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俺が住んでいる部屋の和室にダンジョンが沸いた

作者: はらくろ
掲載日:2016/11/09

 ここ数年、テレビのニュースを賑わせているのが、あちこちに出現しているダンジョンである。

 ダンジョンというは、本来城などの地下に造られた監獄や地下室のことを指す言葉だった。

 一部の漫画や小説、ゲームなどでは地下迷宮を指すこともある。

 ニュースで騒がれているダンジョンというのは地下迷宮の方であった。

 一軒家の庭先にある朝突然現れた坑道や、学校の校庭に登校すると大穴が開いていたなど。

 そのダンジョンから貴重な鉱石が見つかったり、魔物と呼ばれる人間ではない生き物も出るものまであるそうだ。

 魔物の出ないダンジョンは基本、その土地の所有者に権利が発生する。

 今までで言うところの、温泉が湧いてウハウハになった、みたいなものである。

 だが、魔物が出るということが解かると、市町村が強制的に市価で買い上げることになる。

 そのダンジョンはある一定の技量を認められ、免許を得たものだけがなれるといわれている探索者という職業の人だけが潜ることを許される公営ダンジョンになると言われている。

 探索者とは、国の育成機関で一年学び、試験に合格したものだけが取得できると言われている一攫千金の可能性を秘めた免許であった。

 中には魔物だけでなく、どこに繋がっているのかは不明だが、この世界の住人ではない人間と遭遇することがあった。

 その人間が来た先は異世界だと言う説があり、友好的な世界であった場合、その世界と国交を結ぶことがあるらしい。

 この世界の人口は年々増え続けており、埋蔵されている資源も近い未来枯渇するだろうと予測されているから、国としても慎重に進めざるを得ないのだろう。

 ダンジョンの先が異世界と認定された場合、その地域は閉鎖され住民は守秘義務の約束をさせられる。

 その後、探索者となるか、ここにいたということを口外しない約束をして指定された地域へ移住させられるかの選択を迫られるという。

 最低限の生活は保障されると言われているが、そうなると、今までの生活は出来なくなってしまう。

 ダンジョンが発生したからといって、無断で入ることはできない。

 役場へ申請して、そのダンジョンが魔獣が出ないか、先が異世界に繋がっていないかを審査してもらわなければならないのだ。

 その審査により、魔物や他の世界の人が存在しなければただの洞窟なのだから、土地の所有者へ権利が約束される。

 もし人が存在していたらそのダンジョンは異世界と認定されるというのだ。

 もし無断で踏み入れたことがバレてしまうと、強制的に探索者になるべく育成機関へ入れられてしまう。

 そんな風に、国から細かくガイドラインが設定されているのだった。


 アパートからゴミ袋を持って出てきたこの男、住田奉すみた みつぐは、二八歳になるダンジョン探索には全く興味のない普通のサラリーマン。

 毎日通勤ラッシュに遭いながらも地味な生活を送っていた。

 なぜ探索者にならないかというと、探索者は危険な職業なのだ。

 収入も増えるチャンスがあるのは間違いないが、魔物に襲われて死んでしまうことだってある。

 重火器を使って魔物を倒せばいいと思われがちだが、倒した魔物もまた貴重な資源なのだ。

 ボロボロにしてしまっては収入に結びつかない。

 だから探索者が所持を許されているものは、剣、弓、二二口径の短銃など。

 もし魔獣に殺されてしまっても、国は保証はしてくれない。

 せいぜい生命保険くらいだろう。

 その生命保険も探索者だと受け取れる金額が少ない。

 危険性が高い故に、掛け金も高く、受け取れる金額が少ない。

 そのため、医療特約のついているものに加入するのが一般的だった。

 武術や格闘技の経験のない奉は、探索者になることなど考えられないのだった。

「あら、住田さん。おはようございます。これからご出勤ですか?」

「三好さんおはようございます。これから出勤ですね。杏奈ちゃんもおはよう」

「おはよー、すみたのおじちゃん」

「あははは、まだ三〇前だからお兄ちゃんだと思ってるんだけどね」

「これ、杏奈。お兄ちゃんって言いなさいってあれほど」

 この女性は同じ一階で隣の部屋に住む三好環奈みよし かんな

 彼女は奉より三つ下の二五歳。

 娘の杏奈あんなは今年四歳。

 探索者だった夫を去年の冬にダンジョンで亡くしている。

 夫以外の身寄りもなく、葬儀でぽつんとしていた環奈を見ていられなくなり、何かと手伝っていて少しだけ仲良くなったのだ。

 亡くなった夫も身寄りがなかったため、今は女手一つで杏奈を育てている。

「いいんですよ、今日も元気だね。これから幼稚園かな?」

 しゃがんで杏奈の頭を撫でる奉。

 目を細めて気持ちよさそうにしていた杏奈。

「うん。そうだよー。これからようちえんにおつとめしてきます」

「じゃ、俺も行ってくるかな。今日もお勤めご苦労様です、杏奈ちゃん」

「うむ、よきにはからえ」

 杏奈は時代劇が好きみたいで、セリフを最近真似するんだそうだ。

「「あはははは」」

 環奈は奉に寄ってきて、ネクタイに手を伸ばした。

「住田さん、ちょっと待って。ネクタイ曲がってます」

「あ、す、すみません」

「あら、私ったら」

 二人とも顔を赤く染めてしまう。

「ままもおじちゃんも、らぶらぶだー」

「ば、馬鹿、そんなんじゃありませんっ」

「いや、その、すみません。では行ってきます」

「はい、いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい、おじちゃん」

 奉も環奈に惹かれている。

 環奈も優しい奉に悪い気はしていないはずだ。

 まだ交際には発展していないが、月に数回杏奈を連れて遊びに行くくらいまでは進展しているのだった。


 そんな奉にとって楽しい毎日が、その日の夜終わろうとしていた。

 終電で帰ってきた奉は、部屋の鍵を開けて中に入っていく。

 そこは異様な雰囲気が漂っていた。

 よく見ると和室の真ん中の畳が外れかかっていた。

 まだ残暑厳しいはずなのに、畳の隙間からは少し冷たい風を感じた。

 恐る恐る畳を持ち上げてみる。

 そこには噂に聞いていたダンジョンの入口らしき洞窟が広がっていた。

「えっ? これって……」

 そのときである。

 GAAAAAAAAAA!

 何かの雄叫びのような音と。

「がlkhhrぎおあ:hg:rうぃおあh!」

 言っていることはまったく解らないが、男の人らしき声が聞こえた。

 どこの国の言葉にもないような、聞き覚えのない言葉に聞こえる。

 慌てて畳を元の位置に戻す奉。

 そこで奉は考えた。

 今の声が魔物に襲われている、もしくは襲いかかっている人の声だったとする。

 そうすると、この先は異世界認定されてしまうだろう。

 そんなことになったら、今までの生活がおかしくなってしまう。

 まだ環奈にちゃんと告白していないのだ。

 杏奈だって奉に懐いてくれていると思う。

 そんな生活を捨ててまで審査に回すべきだろうか。

 間違いなく、ここに住めなくなる。

 環奈と杏奈とも離れ離れになってしまうだろう。

 奉にとってデメリットしかないこの状況。

 天秤にかけた結果。

 奉はそっ閉じすることにした。

「見なかったことにしよう……」


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