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「〜♪」
少女は歌う軽やかに。
《ねぇ、そろそろ》
「分かってる。でも、せっかく久しぶりに帰って来たからもう少し楽しみたかったな」
歌っていた少女は自らの使い魔に答えるとビルの屋上を後にした。
―――
お姉さんが居なくなってから8年が過ぎた。俺は16歳になり市内の高校に通っている。
お姉さんが居なくなってしばらくしてお隣はお姉さんの捜索をやめて引っ越してしまった。風の噂によるとお姉さんの両親はお姉さんの存在をなかったものとし、とっとと離婚してそれぞれ好き勝手に生きているんだとか。
最初聞いた時はなんて奴らなんだと怒りそして呆れた。
あれから8年経ったけれど、俺はお姉さんは湖の世界に消えてったと例えメルヘンと言われても信じて湖に通っている。
両親は俺に通うのはやめて欲しいと思ってるみたいだけど強くは言わない。が、お姉さんの話題はしないで欲しいみたいな雰囲気は漂ってるし、俺からもする事はなくなってる。
今日は運良く霧が出ると天気予報でしてたので、いそいそと湖に向かったんだ。だけど、いつもと同じだと思ってた今日はいつもと違ってた。
「――ねぇ、そこのあなた」
「え?俺?……っ!」
振り返ってびっくりした。見た事ある顔より大人びては居るが見覚えのある顔。聞いた事ある声。髪が伸びた大人っぽくなったと思うのは記憶の中より目の前の少女が少し成長してるのだろうか?
あの頃は俺の背は今と違ってかなり低かったからお姉さんの背がどのくらいだったのかよく覚えてないんだけど、多分このぐらいと言われればこのぐらいだと思う。
そして、お姉さんの足元には何故か黒い猫が居る。首に赤いリボンを巻いてるからお姉さんの飼い猫かもしれない。
「お、おねおねおね……」
「君、隣の子だよね?ちょうど良かった。わたし隣に越して来たばかりで挨拶に来たの。桜崎 ほのか18歳よ。よろしくね」
舌が上手く回らず、お姉さんが喋っている間も意味もなくせわしなく動いていた動きを止め、お姉さんを見つめる。
待て。お姉さんは今なんて言った?それを確認する前にお姉さんは言いたい事は言い終えたとばかりに他にも挨拶に行くからと立ち去ってしまった。
俺は自分が見た事が理解出来ず、一旦家に引き返し朝食の準備をしていた母さんを捕まえて色々尋ねようとしたが、母さんを見た瞬間にその意思は萎んでいった。
そうだった。母さんは俺がお姉さんの話をするのは嫌がるんだった。
中途半端なところで立ち止まった俺を見て母さんは不思議そうな顔をしていたが、俺はなんでもないと言って部屋に戻った。
部屋に戻ってすぐにカーテンを開けてお姉さんの家を見れば、昨日までと違い家の換気の為にか窓が開けられ、花柄の可愛らしいカーテンが気持ち良さそうに風にはためいてる。
「お姉さんなんだよな?」
でも、年が違う。見た目は記憶の中のお姉さんとは少し違うような気もするけれど記憶なんて曖昧だ。あれから何年も経ってるから記憶が違ってたっておかしくはないが。
残念ながら当時のお姉さんと写真なんて撮ってないので、お姉さんの写真があるところ……どこだ?当時の新聞とかに載ってないだろうか?となると――
「……図書館?」
図書館にならあるだろうと安直に考えて部屋を出る。
その際あの子がお姉さんと別人だとは考えないようにして母さんに図書館に行ってくると告げた。
書いていて少年がス○ーカーに見えた