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第八話 グランド裏に咲く、人間が嫌いな者同士で。

グランド裏の花園、校舎からは一番離れたその場所は、草花が生い茂っている薄暗く人気のない光凛高校の隠れスポットであり、誰の手入れも加えられていないそこは、田舎町特有のジャングル状態になっていた。




「汚ねぇな.... だが、そこが良い」


そんな独り言を話す中、ここへ来るのは今学期になって初めてだったな? っと昔はよくここに来ていた懐かしさに耽っていた俺である。


そう、俺はここに来て未だに人の姿を見たことがなかった。

ここは俺だけの居場所、俺だけの秘密の花園....




....のはずだったが、それも今日までの話だった。


「.......?」




今日のグランド裏の花園、珍しくそこには人影があった。

その人影の容姿は、後ろ姿から見て小柄で長い黒髪、スカートを履いていたことから遠くから見ても明らかに女子生徒であることは確かだった。


彼女は、大きなバケツの中にスコップや花に与えるであろう肥料や薬など入れており、花壇の生えていた雑草を抜いては、まだ苗の状態である花にジョウロで水をあげていた。

学生が昼休みに、しかも一人で花に水をやるためだけにここに来る彼女は、端から見てもきっと変わっている性格なのだろう。




「.......」


俺はとりあえず、そんな彼女を無視して一人、グランド裏に置かれていた壊れかけのベンチに腰をかける。

きっと彼女から見ても俺のようにグランド裏に来る生徒の存在を珍しく思っているに違いないと想像していたが...



「.........」



彼女側は、無反応であった。

俺の存在には、気づいていないのか?

彼女との距離はほんの数メートル、ただ只管ひたすら、入念に雑草を抜き取るだけの彼女の姿に、俺は少しだけ関心していた。 もちろん、不純な意味ではなく。




「.....」


「んんん」


グランド裏に来て暫くしてだ。彼女は作業を終えたのか、バケツを持ち上げここから去ろうとしていた。

バケツの中には大量の雑草とそれに紛れて土なども入っていたことから、遠くから見ていてもそれはきっと女子にとっては軽いものではないんだろうと思う。



「.....んんぅんんぅ」


「......」


「んんぅ..... はぁ〜はぁ〜」



なんか、こう言うのは見ていて和むものなんだな。 .......うん、悪くない。


普段から家では、姉貴にこき使われ働き詰めにあってる毎日、そんな俺にとって、こう誰かが只管ひたすら物事を前向きに頑張る姿をその場で何もせず、普段の姉貴のようにベンチの上で寛ぎながら眺めているだけというのは、案外、とても気分がいいものだった....


なるほど、姉貴が普段から俺に一切手を貸さない理由がよくわかった。





「.......」


「んぅんんぅ」



「......うん、悪くない」



「.......」


「........」


「目の前で女子が困っているのにも関わらず何もしない。 あなた、中々に良い性格の持ち主ですね」


「......」


「......」


「俺に言ってるんですか?」


すると、やはり向こうの方から俺に話しかけてきた。 彼女は明らかに重そうな態度をとり、後ろのベンチに腰掛ける俺にアピールをしていたのは分かりきっていた。


....そんな見え透いた小芝居がこの俺に通用すると思ったのか?



「ここには、あなたと私しかいません。 私がグランド裏の誰もいない場所で独り言を話す変わった性格の持ち主でない限り、私が話し掛けている相手はあなたです」


「.......」




彼女が明らかに俺の方をチラ見していたことは俺も気づいていた。

まぁ普通の人間にならば気づくことはないだろうが今日は相手が悪かった。


しかし、俺には彼女のことを知る必要があった。

昼休みという学生にとっては貴重な時間にわざわざ、校舎から離れたここに来ている理由、手に持つバケツにジョウロ、彼女は一人、そして考えつく答えは一つだった。彼女はきっと....




「(ーーーぼっちだ。)園芸部か?」




「それ以外、何に見えるんですか?」


「いや、それにしか見えない」



最近、俺には部活動のパンフレットを見る機会があった。

その部活リストの園芸部の欄には、確か部員数が三十人ほどいるのを見て、明らかに園芸部にしては多い部員数だと思っていたんだが....



どうやら、そのほとんどが場しのぎの幽霊部員ってか。



「あんた一人か?  園芸部ってそれなりの人数がいた部活だと思ってたんだが?」


「確かにうちの部にはそれなりの人数がいたと思いますが、私はその人たちと会ったこともないですし、私以外の方がここに来て花の手入れしていたことは見たことはないです」



なるほど、つまり実質部員は彼女一人ということか....


ーーー俺は、この女子生徒が可哀想に見えた。


なぜなら、俺には、わかるからだ。

彼女は俺と同じく明らかにクラスに馴染めていないジャンルの生徒であることが、まぁ彼女も仕方なく園芸部に所属して、嫌々、こんな遠くのグランド裏まで来て誰も手入れをしない花に水をやっている質素な学園生活を送らされているのに違いな....



まぁ、そんなことはどうでもいい。



「なるほど、それ、持ちましょうか? 」



「お構いなく、自分で持てます」



....んだよ。

珍しく友好的な態度をとる俺だが、それも無駄なこと。

しかし、彼女はそのバケツを持ち上げるも...



「........んぅ」


一歩も前に進めないでいた。


「はぁはぁはぁはぁ」


何度も試みるが一向に彼女は前に進むことが出来ずにいた。

.....焼を切らした俺は嫌々彼女に呼び掛ける。


「持ちますよ、何処に持ってくんですか?」


「.........校舎裏のごみ捨て場です」



そう聞くと俺は彼女の手からバケツを預かった。


まぁバケツの方は軽いものではなかったが、か弱い女子生徒にとってこれは相当なものなんだろうと俺自身、暇だったわけで仕方なくやっていることなんだと自分に言い聞かせながらごみ捨て場に向かうことにした。



「意外に力持ちなんですね」


「....そこまで重くないですよ」


「意外にいい人ですね」


「.........ども」


「...................あなた、名前は?」


「俺は、会ったばかりの他人に自分のことは話さない。後々面倒なことになったら困るからな」


「......そう」



っと、彼女は、悲しそうに少ししょぼくれた態度を俺に見せる。

...........演技だな。



乙寺おとじ


「....」


乙寺おとじ 未紗みさ、私の名前」


「.....変わった名前だな」


「よく言われる..... あなた、何年生?」


「黙秘権を行使する。 さっきも言った通り俺は他人に自分のことは」


「他人ではない、あなたには私の名前を話した。あなたは私のことを知っている。だから」


すると、彼女はバケツ持つ俺の前に立ち塞がりこう言った。


「私たちは、他人ではない」


「.....いや、他人ですよ」


俺は、そんな彼女を無視しようと彼女を避けて通ろうと思うが、その彼女も瞬時に俺の前に立ち阻んでくる....

彼女もまた意外と頑固な性格だった。


....面倒くさい、二度と関わらないとそう決心した。



「....二年だ」


「二年生、一個下なのね」


「一個下って、まさかあんた三年か?」


「そうよ。 見ての通り私は今年で三年生」


俺の前に立つ彼女は、三年にしては小柄な方の体型であった。

言うなれば、チビとも言えるほどにだ......


「今失礼なことを思いましたね、後輩君」


「ん、後輩君はやめろ」


「それしか君に関する情報がない」


「んく.... 稲柄だ」


「稲柄.... 下の名前は?」


「.......稲柄 正斗」


「稲柄 正斗、変わった名前」


「お互い様だな」



名前を話せばすんなり通してもらえた。

そもそも、あんたのために俺は.... もぅどうでもいいことだ。


....それから暫くしてのこと。



「私、花が好きなの」


「.....急になんですか?」


「二年生の頃には一つ上の先輩らが何人か居たんだけど、同級生は私一人だった」



いきなり、昔話をしてきた。

それを俺に話して何がしたいのやら.....



「三年になってからは、最近からだけど一人でグランド裏を手入れし始めているの」


「......大変ですね」


「でも、私、花が好きだから」


「それでもすごいと思いますよ」



.....変わった人だ、只々そう思った。

それから暫くしての漸く校舎裏のごみ捨て場に辿りついた。

校舎裏のゴミ捨て場には始めてきたが、そこではクラスやその他の場所で出されている、生ゴミやプラスチック、カンやペットボトルなどが多く溜まっており、全てきちんと分別されていた。



「ありがとう、助かった」


「.....どういたしまして」



今何時だろうな、そう思った瞬間のことだ。



「13:38よ」


「.....何ですかいきなり」


「時間を知りたそうな顔してた」


彼女は、やや背伸びをし可愛げに自分の手の甲につけた小さな腕時計を俺に見えるよう見せてくる。

やめろ、女子耐性の低い俺には、この行為は結構刺激的なことだった。


........いやいや、近い近い。


「...よく見てますね」



やはり、ぼっちは洞察力と観察眼に優れているのだろうと改めて思った。



「もう半過ぎですか、俺、そろそろ教室に戻ります」


「あなた、お昼はいつもあそこにいるの?」


「いいや、普段はよく教室にいますが、まぁ今日は暇だったんで」


「そう...... あなた、変わってる」


「あんたには言われたくない」


「貴方みたいな人は初めて」


「俺もあんたみたいな奴は初めてだ」


「お互い初めて同士ね」


「....言い方に気をつけて下さい」


「私何か悪いこと言った?」


「.....いや、別に」



すると、彼女は薄っすらと微笑みを浮かべ俺に語りかける。



「暇でしたら、また来てください。私はあの時間帯ならこれから毎日、雨の日以外は顔を出す予定ですから」


「何すか、俺って荷物持ちとしてはちょうど良かったんですか?」


「まぁそうね。私は小柄ですし力にも自信がないので男手があると助かるんです。それに....」



すると彼女は、強張らせた表情を俺に見せ...



「 私は人間が嫌い。 私自身も含め人間に対しては悪い感情しか抱けないのですが、不思議と今は何も感じていません。 あなたのことは人としてどうかと思いますが、同じジャンルの人間なのか悪い気はしないです」



「....それ褒め言葉のようにも聞こえますけど、つまり俺はあんたには人間として見て入られていないわけだ」


「ふふっそうかもしれしませんね。 私はあなたを人として接していなかったのかもしれません、だから、あなたも私のことは人として接しなくて構いません。 お互い初めての人間が嫌いな者同士、仲良くしましょう」



人間が嫌いな者同士か....



「お断りします」


「そう言うと思いました。 ですが、暇でしたらでいいんでまた来てください、私はあなたを歓迎します」



「........暇でしたらね」


「待っていますよ 後輩君」


「後輩君はやめてください、普通に稲柄でお願いします。」


「では、私のことは、気軽に乙寺先輩と呼んでもらって構わない」


「.....そうですね」


まぁ気が向いたらそう呼ぼうと、そう思えた。

でも、今はまだ....



「んじゃ。 ――― 園芸部の先輩さん」



そう言い捨てると俺は彼女を置いてごみ捨て場から去っていく。



『ガラララララララララ』


教室に戻ると時刻はもうすぐ五限目の授業が始まる頃だった。

俺は早く席に着き、次の授業の用意をしようと思ったその時、俺は机の上で起きていた一つの異常に気がつく。



「......手紙か?」


机の上に置かれていた一枚の封の閉じられていた手紙。

見た直後は俺宛の手紙ではないだろうと感じたがその招待状と書かれた手紙を手に取ると裏面には稲柄 正斗と、俺の名前がきっちりと書かれていた。



....誰からの手紙だ?



招待状っと書かれているからに、ラブレター....ではないよな、うん、そんなことは一ミリも期待していなかった。

本当のことだ、実際、俺は学内では先ほど初めて会った園芸部のやつが三人目で姉貴と姫稲以外の女子とは一切も会話を交わすことなく、相手にされてこなかった。


.....さすがに自意識過剰すぎる。


いちよ、俺宛の手紙であったのだから、俺自身が中身を確認しておくのが筋だ。

そして封を開け、中に入っていた手紙にはこう募られていた.....




−招待状−


『 稲柄 正斗 様へ


同士である稲柄正斗様、あなたを我々が主催するお茶会へ招待します。

放課後、東校舎裏広場にてお待ちしております。必ずご足労願います。


             自由同盟お茶会部 一同より。 』

  




......なんだ、宗教の勧誘か?

こんな手紙一つで俺がわざわざそこに出向くと思ってんのか?


全く、甘く見られたもんだな。

そして、俺がその読み終えた手紙をぐちゃぐちゃにし、ゴミ箱に捨てようとした時だった。


「.....ん?」



先ほどの用紙より少し小さめの用紙に書かれた手紙が一枚床に落ちた。

どうやら、封筒の中にはもう一枚の手紙が入れられていたようで、そのもう一枚の手紙には、この俺を動かすのには十分すぎるほどの内容で今後の学園生活を左右する重大的なことが書かれていた。



「......自由同盟お茶会部。 お前らは一体何者なんだ」











『PS: 我々は、貴様が稲柄郁音の弟であることを知っている。』








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