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第一話「コーヒー党襲来」・その3

 コーヒー党首領・キリマンジャロの襲来から一か月後。

 対コーヒー党用戦闘装備である「チャレンジスーツ」が完成した。玉郎がいつも着ている戦闘学生服をヒーローっぽいデザインに手直ししただけだったため、かなり短い開発期間で済んだようだ。これを着装することで、誰でも通常の百倍の力(玉郎のみ強化服の重ね着がプラスに働き、通常の千二百倍の力)で戦うことができる。


 普段は茶筒の形をしたカプセル「チャニスター」に小さく分解されて収納されているが、着装者の「レッツ・チャレンジ」の掛け声で一瞬にしてスーツ化し、装着される仕組みだ。スーツは着装者の個性と能力に合わせてカスタマイズされており、それぞれが別々のコードネームを持つ。紅紅茶郎のスーツは「レッドダージリン」、黒烏龍は「ブラックウーロン」、緑玉郎は「グリーンリョクチャ」、鴨見季彩は「イエローカモミール」、桃高ぴすかは「ピンクハイビスカス」だ。 


 そして、チャレンジスーツを身にまとった挑戦部の五人が、コーヒー党の魔の手からお茶やハーブティーを守る戦士として力を合わせた姿──それこそが「挑戦隊チャレンジャー」である。



「いやあ、めでたいめでたい。早速お祝いしよう」

 頭のおめでたい挑戦部部長の一言で、ティーパーティーが急遽行われることになった。

 会場は学園内のイングリッシュガーデン。

 千宗華も来賓として招かれている。着物姿の時とはうって変わって、真っ直ぐな黒髪を肩の位置で揃えた清楚感たっぷりの制服姿だ。


「紅茶もたまにはいいもんだわね」

 ベイクドチーズケーキをフォークで小さく切りながら宗華が言った。ご満悦の表情だ。ただ、上品で優雅な佇まいとは裏腹に、口調からは多少のきかん気が垣間見える。

「あんた、ケーキが喉に詰まりそうな時しか飲んでないじゃないか」

 隣にいた紅茶郎が皮肉を言う。


「それが、たまに飲んでるってことなのよ」

「まったく、せっかくいい紅茶を取り寄せたっていうのに」

「ロンネフェルトのアッサムマンガラムでしょ。淹れ方も見事だわ」

「あんた、わかるのか?」

「嗜み程度には。紅君も、普段はがさつでどうしようもないけど、紅茶にかける情熱は本物のようね」


「ケーキの味はどうですか?」

 季彩がやってきて訊ねた。テーブルにある紅茶以外の飲食物は全て季彩の手作りである。


「普通ね」

「あ……そうですか」

 季彩が残念そうな顔で立ち去ろうとすると、宗華がこう付け加えた。

「あたしがいつも食べてる有名店のケーキと同等のレベルだわ。普通に売り物になるわよ」

 季彩の顔が瞬時にほころんだ。


「よかったじゃん。店を出す時は一声掛けてね」

 どこで会話を聞いていたのか、びすかが駆け寄ってきた。彼女は登山の費用の捻出に常々頭を悩ませており、お金になりそうな話のあるところには必ず食いついてくる。


「どうしようかな。作ったそばから全部タダで食べ尽くされそうだし、遠慮しておこうかな」

「そんなことしないわよ。季彩のケチンボ!」

「びすか。女の子が『ケチンボ』なんてはしたない言葉使っちゃ駄目よ」

「何よ。ケチンボのどこがはしたないのよ。ケチンボケチンボケチンボケチンボ」

「わー、謝るからやめて!」


 その時だった。

「皆さん気をつけて。そろそろ来ますよ」

 じっとスマートフォンの画面を凝視していた玉郎が小声で全員に注意を促した。彼だけはパーティーに参加せずに、周辺を見張る役目を担っていたのである。そう。全てはコーヒー党をおびき出すための陽動作戦だったのだ。


「あ、そうですね。メカ怪人の臭いが近づいてきます」

「どこからだ?」

 超人的な嗅覚を持つ季彩に龍が問いかける。


「地下です。凄いスピードですね。掘り進んでる感じじゃありません。トンネルがあるのかも……」


 それを聞いて紅茶郎の脳裏に閃くものがあった。

(このところ学園内ではコーヒー党のメカ怪人がたびたび出没し、売店や自動販売機などに相当の被害が出ている。しかし、俺達が駆けつけた時には姿を消していて、手がかりさえ掴ませない。──そうか。地下にトンネルが張り巡らされているなら可能だ。もしかして秘密基地なんかもあったりして)


 そして、その程度のことは天才である玉郎も当然思い付いていた。

(それにしても、テレビや新聞でコーヒー党の悪事が報じられたことは、まだ一度もありませんね。世界中のお茶を消し去ることが目的のはずなのに、現在コーヒー党の活動は、この学園内に限定されているようです。──なるほど。まだ全国展開できる規模ではないと。今はひたすら戦力を増強しつつ、学園という閉ざされた世界で、色々と今後に向けての実験を重ねている段階なのかもしれませんね)

 何の証拠もないが玉郎の思い付きは滅多に外れない。


 一方で、龍は何も考えていなかった。

「へへ! かかって来やがれ。俺が叩き潰してやるぜ!」


 宗華は、ティーカップとソーサーを手に持ったまま、玉郎が予め用意しておいた個人用核シェルターの中に悠々と避難していた。ただし、このシェルター、性能ははともかく、見た目は工事現場の仮設トイレそのままである。


 びすかはケーキをひたすら食べまくっている。それはもうガツガツと。

「びすか、何やってんの」

 季彩に咎められたぴすかはこう答えた。

「誰か、食べたり飲んだりしてないと、パーティーが終わったようだぞって、敵さん、帰っちゃうかもしれないでしょ」

「それは、そうだけど、あと三秒であなたの足元に来るわよ」

「え、もっと早く言ってよ!」

 慌ててびすかが跳びずさると、その前の地面に黒い穴がぽっかりと開き、そこから一体のメカ怪人が出現した。


「はーい、それまでそれまで。ティーパーティーはお開き。カフェタイムにしましょう」

 メカ怪人は、背負った迷彩柄のリュックサックからおもむろにポットと紙コップを取り出した。


 フランケンシュタインの怪物を想起させる不気味な顔。西洋甲冑風のボディにリュックサックとゴム長靴という出で立ち。この奇妙な風体のメカ怪人は、挑戦部が集めた情報によると、少なくとも過去に三回、学園内で悪さをしていた。その際に自ら「コーヒー党幹事長代行・コスタリーカ」と名乗っている。


 コスタリーカは薄気味悪い笑みを浮かべながらこう言った。

「さっき淹れたばっかりの香り高いコーヒーです。紅茶の何百倍もおいしいですよ。いかがですか? 要らないって言っても無理やり飲んでいただきますよ」


「要らない!」

 びすかがメカ怪人を睨む。

「絶対飲まないから。──あんた、コーヒー党のコスタリーカね」

「おや、驚いた。コーヒー党の存在ばかりか、あたくしの名前までもご存じのようで」

「あんたんとこの首領と因縁があってね。コーヒーは元々、嫌いじゃなかったんだけど、嫌いになったわ。あたし、押しつけがましいの大嫌い!」


「そうだそうだ」

 いつしか挑戦部は全員でコスタリーカを取り囲んでいた。

「ほう。どうやらあたくしともあろう者がまんまと罠に掛かってしまったみたいですね」

 キョロキョロと見回しながら、コスタリーカが言う。だがその口振りに、焦りの色は見られない。

「──ですが、人間風情が、あたくしをどうにかできるとお思いですかな」


「やってみるさ。挑戦隊初出撃だ。──行くぞ。レッツ、チャレンジ!」

「レッツ、チャレンジ!」


 紅茶郎の掛け声に合わせ、残る全員がチャニスターに音声コマンドを打ち込む。直ちに全てのチャニスターから煌めく光が迸り、挑戦部の一人一人を包み込んでいった。あまりの眩しさに、コスタリーカも思わず目を覆って後ずさる。その次の瞬間、チャレンジスーツの装着は完了し、正義は守らないがお茶は守る、けばけばしい五人の戦士が誕生した。

「あなた達、いったい何者ですか?」

 びっくりした様子でコスタリーカが問い掛ける。


「俺達は……」

 名乗りかけたブラックウーロンを遮り、レッドダージリンが飛び出してきた。

「お茶に命とお湯をかける五色の戦士。挑戦隊チャレンジャー! 素晴らしきお茶とお茶の文化は俺達がチャチャっと守り抜く!──レッドダージリン!」

「ブラックウーロン!」

「グリーンリョクチャ!」

「イエローカモミール!」

「ピンクハイビスカス!」

「コスタリーカ! お前に挑戦だ!」

 レッドダージリンが大見得を切った後、挑戦隊全員で決めポーズをとった。


続く

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