第七話 二年二組の日常、パート①
五月十一日の木曜日、その日の二年二組は、いつも通り賑やかで騒がしいクラスであった。
「....うっせぇな」
天気は快晴、清々しい今日の天気はそれはそれは絶好調なものであったが、俺の中には今も黒い暗雲が漂っていた。
昨日の一件以来、今朝は姉貴とは一言も話しておらず、朝食を用意するなり、それを自分の部屋に持って上がり俺と同じ空間には居たくなかったようだ。
姉貴問わず、女性の考える事はよくわからない。
ホームルームが終わり、一時限目の授業は英語、いつも通りの授業、変わらない風景、過ぎていく時間に.....
ーーー彼女は、遅れてやって来た。
『ガラララララッ』
鞄を肩に掛け、長く手入れのされていないボサボサの金髪に猫背な体勢、その容姿は俺と似て、やる気が感じられず、未だに眠気が取りきれていない様子かあくびを繰り返していた。
クラス中が静けさに包まれ、皆が彼女に注目していた。それはまるで、砂漠の真ん中に迷いんこんだ白鳥を見るかの如く。
「君は確か.... 琴越だね、今日は遅刻か?」
「ぁぁ〜 っぅん、そう...」
雑な態度、気の弱い英語の先生は特に彼女と関わることなく会話を終わらせた。
「.....」
「......遅刻か、姫稲?」
俺の後ろの席に座った彼女に、俺は振り向くことなく、彼女らに聞こえるか聞こえないか程度の小声で話しかける。
「だから、あんたが姫稲って.... いぁ、ちょっと寝坊、あぁ~~~あぁ.... っダル」
「またかよ、お前二年になってから遅刻多くねぇか?」
こいつは、琴越姫稲。
俺と姉貴の従妹で、成績は俺よりも上の学年五位、姉貴の従妹なだけあって、その容姿は少し姉貴に似ている部分があった。
姉貴と同じく、男子生徒からの人気は高く、反対に女子生徒からは人気がない。
まぁ、姫稲自身はそれについてはあまり気にしていない様子であったが....
ーーーなんだよ、姉貴の大量生産版?
アネキの似て非なるウザさがここにもあるんですか?
「.....そう? まぁ、正斗には関係ないでしょ」
関係がないかはわからないけど....
「関係なくはないだろ、いちよ、俺たち従妹なんだからさ」
「あぁ~ 確かそうだったわね。 ....忘れてた」
....ひどい。
「忘れんなよ」
「「.........」」
黙り込む姫稲、いつものように彼女は、窓越しに空の景色を眺め、俺によく見せるつまらなそうな表情を浮かべる。
「昨日のバイト、クソだるかった」
「まだ続けてたのかよ居酒屋のバイト、今回は長続きしてんな」
「あぁ、そっちの方は客と揉めて首になった、今は近くの知り合いがやってるラーメン屋に、はぁあ〜あ ....眠む」
「また首になったのかよ、お前今年になって何度目だよ」
「別に.....十回ぐらいでしょ? 普通じゃん」
「普通なのかよ」
......お前も大変なんだな。
琴越 姫稲、現在は俺の家の近くにある古びたアパートに俺の叔母にあたる姫稲の母親と二人暮らし、そして.....
「.....」
姫稲の父親は、姫稲が中学二年の頃、交通事故に遭い他界した。
叔母さんとは、何度か顔を合わせたことがあるが、俺の母さんの妹なだけあって、不器用でドジな性格から現在は母さんの紹介で母さんと同じ職場で働いている。 が、それなりに生活は苦しいそうで、姫稲自身は生活費の足しに校内では禁止されているバイトにも手を出していた。
中学二年のあの冬、そう言えばその頃だった。
姫稲がここまで人を拒絶する暴力的な性格になったのも....
彼女も昔は、もう少し温厚で穏やかな性格だったが。
それを知るものは校内では、従妹である俺と姉貴の二人ぐらいで態度の悪い暴力的なその性格から琴越 姫稲は周りの生徒たちから煙たがられているのは事実だった。
「あんたに心配される覚えはない」
「お前は相変わらずだな」
.....何だか安心した。
『キーンコーンカーンコーン』
そうこうしている内に一限目の授業が終わった。
ここから15分の休み時間の後に二限の古典が待っている。
「はぁーお姉様に会いたい」
突然、そんなことを呟いた姫稲。こいつの言っているお姉様とはご存知の通り俺の姉貴である稲柄郁音のことだ。
こいつと俺と姉貴は小学校からの長い付き合いで、長く姉貴と関わってきたことが影響で姫稲のやつは姉貴のことをお姉様と呼び..... 愛してやがる。
.....俺には理解できない。
「どうして正斗には、お姉様の魅力がわからないのかしら」
「........顔だろ?」
「はぁ!? ちょあんたもう一度言ってみなさい!
っと姫稲はいきなり感情を露わにし、俺の衿台を掴み後ろに引き寄せる。 こいつは姉貴のことになるといつも俺にムキになる、それも今では慣れたことだ。
「だから、顔だろ?」
「正斗あんた、さっきから何言ってんの? そんなんだからあんたは未だに学年十位のまんまなのよ」
「.......グぅ」
そう俺は、一年の初めの試験から今までずっと学年十位のままなのだ。
学年10位以上を狙っているとは言え、なぜ上がらん、そして、なぜ下がらん。
「なんだよ、顔じゃねぇのかよ」
「んなわけないじゃん! 廊下に居る男子共と同じにしないで、お姉様のあの魅力を私程度がうまく説明できるかわからないけれど、あの清く美しいオーラ、何者にも負けない強い心、正しく私にとって白馬の騎士様そのもの、はぁ~~ どうして私は女なんかに生まれてきたのかしら.... 男だったらお姉様と結婚できたのに」
「.....へ〜」
いいと思うぞ、お前と姉貴の相性は....
なんかこんな流れが前にもあったような気がする。
「そういうのはわからん」
「だからあんたは友達いないのよ」
「.....」
.....お前もだろうが。
てか、それは関係ないだろ。
そして俺は、ある話を姫稲から聞き出した。
「てかさぁ、姫稲、お前はどこの部活動に入部すんだよ」
そう....
俺と姉貴と姫稲は学年成績十位以上に入っているのにも関わらず、そのふざけた態度が原因で『TOP10制度』対象者であるのにも関わらず部活動への入部を余儀なくされていた。
まぁ俺に関しては自己中極まりない、ある教師の気分に振り回されての結果なんだが....
「私? .....私は、もちろんお姉様と同じ部活動に決まってんじゃん」
....やっぱりそうか。
「そういや、姉貴はどんな部活に入んだろうな」
「お姉様のことだから運動系の部活動になるんだろうけど、私はなるべく人の少ないところがいいな」
お前ら二人なら、どの部活に入っても即日でエース、レギュラー採用になるだろう。
それに実際に二人とも、今はどこの部活動にも所属してはいないがその運動神経は計り知れないもので現在は宝の持ち腐れ状態になっている。
『キーーンコーーンカーーンコーーン』
二時間目の始まり、教科は古典。
「......ダルっ」
時は流れ、長ったる強い昼休みの時間、ある者は鞄の中から弁当を出し、ある者は食堂や購買部へ向かう。
そんな中、俺は、今日も教室の片隅で一人寂しく昼飯を食っていた。
「.......」
今日の廊下は珍しく静かだった。
姫稲は、四限の授業が終わった瞬間、一人、教室から抜け出し、どこかに去っていった。
あいつ、最近は昼休みの間はずっといないな、姉貴の教室に言ってるのか?
唯一のぼっち仲間を失った俺は相変わらず今日も一人教室の片隅で昼飯を食うことになった。
「昨日、あの後家に帰ってからさ、久しぶりに体重計乗ってみたら一キロも増えてたし、マジ最悪、最近部活にも顔出してないからかな〜」
今日は珍しい連中が教室にいた。
彼女らは、教室の真ん中、一人の女子生徒を中心に取り囲むような配置で男女数人の塊で騒ぎ合っていた。
彼ら彼女らのような今時風なイケイケのグループがまさかこんな田舎町の高校にも存在していたとは....
田舎町だからといって侮れないと思った。
「アヤネは最近、だらけすぎなんだよ」
「ん〜〜コマチ〜助けてよ〜」
「さぁ、コマチいくら食べても太らないし」
「なんであんたは食べても太らないのよ!食べ方とかなんか食後の運動とか気を付けてるの?」
「別になんもしてないよ、ヤマトの言う通り最近アヤネはだらけすぎ」
「えっ~ 私そんなだらけてないよ.... たぶん」
「でも、アヤノん、モデルとか他にも色々バイト掛け持ちしてるんだし忙しいんじゃねぇの?」
「あんなの楽勝だよ、モデルのバイトとか週に一、二回顔出すだけでいいんだから」
「はははは。 あ、そう言や俺今日、部活休みで最近改装されたばっかの川沿いでジョギングする予定なんだけど、よかったらアヤノもどうだ? ダイエットするんなら一人でするよりも誰かとする方がいいだろ?」
....クールに話しかけてきた、その男。
その整った顔立ちは、まるでハーフを思い浮かばすかのようで、綺麗な茶髪に姿勢正しいその容姿はきっと女性という生き物に好まれやすそうな体型なんだろう。
「......っけ」
彼の名前は、大倉大和。
実力は知らないが男子サッカー部に所属しており、顔立ちは良く、周りの女子からの人気が凄まじい。
おまけに人付き合いも良く、男子生徒たちからも好まれていた。
....シンプルに死ねよと思うほどにだ。
「マジ? さすが大和超助かる!やっぱり困った時はヤマトだよ」
さっきからダイエットダイエット言っているのは、森咲 彩乃。周りからはよく『アヤノん』と呼ばれており、明るめの茶髪をしたクラスでもイケイケな方の今時風女子、頭はそれほど良くないが聞いての通りモデルのバイトをしているのか容姿はあのグループにいられるだけのものを持っていた。
「そうか、みんなもどうだ?」
そう周りにも誘いをかける大倉大和。
それに周りも全員返答していたので、ここは全員紹介していこうか.....
「私はパス、走るのとか面倒」
暗めな彼女、名前は 小松 千沙 周りからは訳してコマチと呼ばれており、部活動は確か文化系に所属していたような。黒髪のショート、体格は小柄で冷え性なのかこの時期でも制服の上からジャージを着ていた。
頭はこのクラスではいい方で、俺ほどではないがそこそこにできる。
毒舌なとこがあり、普段はよく授業中も携帯ばかり触っている今時風の女子である。
「私も今日は無理かな、部活は休みだけど父さんとジムで筋トレの予定だから。そろそろ夏の試合が近くて父さんのやる気がすごくて」
大倉の誘いを断った彼女の名は、九導 科未。
高身長にショートヘアーの金髪、活発そうなスポーツ女子の容姿、確かボクシング部所属の十組のアスリート科の生徒だ。
「仕方ねぇ~な 大和がそこまで言うんだったら俺も付き合ってやるか!」
柄間道 翔矢、金髪の如何にもチャラそうな見た目、確か部活動はバスケ部に所属しており、大倉大和の悪友的なポジュションにいる。
あの外見から想像できないが、実はバスケ部のエースらしく、ちゃらすぎる容姿があのメンバーの中ではそれほど女子からの人気もない。
「アヤノんが行くんなら私も行くよ、最近、体動かせてなかったからね」
斉藤 鈴、濃い茶髪にツインテールの萌えキャラで、男子生徒からは高い人気を持っている。温厚な性格でふわふわ系な女子だった。
「さっすが鈴、相変わらず可愛いな〜 ショウグンは、今日部活だっけ?」
「すまない、俺も九導と同じくこの時期のアスリート科は色々と試合のことやらで忙しんだ。俺もそれには参加できそうにない」
こいつの名は、大堂 剛也。
先ほど説明した、九導科未と同じアスリート科の生徒。周りからはまるで戦国武将のような見た目から『将軍』と呼ばれており、部活動は柔道部に所属していた。その体型は柔道という厳しい競技をしているためかとても大きく威圧感があった。顔立ちの方もそこそこ良いためか、女子からは人気があった。
そして、最後に....
「ユキツナはどうする?」
「ねぇユキツナ行こうよ。お願い!」
「え、ユキツナも行くの? だったら私も行くわよ」
ユキツナと呼び合う周りに対して、彼女は周りを取りまとめる立ち位置にいるのか、あまり多くことは話さなかった。
「付き合うわよそれくらい、どうせアヤノは私がいないと直ぐにサボるでしょうしね」
「ユキツナありがとおぉ〜」
ユキツナと呼ばれる彼女。
本名は雪綱星 飛鳥 。
金髪のブロンドヘアーに落ち着いた風貌を見せている彼女は校内でも有名な、この学園一の金持ちだ。
人当たりがよく面倒見がいい姉御肌の持ち主で生徒たちからは絶大な信頼を有していた。
俺は、高校一年の頃、彼女とは同じクラスだったが、向こうは俺のことは知る由もないだろう。
.....当たり前のことだ。
彼女は、姉貴と同じく男子からも人気があり周りから嫉妬される存在であっても、人当たりさえよければ彼女のように周りの中心にいることができるのだと.....
それを俺は、姉貴と従妹に教えたい。
まぁこんな感じで彼らの会話は終わり。
「なぁヤマト、購買部行こうぜ、俺腹へっちまった」
「ショウヤ、お前も最近部活動をサボってるらしいな、聞いたぞバスケ部の先輩から」
「ッギック、えっ!? 先輩から? マジっでか〜 てか先輩らヤマト使うのは反則だし」
「あぁ、その話ならちょうど俺の方にもショウヤとこの先輩から話を聞いたぞ。 ショウヤを部活動に来させてくれって」
「えぇ〜 剛ちゃんまで使うとかマジっそれは先輩らアウトだろ」
「先輩はよくショウヤのことを理解しているんだな。 お前はやる気無くても、いちよバスケ部のエースなんだからお前がいないと練習にならないんだよ」
「えぇ〜 そんなエースとか言われてもマジプレッシャーってかこまるんですけどぉ」
「そんなこと言うなよ、明日からはちゃんと部活に顔出すんだぞ?」
「はぁ〜 ヤマトだけには逆らえねぇ〜よ」
「頑張れ」
そんなことを話しながら、男子らは購買部へ向かっていった。
一方、女子たちはと言うと。
「じゃぁ私はそろそろ教室に方に帰るね」
そう言った、アスリート科の九導科未も教室から姿を消した。
「うんっ ほんじゃねぇ〜」
「ばいなら〜〜」
女子だけになった彼女らは、後も話を止めることはなく男子禁制の女子共の花園が始め出す、俺の危機察知レーダーがビンビンに反応しているのがその証拠だ。
こう言ったクラスの女子らが話すガールズトークは、色々と学内の情報が入手できるため俺にとっては需要が高い。
「それにしても一組の大山ってあいつ絶対ナルシストだよね、狙ってたんだけどな、うんあれはない」
「そうなの? てか私、大山くんとはあんま関わりないしどうでもいい」
「てか、大山君、六組の子と付き合ってるよね?」
「え、そうなの? てか六組の子って誰?」
「んーそれは、ジュース一本でいいよ」
「もぉーそこをなんとか、今月は厳しいのよ!」
ボディータッチは彼女ら女子たちにとってはコミュニケーションの一つだ。
彼女ら問わず、あいつらのようなイケイケの連中らは、口だけではなく肉体で自分の気持ちを表現する。
.....本当に器用だと思う。
「さすが、リンの情報収集はすごいわね」
「えへヘ、それほどでも〜 そう言えばユキツナも黙ってるけど三組の吉塚に告られたんだって?」
「なんで知ってんのよ」
「え、ま!? 三組の吉塚って結構、有名じゃん、それ断るとか流石ユキツナ余裕あるよね」
「.....そんなんじゃないわよ」
「ほんと、ユキツナって男子に興味ないよね?エマミチとか百パーセント、ユキツナのこと狙ってるわよ」
「確かに、でも私はショウヤはないわーうんないない、やっぱりこのクラスならヤマト一択でしょ」
「てか、ヤマトって付き合ってんの?」
「わたしもヤマトのことはほとんど聞かない」
「この際、ユキツナとヤマト、付き合っちゃえばいいじゃん!マジでお似合いだよ!」
「なんでそうなんのよ。 ....別にオオクラとはそんな関係でもないし」
「まぁーでも聞かないとは言ったけど、ヤマトの情報がないとは言ってないんだよね」
「え、なんかヤマト情報あんの?」
「まぁさすがっていうかほんと人気よね。 iiよ、安定択のii 。なんかヤマトすごい夢中で見てたらしいよ」
「なんだ誰かと思ったらiiかよ、ちぇ、ほんとあの人、男子からの人気ぱないよね」
お気付きの通り、iiとは、稲柄 郁音の略だ。
「てかうちらって結構イケイケなグループだと思ってたけど、全員今は彼氏無しとか、寂しすぎぃ」
「でもあの人、見た目いいけど中身は最悪って聞くけどね」
「うんうん、なんか近づきにくいって感じ」
「........そうね」
「.......」
....えらく、姉貴の話になると顔を強張らせる雪綱星であった。
それに何の意味があるのか、俺にはわからなかった。
「なんか、もぉこの際かっこよかったら誰でもいいって感じだわ」
「マチコはそういうのアウト、見た目より中身でしょ、如何にどれだけ私に従順かどうか」
「うわ〜でた、ほんとマチコって普段大人しいくせに裏の顔はドSだよね」
「私はやっぱり優しい人がいいなーもちろん。かっこいい人の方がいいけど、お金持ちで高身長で」
「あはははは.... ゆ、ユキツナは? 男子興味ないけど、ユキツナってどんな奴がタイプなの?」
「......」
「ユキツナ?」
「...え、あ、ごめん。なんかぼーっとしてた」
「大丈夫? 具合でも悪いの?」
「いや、大丈夫大丈夫、それより外行かない? なんか外の空気吸いたい気分」
「お。いいね〜 行こ行こっ」
「それより、ユキツナの好みのタイプは?」
「あんたらには教えない。 教えたらどうせまたからかうんでしょ?」
「からかわないよ〜ユキツナ、私たち友達じゃん!」
「友達でも、特にアヤノあんたは信用できない」
「そんな〜もぉユキツナのいけず」
「行くんだったら早く行こ、広場のベンチ埋まってたら面倒」
「ほらほら、ユキツナ早く立って、レッツゴー!」
「ちょ、押さないで、自分で立てるから」
『ガララララララ』
騒がしい連中が去っていった。
「.......暇だな」
彼女らが消えると一気にクラスは静まり返った、まだ昼休みは45分近くあるというのに....
今日は、いつにも増して暇な昼休みであった。
「.......暇だし、あそこに行くか」
俺は席から立ち上がり、ある場所へと向かう。
行き先は、学内のグランド裏に広がる花園。
しかし、そこは花園と言えるほど綺麗な場所ではなく、昔は園芸部が活動をしており、綺麗な花がたくさん咲いていた植物園のような場所だったそうだが、今ではほとんど手入れがされていなかった。
私立光凛高校は田舎町に建設された一般校、田舎なだけあって無駄に校舎が広く作られていたため、卒業生の中には校内全てを見ることができなかった生徒もいるそうで、それだけ隠れスポットや穴場の場所が多くあった。
その一つがグランド裏の花園。
「.....はぁ、落ち着く」
ここには、決して誰も近寄らない場所。
―――そう、俺は思っていた....