅茶郎は危機感を覚えずにはいられなかった。挑戦隊の仲間が到着しても店じまいするまでは攻撃を仕掛けられない。その間、コーヒー党のコーヒーのファンが増加してしまうのを、手をこまねいて見ているしかないのである。意を決して彼は、学園当局に通報することにした。

(どうせ無許可営業だ。学園は黙っちゃいまい)


 だが、電話に出た職員の回答は実に意外なものだった。

「あ、あのカフェですね。理事長の許可は得てます」

「理事長の?」

 紅茶郎は愕然とした。

 学園の理事長である千宗者にも、コーヒー党の話は孫娘の宗華を通じて当然伝わっている。だから紅茶郎には、裏表千家の家元が怪しい露店カフェを許可するわけがない、という思い込みがあったのだ。


「生徒の笑顏と幸せのためなら、多少のことには目をつぶるとのことです。今回のケースではコーヒーを僅か十円で販売したことが、評価されたんでしょうね」


(くっ、なまじ理事長が人格者なばっかりに……)

 紅茶郎は唇を噛んだ。


(くそ、こうなったら……)


 行列の最後尾に紅茶郎は並んだ。彼がレッドダージリンであることは、既にコーヒー党には知られている。敢えて自らマンデリーンに姿を見せることで、向こうが勝手に警戒して店を畳んでくれないかという、淡い期待があった。


 行列は進んでいく。紅茶郎の後ろにも大勢の生徒が並んだ。マンデリーンのスムーズな作業と接客によって、待ち時間はそう気にならない。あと三人で紅茶郎の番というところで、マンデリーンが彼を一瞥した。

(気付かれた。──さあ、どう反応する?)


 突如。

 マンデリーンの形相が獰猛な獅子の顔に一変した。一瞬の早業でコンロの火を消し、コーヒーショップの看板を下ろすと、露店から飛び出して荒々しく吠える。並んでコーヒーを待っていた生徒たちは、マンデリーンの突然の変貌に恐怖を覚え、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 後に残ったのは紅茶郎とマンデリーンだけである。


「これはいったい?」

 予想外の出来事に、紅茶郎は戸惑いを禁じ得なかった。


「グハハハハ。飛んで火に入る夏の虫。レッドダージリンよ。まんまと陽動作戦に引っ掛かったな」

マンデリーンが高笑いとともに勝ち誇る。


「陽動作戦だと?」

 紅茶郎は呆然と立ち尽くした。


「驚いたか。全ては貴様らをおびき出すための罠だったのだ」

「罠! マジか! 罠でいいんだな、本当に。頼むから後で撤回するなよ」

 身を震わせながら紅茶郎が叫ぶと、マンデリーンが怪訝そうな表情をした。


「どういう意味だ?」

「いやあ、助かったよ。良かった。コーヒー党が悪の組織らしい作戦で来てくれて本当に良かった。ありがとうありがとう」

 最悪のシナリオを回避してほっと安堵の息をついた紅茶郎が、笑顏でマンデリーンに感謝する。


「何が『ありがとう』だ。恐怖で頭がおかしくなったか、レッドダージリン!」

「別にどこもおかしくなっちゃいないさ。特に恐怖もない」

「何ぃ」

「コーヒーショップを開くとは随分回りくどいことをしたな。俺達を招き寄せたかったら、ただ普通に暴れるだけで充分だったのに」

「馬鹿め! してやったり感が違うわ!」

「そうか。俺には、してやられた感などないんだが。むしろ踊り出したい気分だ」

「五人でさえ、我に歯が立たぬのに、一人でどうやって立ち向かうつもりだ?」

「まずは、変身といこうか。──レッツ・チャレンジ! レッドダージリン!」

 閃光に包まれて紅茶郎がチャレンジスーツを装着する。勝ち目のない戦いに挑むようには見えない堂々たる立ち姿だった。


「マンデリーン! お前に挑戦だ」

「貴様ごときにその資格があるかな」

「俺一人で挑戦するとは一言も言っていないぞ。──見ろ!」

 売店の陰から挑戦隊の残る四人がいきなり姿を現した。会話の間に現場に到着した四人は、既にチャレンジスーツ姿に変わっている。


「おお。勢揃いしていたのか。全員をおびき寄せる手間が省けたわ」

「その過信が命取りだ。周りに他の生徒がいなくなった今、貴様を倒すのに何の迷いもない。行くぞ!」

 レッドダージリンの叫びとともに、挑戦隊全員が一斉にマンデリーンに挑み掛かる。それを軽くあしらいつつ、マンデリーンが自慢の超小型ミサイルランチャーを展開しようとした。


 だが。

 突如としてマンデリーンの動きが止まる。そして、挑戦隊の動きを押しとどめるように、腕を前に伸ばした。


「待て。五人全員おびき出せたはいいが、よく考えたらここでの大規模戦闘はまずい。そこの売店は下らぬ茶も売っているが、缶コーヒーも扱っている。貴様らの粗末な必殺技の巻き添えにするわけにはいかん。学園の近くの空き地に行こう」

「は? こんなしょぼい売店、ぶっ潰れたって俺は一向に構わねえ」

 と、ブラックウーロンは反射的に返したが、結局みんなでなだめすかして、ぞろそろと空き地へむかうことになった。


 到着した先は、何か巨大な建物の建築予定地で、草と土しかないだだっ広い土地である。

「さあ、戦闘再開といこう。──おお、そういえば貴様らは高い所に登らぬと、必殺技の威力が弱まるのだったな。ハンデとしてそちらに先制攻撃の機会を与えてやろうと思うが、どうだ?」

 マンデリーンが余裕たっぷりのところを見せる。レッドダージリンとしても申し出に乗らない手はない。

「そのチャンスありがたくいただこう。──よし、みんな、スーパーチャレンジアタックだ!」


「結局、マンネリの極致のそれしかないのかよ。玉郎、対策とやらの準備はできてるんだろうな」

「うーん。どうでしょうか。まあ、駄目で元々。試しにやってみましょう」

 ブラックウーロンの問いに、グリーンリョクチャははなはだ心許ない答えを返した。



 二秒後。スーパーチャレンジアタック・火の玉の内部。

グリーンリョクチャ 「今回は、技名の前に誰も自分の名前を叫びませんでしたね」


レッドダージリン  「功を焦って、結果、技が失敗すれば、却って自分の名折れになるからな」


ブラックウーロン  「おい。奴に技が完全にかわされたらどうなるんだ?」


グリーンリョクチャ 「どうなるとは?」


ブラックウーロン  「今までは技が失敗してもどこかしら相手のボディを掠めていて、技の威力を相殺できていただろ。ところが今回は既に破られた技の使い回しだ。掠りもしない可能性が充分にある」


グリーンリョクチャ 「ありますね。そうなったら全員顔面から着地です」


イエローカモミール 「そんな。顔は女の命なのに」


ピンクハイビスカス 「せめて足から着地はできませんか」


グリーンリョクチャ 「そうですね。やってみましょうか」



 〇・五秒後。

 マンデリーンはすっかり余裕を失っていた。

(火の玉の軌道が我の計算と食い違っている。これはもしや通常の渦巻き回転に縦の変化が加わったためか。このままでは火の玉をかわしきれぬかもしれん。──どうする?)

「ならば、ミサイルランチャーで弾き飛ばすまで!」


 即座にマンデリーンが最強兵器の発射態勢に入る。

 その時だった。


「お待ちなさい!」

 空き地に鋭い声が響き渡った。


「誰だっ!」

 思わずマンデリーンが振り返る。そこにいたのはチャレンジスーツによく似たシルエットの虹色の戦士。


「わたしの名は『挑戦神ラインズマン』」

 けばけばしいカラフルなスーツに身を包んだ戦士は、落ち着いた声でそう名乗った。どうやら『挑戦』と『戦神』と『線審』を懸けてあるらしい。


「ラインズマンだと?」

「コーヒー党副総裁・マンデリーンよ。わたしの必殺技を受けてみるがいい」

「必殺技? 馬鹿めが。一人の技が我に通用するものか」

 マンデリーンがミサイルランチャーをラインズマンに向ける。


「馬鹿はそちらだ。受けるがいい、神の裁きを! 『ラインズマン・スーパーチャレンジアタック落とし』!」

 ラインズマンが叫ぶと同時に、天空から急降下してきた巨大な火の玉がマンデリーンに直撃した。


続く

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