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霧の中から  作者: こま
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《あれがほのが言ってた子?全然可愛くないよ》

「成長したからじゃない?こっちじゃ8年だよ」

《ああ、そっかミストレイユとは違うんだったね》


 ほのかの言葉に使い魔のトトはようやく納得したように頷いた。


「それより、あれは見つかった?」


《まだだよ。ほのは人間の多い方探すんでしょ?上手く潜り込めそう?》

「ああ、うん。なんとかなるんじゃないかな?」

《いい加減だねぇ。そんなんじゃ師匠に怒られちゃうよ》

「師匠はこんな事じゃ怒らないわよ」


 ほのかはトトに適当に返事をすると室内をぐるっと見回す。


《懐かしい?》

「まあね」

《親に会いに行きたいとか思う?》

「別に向こうも会いたくないんじゃない?今行っても化けて出たとか思われそうだし」

《あの子には会いに行ったのに……》

「――それより、早く探しに行きましょう」

《はいはい》


 久しぶりの故郷に帰って来たというのに大した感慨もなく今は空き家になった自宅を活動拠点と定め、お隣が変わってなかった事にホッとした。

 あの小さかった男の子が青年と言っていい年齢になってたのには驚いた挨拶だけはなんとかしたが、心臓がバクバク言っていてうるさい。

 舌足らずにお姉さんと呼ぶ声が変わっていた。背が伸びて大人っぽくなっていた。あの頃の面影はあるものの全体的に大人っぽくなってた少年に少しだけ寂しくなった。

 本当に師匠が言ってたようにミストレイユとは時の流れが違うんだと分かって更に寂しくなったのはトトには内緒。

 わたしがここに帰って来たのは、師匠にある物を探して来て欲しいと頼まれたから。




 ――数日前


 ノックをして向こうから返事が返って来る前にドアを開けたが、わたしを呼んだ人は返事が無ければ入ってはいけないと怒るような人ではないから問題ない。


『師匠、用があると聞いて来ました』


 師匠の部屋はあちらこちらに物が溢れており、どこか雑然としているが、散らかっているとまでは思わないギリギリのラインを保っている。

 師匠は何かを書いていたが声を掛ければすぐに顔を上げてにこりと微笑んだ。ほら、やっぱり怒らない。


『ああ、ほのか。来てすぐ申し訳ないのだけど、君の元居た世界に行ってくれないかな』


 ぴくりと肩が震えたが、師匠に気付かれない程度だったと思う。

 師匠はなんとか言う長ったらしい名前の国立の魔法学園を首席で卒業した後、独立して魔法を使ったお店を開く傍らで、わたしのような外(他の世界)から来た人を保護したり、ミストレイユでの暮らし方を教えてくれたりしているこちらでは、変わり者らしい。

 外から来た人たちは、こちらの世界へ色んな情報をもたらして帰る者も居ればわたしのようにこちらに残る事を選択する者も居る。


『それで、何を探すんですか?』

『ああ、うん。卵を探して来てください。もちろん市場では買えませんので』


 市場でと言いかけたのがバレたのか、師匠に先に釘をさされてしまった。


『聖獣の卵がほのかの居た世界に紛れ込んでしまったらしくてね』

『聖獣?』


 初めて聞く単語にやはりゲームのような世界だなと場違いな感想が生まれる。


『はい。この世界は――』

『あ、長くなるなら説明は要らないです。その卵は普通の卵とは違うんですよね?特徴は?』

『……そうだね。大きさは手の平に乗るぐらいで色は白いけど、ほんのり七色に光るね。多分ほのかの世界じゃ珍しいから見つかってたらすぐに話題になるかもしれませんねえ』

『じゃあ、人の多そうなところなら情報を集められそうですね』


 すぐに荷造りしてきますと言うほのかに師匠が待ったを掛けた。


『ほのか、まだ話は終わってませんよ。座ってください』

『すみません』


 逸る気持ちを抑え師匠に促されるまま座ると師匠に良いと言うまで動かないようにと念押しされてから師匠が話し出した。


『聖獣の卵を狙う密猟者もあちらに渡っているとの情報をもらいました』

『!』

『密猟者があちらに向かった事で何があるか分かりませんので、くれぐれも注意してくださいね』

『はい』

『ほのかの無事を祈ってます』

『はい』

『ああ、そうだ!うっかりしてました。あちらに行くのでしたら君がいつも言っていた少年に会えたのなら、写真でしたっけ?あれ撮って来てください』

『え、何でですか』

『決まってるじゃないですか、君が可愛がってた子を見たいからですよ。もう行っていいですよ』


 言いたい事は言ったので、もう用はないとばかりの師匠に嫌だと反論する暇もなく部屋を追い出された。


『もうっ!トト!トト!』


 部屋の前で悪態をつき、ドアを蹴るとすぐさまトトを呼び出し、荷造りをして、こちらへと霧が立ち込める湖を渡ってもう戻らないと思ってた場所に再び戻って来た。

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