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第二話「謎の戦神現る」・その2

 鴨見季彩は緑玉郎に向かって、ムッとした表情でこう言った。

「緑先輩! わたしは、びすかに大事なことを忠告しようとしてるんですから、勝手に入り込んできて、茶化さないでください!」

「茶化す? 僕は心の底からのお茶好きですから、お茶と化せるものなら化したいと思っていますが、さすがに僕の科学力でもそれは無理ですね」

 玉郎が肩をすくめる。


「それ、冗談にしても笑えませんよ」

「当然です。言った僕ですら笑っていませんから。ほら、真顔でしょう」

 玉郎は眼鏡の奥の細い目から鋭い光を放ちつつ、口をへの字に結んでみせた。


「う……。確かに……」

 季彩が呆れた顔をしたその時。


「あらー」

 蚊帳の外になった桃高びすかがスマートフォンの画面に目を移した途端、思わずそんな声を漏らしたのである。


「どうしました。桃高さん」

 常人の百倍の聴力(本人談)を誇る玉郎が、季彩との会話を放り出して訊ねた。


「あ、別に大したことはないです。季彩に怒られた時、うっかり画面を閉じちゃっただけで。まあ、面白そうなニュースだったんですけど」

「何だ。そんなことか、くだらん。履歴から飛べよ」

 黒烏龍が横から訳知り顔で口を出してくる。


「ブラウザを終了したら、閲覧履歴諸々みんな消しちゃう設定なんですよ」

「そ、そうか……」

 龍はそれっきり押し黙った。元々スマホには詳しくなく、たまたま自分でも解決できそうな状況が聞こえてきたため、嬉しくなってしゃしゃり出てきただけだったのである。


「で、どんなニュースだったんですか? 見出しの一部でも教えていただければ、僕が全部お教えしますよ」

 玉郎が自信ありげに言う。彼は普段から、見たり聞いたりしたあらゆるニュースを、一定期間全て記憶するようにしていた。


「ええとね。おしっこで発電する発電所がたくさん……できるんだっけか? できたんだっけか? ──とにかくそんなニュースです」

 玉郎の顔色が一瞬にして変わる。


「本当ですか、それ。初耳ですよ」

「へえ、緑先輩でも知らないことあるんですね」

「ちょっと待っててください」

 玉郎は学生服のポケットから自分のスマートフォンを取り出し、猛烈な勢いで操作し始めた。


 三十秒後。

「桃高さん。それって、フェイクニュースじゃないですか? 今ざっと検索してみましたが、どこにも一切情報が上がっていません。そもそも尿で発電なんて効率が悪過ぎます」

 玉郎がそう結論付けた。それに対してびすかは……。


「見たのは普通のニュースサイトだったはずです。発電効率は、太陽電池の数倍以上。資源を必要としない上、温室効果ガスの発生もなく、実用性と将来性は充分という話でした」

「太陽電池の数倍……!」

 玉蝋は身を震わせて唸った。


「──これは難しい」

「天才の緑先輩でも困難ですか?」

「ええ。確かに尿を集める手間とコストを考えると、よほど発電効率を高めないと実用化は困難です。パッと思い付いたのは、海水と淡水の浸透圧の差を利用した浸透膜発電の原理ですが、海水をわざわざ尿に置き換えるメリットは皆無。あとは……うーん。超高所から尿を落とし、水車を回して発電しますか」

「それも、わざわざおしっこを使う意味がないですね」

 びすかが的確に急所を衝く。


「そうなんですよ」

 玉郎は苦笑いをした。


「なるほど。天下の緑玉郎大先生もお手上げか。最近、難しいとかできないとかいう台詞がホント多くなったな。以前は全知全能の神にも見えたもんだが」

 龍がニヤニヤしながら玉郎にキツい言葉を吐く。この二人は話をするたびに、からかったりからかわれたりが日常茶飯事になっており、遠慮会釈などは全くない。

 玉郎は、眉を顰めて立ち上がるとこう言い放った。


「では、僕のプライドに賭けて、実用型尿力発電機を開発してみせましょう。三日待ってください。何とか試作品を作って持ってきますから」

 そして、すぐさま早足で部室を出て行こうとする。


 その時だった。

「諸君! 緊急事態だ!」

 修行に出ているはずの紅紅茶郎の声が部室内に響き渡り、玉郎は足を止めた。ひとりでに部室のテレビモニターのスイッチが入り、紅茶郎の上半身が映し出される。


「おや、紅さん、どうしました?」

「おお、玉郎。知恵を貸してくれ。メカ怪人が出現した。コーヒー党副総裁・マンデリーンだ!」


続く 



 余談だが、三日後、緑玉郎は尿を使った画期的な発電装置のモデルをきっちり制作してきた。尿と紅茶を絶妙な分量で配合した液体に、特定の周波数の電磁波をこれまた絶妙な強さで照射することで生じる常温核融合を利用した発電機であり、とてつもない発電効率を誇るものだ。

 しかも、すばらしいことに放射能は一切発生しないのである。──「紅茶尿」はあるけれど。


 そして一月後、衝撃的な事実が判明した。

 桃高びすかがネットのニュースで見たと言っていた「おしっこで発電する発電所」というのは、やはり彼女の勘違いだったのだ。

 その発電所の正確な名称は……。

「小水力発電所」!

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